独り
「部活何入る?」
あるキラキラと海面が太陽の光で輝く日の放課後、教室の掃除当番に当たり箒で床をはいていると、同じく掃除当番のソフィアにそう聞かれた。
「えっ、部活って皆入んなきゃダメなの!?」
「そうよ、先生言ってたじゃない。
何かには絶対入れって」
えぇー! そんなの聞いてない!!
「ぅわぁー、だから皆この前の部活動説明会に行ってたんだ……」
そう落ち込む私にソフィアは「バカね」と言った。
うっ、ごもっとも……!!
「……仕方ないわね、後でティナの興味ありそうなとこ厳選して紹介してあげる」
ため息を吐きながらもそう言ってくれたソフィアに私は思わずガバッと抱きついた。
「ソフィアのそーゆうとこ大好きっ!!」
「分かったから離れて、暑い」
「ウッス」
ガチな顔で言われた。
***
「んー……でもやっぱ文化系のがいいなぁー」
掃除を終え、誰もいない今日室でソフィアと二人部活のパンフレットを広げながら話をしていた。
「運動神経いいのに?」
あの試合のことを言っているんだろう。
「や、運動するのはいいんだけど、運動場を何周とか、走り込みが本当に嫌いでさー」
「そんなことだろうと思った」
呆れたようにそう言うソフィアにえへへ、と笑っておいた。
「あ! ね、ソフィア、これ面白そう!」
そう言って指さしたのは『創造部』という文字だった。
「創造部? 創造部は確か部員全員で一つの作品を一から作り上げる部活だったはずよ」
一からとか! やってみたい!!
「私、今から創造部の見学行ってくる!」
「ええ、創造部は美術室で活動してるわよ」
「ありがとー!!」
それから「雰囲気が良かったら入ろうと思ってるの」と言ってバトミントン部が活動している体育館に向かったソフィアと別れ、私は別館にある美術室へと向かった。
あ、待って、一つ問題あったの思い出した。
「び、美術室ってどこぉー!?」
忘れてた。
私方向音痴じゃん……!!
「うわぁ、やっちゃった! ソフィアに近くまで送ってもらえば良かった……」
そう後悔してももう遅い、ソフィアは今頃体育館だろう。
「……あの、大丈夫ですか?」
近くの花壇の雑草をブチブチと抜きながらこれからどうしようかと考えていると、後ろから控えめな声を掛けられた。
「うぇ!?」
あ、やべ、驚きすぎてお花抜いちゃった。
「あっ、ごめんなさい」
「いやいや、こちらこそ大声出しちゃってー……て、エリザさん?」
慌てて抜いたお花をそっと地面に植え直しながら、相手の顔を見て少し驚く。
「え、あ、シーナ様……?」
エリザさんも驚いた目で私を見つめる。
「あのー、その様付けはちょっと止めません? あ! 敬語も! ……クラスメイトだし」
「あっ、うん、分かった」
少し嬉しそうに頷くエリザさんに私は思わず笑が零れた。
と、突然エリザさんが周りをキョロキョロと見渡した。
え、何何!? どうした!?
私もエリザさんと一緒にキョロキョロと周りを見渡していると、エリザさんがガバッと私に頭を下げた。
「この間は本当に迷惑をかけてごめんなさいっ」
突然の事に私はその場でポカーンとマヌケな顔で突っ立っていることしか出来なかった。
「シーナさんが一人になるタイミングが中々見つからなくって、こんなに遅くなってしまって本当にごめんなさい……」
どうしよう、シュンとするエリザさんが叱られている小動物に見える。
ヤバイ、ぎゅってしたい。
でもやったら絶対に、確実に引かれる。
心の中で葛藤をしていると「あの……?」と上目遣いでコッチを見るエリザさん。
ちょっと待てよぉー! 私、今頑張ってるから、本当ヤメテッ!?
天を仰ぐ私に何を思ったのかエリザさんは途端、慌てだした。
「あ、あのっ、えと、そんな変質者みたいな意味じゃなくって、私と居るところを誰かに見られたりしたらティナさんも巻き込んじゃうと思ったからで、そのっ……」
後半になるにつれて段々声が小さくなっていく。
……そういうことか。
確かにエリザさんと一緒にいるところをエリザさんを窓から突き落とした彼女達のような人に見られたりしたら私も標的にされるのは目に見えている。
だけどさぁ、そんなこと言っちゃったらエリザさんは……、
「エリザさん、エリザさんは何の部活に入るの?」
「えっ!? えっと、特に決まってないよ?」
突然の質問に戸惑いながらもちゃんと答えてくれるエリザさん。
あぁ、もうなんかエリザさんがこの世界のヒロインとか、私は悪役令嬢なんだとか、どうでもよくなってきたなぁー。
「私はね、創造部に入ろうと思ってるんだー!
でも、肝心の創造部が活動してる美術室が見つからなくって今困っててさ、エリザさん美術室がどこにあるか分かる?」
「うん、分かるよ?」
「本当!? ならさ、美術室に連れて行ってくれたり出来ない!?」
そう言ってエリザさんを見れば、困った顔をして黙り込んでしまった。
「エリザさん、お願いっ!」
エリザさんの手を取り懇願する。
その時、少しエリザさんの制服の袖が捲れ、腕からいくつか赤い細い線がチラリと顔を出した。
窓から落ちた時に出来た傷だろうか。
女の子なのに……。
それから私達は「あの……近くまでなら」と言ってくれたエリザさんと一緒に美術室へと向かった。
***
「あの建物が美術室だよ」
そう言ってエリザさんが指さしたのは壁に所々絵の具がついている木造の建物だった。
そして、その建物の周りは木だらけ。
こんな所に立っていると忘れそうになるけどここ、船の上だよね?
少し不安になり上を見上げれば風を受け止めている帆が見えた。
あ、良かった、船の上だ。
「あそこが美術室か、これは私一人じゃ絶対たどり着けなかっただろうなぁ……」
少し遠い目をしてそう呟けば横でエリザさんが「ふふっ」と少し笑った。
え、何この子、笑顔可愛すぎじゃない?
ソフィアとはまた違う男を悩殺する笑顔に私は言わずもがな悶絶した。
「じゃあ、私はこれで」
そう言って笑顔を引っ込め、そそくさとこの場を離れようとするエリザさんの腕を掴み「待って、待って!」と慌ててストップをかけた。
「まだ特に入る部活決まってないんだよね?
なら、興味がらあればだけどエリザさんも創造部に入らない?」
「ごめんなさい、創造部に興味ない」
振り返ることもせず、そうキッパリと言い放った。
「……そっか、引き止めてごめん」
スルリとエリザさんの腕から手を離す。
「……」
「あ! 今日、案内してくれてありがとー!!」
一度もこちらを見ることもせず、もと来た道を戻って行くエリザさんの小さな背中にそう大きな声でお礼を言った。
***
「はぁーっ、やっぱダメかぁ……」
エリザさんの姿が見えなくなった後、息を吐き出す。
本当に周り木しかないな。
自然だ。
「……何やってんだろ、私」
エリザさんは私のこと心配して自分から一人になってるのに、部活に誘ったり、案内頼んだり……。
「ほんと何やってんだろ」
エリザさんはこの世界でのヒロインなんだからきっと攻略対象のウィル達に助けられることになるんだろう。
私が気にすることなんて何もない、のに。
にしても本当にちゃんとシナリオ通りに皆エリザさんを助けるんだろうか……?
私というイレギュラーな存在がいることで何かしら変化したりしちゃわないだろうか……?
今回みたいな悪役令嬢であるティナ=シーナを美術室へ案内するなんてイベントみたいなこと、シナリオには無かったんじゃないかな?
本来ならエリザさんが声を掛けてきた時にめっさ冷たく追い払わなきゃダメだったとかさ。
まっ、ゲーム最後までやってなかったから分かんないけど。
取り敢えず、皆が早くエリザさんを救うことを願っておこーっと。
そう思い私は美術室の中へと足を進めた。
━━━あの時皆が動き出すのを待つなんて悠長なことをしていなければ……。
そう後悔する時がやって来るのはもうすぐ。
エリザさんってあれだよね、守ってあげたくなるようなタイプ。
と、なると、ティナってどんなタイプだろ?




