映画
続けてウィル視点です。
「えーゴホッゴホッ、今日は弍ノ国が舞台のゴホッ、映画を鑑賞しようかのうゴホッ!」
この先生は相変わらず話にちょくちょく咳が混ざる。
「今からゴホッ見るのは『満開の日に』ゴホッという映画でのう。弍ノ国の特徴である大自然をゴホッ、舞台にしているから弍ノ国を知る上でゴホッゴホッ、たいへん勉強になるんゴホッ、じゃ」
それから先生は咳を時々混ぜながら前に巨大なスクリーンを出した。
なるほど、この大きさなら一番後ろでも見える。
「なんかワクワクするねー!」
「だな!」
電気が消え本格的な雰囲気になった。
「はぁ、もう、静かにしなよ」
と、騒ぐいつもの三人組が一人かけていることに気付いた。
「……ティナ?」
隣で口を半開きにしてボーッとしている少し青白い顔の彼女に声を掛けると、二度目の声掛けで反応が返ってきた。
「っうん、ウィルどしたの?」
「いや……ティナ、大丈夫? なんか意識飛んでたけど」
「あはは! いやー、昨日夜更かししちゃったからからなぁー、今日はちょっとボーッとするかも」
「やっちゃった」と大して反省していない顔で言った。
「そんなことしてっから机の角に足の小指をぶつけるんだっつーの」
「ちょっ、それ言わないでっ! 思い出しただけで小指が疼く……!」
「ティナちゃんー、よっぽど痛かったんだねー」
痛さを思い出したのか半泣きのティナを少し目を細め見た。
***
『お願い! 一人ぼっちにしないで!!』
『っごめん、でも君を戦場に連れていくことは出来ない……っ』
映画のクライマックス、村同士の戦争で周りの大切な人達を次々と亡くしていった主人公が唯一戦場に駆り出されていなかった恋人を戦場に送り出すシーン。
寝てる人もいればハンカチを取り出し号泣している人もいる。
ロトなんかはまさにそうだ。
ズズっと鼻をすすりスクリーンを食い入るように見ている。
そんなロトに感化されて少し泣きそうになっているセオは本当に見ていて面白い。
ルーナは言わずもがな退屈そうに見てるけど。
「……っ」
ふと隣を見ると、ティナが静かにポトリ、ポトリと涙を流していた。
いつものティナからはかけ離れたその泣き方は俺の頭を一瞬真っ白にさせるのに十分な効力を持っていて、俺は久しぶりに戸惑った。
「……、」
名前を呼ぼうと思って、やめた。
声を掛けたところでどうして泣いているのか分からない俺にはティナに掛ける言葉が見つからない。
ティナがロト達のように単に映画に感動して泣いてる訳じゃないことぐらい見れば分かる。
分かるのになぁー……。
ねぇ、ティナ、どうしてそんな顔して泣いてるの?
電気が点くまでそんな質問を口の中で転がしては飲み込んだ。
***
「……いやー、 感動したねー!」
「俺的には感動モンよりホラー映画見たかったけどな」
「とか言って泣きそうになってたくせに」
「てめっ、ルーナ! バラすんじゃねーよ!!」
三人のコントを横目にティナをチラリと見ると、少し赤い顔でボーッと騒がしい三人を見ていた。
顔が赤い? そう言えば映画見る前は少し青白かったような……。
これってもしかして……。
「ティナー……」
「シーナさんー!! 今日提出のプリントまだ出てないよー!」
クラスの委員長が教卓でプリントをまとめながらティナを呼んだ。
「あっ!! ごめん! 今出すー!」
委員長の大声にハッとし、ティナは鞄からプリントを取り出し慌てて立ち上がった。
と、音を立てて立ち上がったティナの身体がグラリと前に傾いた。
「ティナちゃん!!」
「おいっ!」
「危ない……っ」
「……っ!」
咄嗟にティナの前に腕を伸ばし今にも地面に倒れそうな身体を支えた。
「ティナ!」
名を呼ぶと「うっ……」と小さく苦しそうな声が聞こえた。
「熱い……」
「ティナちゃん! ティナちゃんー!? え、何ー!? ウィルくん、熱いってどういうことー!?」
「ロト、お前ちょっと落ち着け」
目を見開いていたセオが、ビシッとテンパるロトにチョップをかました。
「いてっ! ご、ごめんー、ちょっとビックリしちゃってー……」
「ウィル、熱いって、ティナ熱あるの?」
「うん、多分。この熱さ、結構な熱があるんじゃないかな」
ティナを横に抱きかかえ、そう答えた。
それから、心配そうな顔のロト達に「保健室に連れて行く」と伝え、騒然とする教室を出た。
いつも咳が混ざる先生の授業って絶対集中できないと思う。




