体育-2-
「お願いします」
「お願いします!」
ウィルと向き合ってお辞儀する。
「ティナ、本気出してね?」
顔を上げ楽しそうにそう言った。
「じゃあウィルは本気出さないでね?」
負けずにそう言い返す。
「そう言うと思った」
クスクスと笑い、ウィルは背を向け、少し離れた所で立ち止まった。
私も彼に倣い移動する。
「ふぅー……よし」
深く深呼吸をして前を向く。
『では最後の試合を始める』
ビーと鳴った瞬間、二人とも地面を蹴って駆け出す。
キンッと金属同士がぶつかる音がした。
あぁ、これこれ。
ウィルと剣を交わらす時、いつもこんな風にいい音がするんだ。
━━━試合はまだ始まったばかり。
◆◆◆
「……は、ははっ」
目の前で繰り広げられている光景に思わず乾いた笑いが漏れる。
まじかよ、俺とウィルとで戦った時と同じぐらい速いんじゃねぇの、これ。
「セオくんっー!!」
「セオ!」
さっきまで姿が見えなかったロトとルーナが駆け寄ってきた。
「お前らどこ行ってたんだよ」
「怪我してた子を保健室にー! って、そーじゃなくってー!」
「ウィルと戦ってるのってあの子だよね? 」
さすがルーナ、理解が早い。
「てことは、ウィルくんが言ってた『すぐ分かる』って、この事だったのかなー?」
「多分な」
本当にやってくれる。
これじゃあ、アイツの評価を変えざるを得ねぇじゃねぇか。
『勝負あり! そこまでっ!』
暫く剣のぶつかり合いが続いた後、女が足を滑らせ、勝負が決まった。
ウィルの勝利だ。
◆◆◆
「はぁーっ! 疲れたー!!」
放課後、皆が部活動の説明をホールで聞いている間、私は中庭の芝生に寝転がり大きく伸びをした。
「おら」
突如額にヒンヤリとした冷たさを感じた。
「ぬぉ!?」
ガバッと身を起こすと、烏龍茶を持ったセオの姿があった。
「もっと女らしい反応出来ねぇのかよ」
ケタケタと笑いながら烏龍茶を投げた。
「え、いきなり失礼……て、何これ」
烏龍茶をキャッチし、そう聞いた。
「やるよ、俺様の奢りだぜ? 喜べ」
「ワーイ」
「素晴らしく棒読みだな、おい」
喜べって言ったから喜んだのにー。
「……にしてもお前あの試合惜しかったな」
私と同じように芝生の上に腰を下ろしながらそう言った。
「ほんっとに!! あともうちょいだったんだよ!? 初めてウィルに勝てると思ったのにさぁー!!」
あんだけウィルと手合わせしてて一度も勝てたことないってどうよ!?
そう熱弁すると「分かった、分かったから落ち着け」と宥められた。
「周りのヤツらビックリしてたぜ? こんなちんちくりんが、あのウィルと互角に戦ってたからな」
「ねー、セーちゃん、ちんちくりんって誰のことかなー?」
「は? お前以外いなくね? つかその呼び方ヤメロ、鳥肌たったわ」
よし、その青い髪を綺麗な虹色に染めてやる。
「ちょっ、悪かった! 悪かったから虹色だけは勘弁しろってっ!!」
**
「ね、てゆーかさ、セオは、説明会行かなくていいの?」
「あ? あんな面倒くさいもんに俺が行くと思うかよ」
……思わない。
「じゃ、ウィル達は?」
「さあ? 行ったんじゃね?」
まぁなんてテキトーなんでしょう。
「んだよ、じゃあ、お前は何で行かなかったんだよ」
「え、そりゃあ面倒くさかったから」
「一緒かよっ」
「てへ」
「お前のテヘペロの顔の破壊力、凄まじいな」
「あ、可愛すぎて?」
「……そのポジティブシンキング俺にも少し分けて欲しいわ」
ん? あれってー……。
セオとそんなどーでもいい言い合いをしていると、私達がいる中庭から見える二階の教室の開いている窓に五人の人影を見つけた。
「ー……!」
「ーー!」
「ーー……!?」
「ーー」
「きゃ……っ」
四人の怒鳴り声と一人のか細い叫び声が聞こえたと思ったその瞬間。
か細い叫び声を上げた人が誰かに肩を押されバランスを崩し、窓の外……今私達がいる中庭へと落ちてきた。
「あぶなっ!!」
私は反射的に落ちてきたその人の下敷きになり、受け止めようとした。
「……っ!?」
地面と落ちてきた子に挟まれる痛みを覚悟したが、一向にやってこない。
うっすら目を開け、自分の身に起こったことを確認すると、私の腕の中には意識のないエリザさん。
そして、私を抱えるようにして下敷きになっていたのはセオだった。
「……セ、オ……?」




