体育-1-
「本当にバカよね。どうして初日から寝坊するのよ」
「うっ……だっ、だって」
「爆笑だろ!」
「ちょっ、そんな笑わなくってもいいじゃんー!」
「はぁ、初日からとか……さすがロト」
「あー、ため息吐くと幸せ逃げるよー?」
「ロトらしいね」
「えっ、それ褒めてないよねー!?」
休み時間、私はソフィアにそう怒られていた。
そしてその斜め前にはロトがウィル達におちょくられていた。
***
「次はネカル先生の体育よね?」
「うん! 確か着替えて校庭に集合だったよねー!」
1、2限目が終わり、あと55分頑張ればお昼だ。
……うん、頑張ろ。
***
「よし、皆集まったな」
更衣室で体操服に着替え運動靴を履き校庭の少し影になっている所に集合していた。
「いいか、お前らが上陸する国々は必ずしも安全とは限らない。
そして、そんな状況下で俺ら教師は80人を守れる自信は正直ない。
……てなワケで最低限自分の身は自分で守ってもらおうということだ」
いや、うん、まぁそうだよね。
そうなるよね。
「今から個人的に剣を配る。
一応個人データを元にプロがそれぞれの為に選んだものだから直ぐ手に馴染むだろうが、もし合わない等あれば言ってくれ」
それから出席番号順に呼ばれ鞘に収められている剣を受け取る。
「お、俺、剣持ったの初めてなんだけど」
「俺も俺もっ!!」
「ねぇ、あなたは剣扱ったことありっ……あるの?」
「剣なんて、そんな物騒なもの持ったこともありっ……ない、わ」
おー、ちゃんと校則守ってる!
2人とも同じとこで詰まってるけども。
慣れるまでもうちょい時間が要るようだ。
平民の子達はチャンバラとかでちょっと触ったこととかあるだろうけど、護衛に守られているお嬢様とお坊ちゃんが全く触ったことがないと言ってもなんら不思議ではない。
あ、王族は別ね?
彼らは自分の身は自分で守れる剣術は小さい頃から叩き込まれているから。
「ソフィアは剣をかじったことは?」
「ないわね」
はい、即答頂きましたー。
**
「さて、全員貰ったな?
んじゃー、早速だがトーナメント戦やるぞ。
教える前に実力見たいからな」
その発言に皆のザワザワは途端大きくなった。
「はいはい静かにしろー、おら、これ俺手作りのトーナメント表だ」
そう言って前に掲げたのは私の身長ぐらいの長さの紙にマジックで大きく名前が書かれたものだった。
なんて、見やすい。
「いいか、このトーナメント戦ではA~Eの5グループの中で戦ってもらう総当たり戦だ。
んで、地面をよく見てもらえばわかると思うが、大きな円が所々に5つあるの分かるか?」
あ、本当だ。
白いラインが引いてある。
「あそこから順にA、B、C……の順で散らばれ」
そう指示を出すと、1人の男子生徒がスッと手を挙げた。
「あの、先生、5つのグループの戦いって同時に行うんですか?」
「あぁ、そうだが?」
すぐさま頷いたネカル先生に対し、少しザワザワが大きくなる。
それが落ち着くまで腕を組んだまま見ていたネカル先生はやおら口を開いた。
「お前らあんまり俺を舐めんなよ」
ネカル先生のその一言はその場をピシリと凍らせるのに十分だった。
「お前らの試合ぐらい俺一人でいいだろ。
早く散らばれ」
その合図に皆自分のグループの場所にダッシュで向かった。
***
「残ったのはお前ら五人だな」
各グループで戦い、最後に残ったのは、ウィル、ロト、ルーナン、セオ、そして私の五人だった。
「王族が勝ち残るのは分かるけど、あの子ってー……」
「私同じグループだったけど、あの子と当たった人全員、自滅していったよ?」
そう、私は何もせずとも向こうが一人でコケて勝っちゃったりと、ほぼ相手と剣を交わらせることなく勝っていたのだ。
ラッキーだね、とか思ってる?
正直に言うね、こんなとこまで勝ち上がるつもり無かったんだけどっ!
適当に途中で敗退して観戦するつもりだったんだよっ!
なのに、どーして王族と戦わねばならんのだ。
本当にちょっと待って。
「五人だからなー……どうすっかなー」
「先生、ならシーナさんを不戦勝にして、四人の中で勝ち残った方と戦わせてはどうですか?」
女の子三人組がクスクスと笑いながらそんなことを提案してきた。
あー、これ完全に目をつけられた。
「なるほどな……シーナをラスボス的な感じにするんだな」
ラスボスって……!
オールバック先生!?
「シーナ、いいか?」
「……いいですよ。その代わり今日のお昼、私に恵んでください」
「ブッ……!」
誰かが吹き出すのが聞こえた。
だって、ちょっとさっきの女の子三人組にカチーンときたし、そんな言うんならやってやろうじゃないか! 的な?
それに、今日寝坊したからお昼作ってないんだよねー。
「お前度胸ありまくりじゃねぇかよ……。
はぁ、分かった分かった、お昼のパンをお前にくれてやる」
「交渉成立ですね」
握手を交わした。
**
「ちょっと! ティナ!」
ウィル達が戦う所の近くに置いてあるベンチに腰掛けていると、お手洗いに行っていたソフィアが怒りながら帰ってきた。
「あ! ソフィアおかえりー」
「何呑気なこと言ってんのっ! 聞いたわよ!私がいない間にこんなことになってるなんて!」
肩をガクガクと揺さぶりながらそう早口で言われた。
「喧嘩売ってきたのはどこのどいつ!?」
「えっ、ちょっ、ソフィア!? 何するつもり!?」
「え? 少しお話するだけに決まってるじゃない」
素敵な笑顔でそう言ったソフィアに私は、絶対に彼女達の名前は言わないでおこうと固く決めた。
『うおおおおーー!!』
と、大きな歓声が運動場に響いた。
試合の方を見ると、ウィルとセオが剣を物凄い速さで交わしていた。
どうやら、私はこの二人のどちから勝利した方と戦うことになるようだ。
「流石だなぁ」
「本当に、でもルーナ様とロト様も劣らず凄かったけどな」
どうやらルーナンとロトは負けてしまったようだ。
「ロト様! ルーナ様! 手当てをっ!!」
女の子達が目をギラギラとさせて、二人に詰め寄っていた。
「……」
「ありがとー! でもかすり傷だから大丈夫だよー!」
「な、ならルーナ様はっ!?」
女の子達、必死だ。
「要らない、というか俺達よりその後ろの子を手当てした方がいいんじゃないの?」
そう言って指さしたのは、剣を抱えるように持っている三つ編みのエリザさんだった。
「エリザちゃんー! どこか痛いとこあるのー?」
ロトのその質問にエリザさんは一度ビクリとして、ふるふると首を横に振った。
「ルーナンー、無いって言ってるよー?」
「はぁ、そんなの嘘に決まってるでしょ。
あんた足をくじいてるでしょ」
「そ、そんなこと……っ」
「はいはい、取り敢えず保健室行くよ」
「ルーナンかっこいいー!」
「ちょっと、ロト黙って」
そんな言い合いをしながらロトとルーナンはエリザさんを半ば引きずるようにして保健室に連れて行った。
「……何あの子」
「グレイ・ティーのくせに調子乗りすぎ」
ロトとルーナンが去った瞬間目を吊り上げ悪口を言い始める女子達。
「女の嫉妬ほど醜いものは無いわね」
「っすね」
『そこまで! 勝者ウィル=クラウド!!』
メガホンを通して聞こえてきたカル先生の声に、観戦していた生徒達は一気に盛り上がった。
「ということは、次はウィル様とシーナさんの戦いってこと?」
「そうなるな」
「シーナさん可哀想になぁ」
「ティナ、あんなの無視っとけばいいからー……って、ちょっ、何やってんの!?」
「え? 落とし穴作ってんのー」
「……一応聞いとくわ。何の為に作ってるの?」
「んー……強いて言うなら暇潰し?」
スパーッンといい音がした。
「いったぁー! な、なにもハリセンで叩くことないじゃんー!!」
「今シリアスぽかったわよね!? ちょっとは落ち込みなさいよ!」
「や、落ち込んだって絶対ハリセン登場させてたよね!?」
「えぇ、そうね」
「理不尽っ!!」
だって落ち込むティナを慰めるなんて面倒くさいじゃない。
と仰るソフィアをスルーし、しゃがんだまま、私は普通ののより少し短い剣を鞘から出し眺めた。
これが私に与えられた剣だ。
さて、そろそろ行こうか。




