意外
「えぇー……ゴホッ、今日の社会の授業からは次に上陸する予定の弐ノ国についての勉強をしようかのぉ、ゴホッ。
では、教科書をっゴホッゴホッ、開くのじゃ」
死にかけのお婆ちゃんだ。
「ティナ、そのAEDどこから持って来たの?」
そう言ったのは隣に座るウィルだ。
社会の時間はペアで座らなくてはならないのだ。
「あははー! 本当だー、それ本物じゃんー!」
いや、ロト前向きなさい、授業中。
「ちょっと、ロト何やってんの、前向きなよ。
あと、ティナそれ勝手に持って来たらダメだと思うけど」
最後にちゃんとツッコミを忘れないルーナン。
さすがだ。
あの体育の総当たり戦以来、私がウィル達と話していても誰にも文句を言われなくなっていた。
「や、なんか危なそうだからいつ何が起こっても大丈夫なようにしておこうかとー」
「何も起きないから」
呆れた口調でそう仰るルーナさん。
デスヨネー。
……というか、さっきからずっと思ってたんだけど、
「ね、セオは一体どうしたの?」
ロトの隣に座り、二人のように後ろを向かず真っ直ぐ先生の方を見て授業を受けるセオが不気味で仕方なかった。
「あははっ、不気味かぁ……確かにね」
「こー見えてもセオくん真面目だからー」
「二人とも後でセオにしばかれても知らない」
「ちょ、ルーナン、そこは助けてー!?」
焦り出すロトとクスクスと楽しそうに笑うウィルにルーナンは絶対零度の視線を投げ、ため息を吐いた。
「いいから早く前向いてよね」
取り敢えず、ロトに前を向かすことにしたらしい。
「えぇー……」
プクゥと頬を膨らませるロト。
「本当だよ、ほらセオを見習って」
私もルーナンに便乗して前を指した。
「やー、だってそうは言っても僕ら王族は各国の知識なんて全部頭に入ってるしー、ねー?」
「まぁね、何度も教育係に叩き込まれたし」
「そうだね、けどセオはその何度も聞いた話をきちんと聞くもんだから、セオを見習わなきゃならないのは確かかもね」
そう微笑んで言うウィルに私は開いた口が塞がらなくなった。
「、てことは今この五人の中で一番必死にこの授業聞かなきゃならないのって私じゃん……!!」
「あ、気付いちゃったー?」
ロトのほっぺを抓りたくなった。
何なんだよっ! 邪魔してるだけじゃないかっ!
散れっ散れっ。
「そうだ、弐ノ国ってロトの国だよね?」
くそぉー! と小さいモニターに映る先生に意識を向け、お婆ちゃんの授業をしっかり聞こうと意気込んでいる私を横目に、ウィルは少し楽しそうに未だ後ろを向いている橙色にそう聞いた。
「うんー、そうだよー!」
「ロトから見てどんな国? 弐ノ国って」
首を傾げウィルはそう聞いた。
「んー、そうだなぁ、一言で言っちゃえば自然豊かな国かなー。
どの家も庭とかに植物を植えすぎて、その蔓とかが家に巻きついてるしー!」
「すっご! それは見てみたいっ!!」
いつの間にか私の意識はお婆ちゃん先生の話そっちのけで、ロトの話に吸い寄せられていた。
「でねでねー、弐ノ国では雨の日は皆、青一色の傘しかささないんだー。
これ、昔から続いてる弐ノ国の風習なんだよー!」
「そうなの!? 何それ、すっごい!!」
***
「お前らうるせぇ」
「「スミマセン」」
チャイムが授業が終わることを告げて鳴り終えた瞬間、私とロトはセオの前にその場で正座をされられた。
「お前ら授業中だってこと忘れてんのか? 忘れてるよな? え?
じゃなきゃあんな騒げねぇもんな?」
「「ゴメンナサイ」」
素直に頭を下げる私達。
……ていうかさ! 何で私とロトだけなの!?
ウィルとルーナンは!?
そう聞けば「アイツらはいいんだよ」と一蹴された。
え、ちょっ、理不尽っ!!
「何言ってんの、基本騒いでたのは二人だけでしょ。巻き込まないでよ」
た、確かに……!
「でもさー、そーは言うけど、セオくん実際のところ集中力凄いから僕らが横で騒いでたって関係なくないー?」
ロトのその言葉に思わず「は?」と零した。
「まぁな」
ちょっ、はぁ!?
あっけらかんとロトの言葉を肯定するセオに思わず立ち上がる。
「うぉっ! いきなり立ち上がんなよ、ビビるじゃねぇか」なんて言うセオを無視してロトを見る。
「ちょっ、それ知ってたんなら早く言って!?
無駄に謝っちゃったじゃん!」
そう言った瞬間「無駄ってなんだ」とセオに叩かれた。
この人私のこと女子と認識してなくね?
ふつーか弱い女子を叩くか?
「は? か弱い? どこにいんだよ」
わざとらしくキョロキョロと周りを見渡すセオにイラッとした。
「やーゴメンー」
ペロッと舌を出す。
ロトがやると様になるのは何故だろう。
「セオと随分仲良くなったんだね」
「屋上行ってくる」と言って教室を出て行ったセオを見送りながら、ウィルがそう言ってきた。
「んーでも、面と向かって『気に入らねぇ』って言われたけど」
あれ、何か思い出したらちょっと腹立つな。
「それ、セオに言われたの?」
瞳を見開きながらそう確認してくるウィル。
ウィルだけじゃない、話していたロトもルーナンも口をとめ、驚いた顔で私を見る。
「う、うん」
戸惑いながらも頷く。
「そっかそっかー」
うんうん、と満足そうに頷くロト。
「へぇー、あのセオが……」
意外そうに私を見るルーナン。
「あははっ」
楽しそうに笑い出すウィル。
えー、ちょっとなんか付いていけないんだけども。
「ティナちゃんはさー、セオくんの『気に入らない』の本当の意味知ってるー?」
「本当の意味?」
「そうー! 知りたいー? あのねー……」
「セオの『気に入らない』はその逆の『気に入った』ていう意味」
「ルーナンー!? それ僕が言いたかったのにー!!」
「サッサと言わないから」
「わざとなのー! わざとタメてたのー!」
「うるさい」
セオの『気に入らない』は『気に入った』なのか……。
セオに対する腹ただしさが段々消えていくのを感じる。
なるほど、セーちゃんもツンデレだったのね。
「ティナのこと気に入ってるのはセオだけじゃないよ」
セオのツンデレ疑惑が私の中で浮上していた時、隣に立つウィルにそう言われた。
「ウィル?」
「ロトもルーナも……もちろん俺も」
顔を覗き込み、妖艶に笑うウィルに私はズサァーッと距離を取った。
「ちょっ、まっ」
ウィルさん、そのフェロモンお願いだからしまって……!!
私、それ免疫ないんだからさぁ!!
ほら見てよ! 周りにいた女の子達がウィルのフェロモンにあてられて次々と倒れていってるじゃないかっ!
そうウィルに言っても、当の本人は楽しそうにクスクスと笑うだけ。
心臓がもたんっ!!
ウィルは一体どこで色気を取得したのだろうか……その答えは誰も知らない。




