寝坊
「しょうがないじゃないかっ!!」
ガバッと上半身を起こす。
「朝から寝覚め悪過ぎか」
攻略対象たちと大富豪をした夜、変な夢を見た。
夢の中に『ドキドキッ! マリンschool』の悪役令嬢のティナ=シーナが出てきたのだ。
出てきただけならまだ可愛いもんだ。
ティナ=シーナは私の夢に出てくるなり「でかしたわ! 王子様たちとこんなにお近付きになれるなんて! 結婚も夢じゃないわ」
と、恋する乙女の顔で一気に捲し立てられた。
「いや、結婚する気ないし、お近付きになりたくてなったわけじゃないし」
「あら、この私に口答えするの?」
優しそうな微笑みと共にそんなことを言われた。
そんな彼女に夢の中の私はソッとその場で土下座した。
何事も穏便に済ますのが一番。
「あとはそうね……邪魔なメス共が王子達を囲み始めたら蹴散らすことぐらいかしらね」
「いや、誰もあなたの言う通りに動くとは言ってないし」
「蹴散らす方法教えましょうか?」
あー! この人、話何も聞いてねぇー!
「それにしても『マリンschool』に行く前からウィル王子とロト王子とも知り合いだったなんて、口では反抗的なこと言っておいてやる気満々じゃない」
「やっ、それは! だって……しょうがないじゃないかっ!!」
そして冒頭に戻る。
本当に朝から疲れた。
「ていうか今何時だろ?」
チラリとベットの横にある小さい机に乗ったシンプルな時計を見た。
「8:25か、まだ時間はー……ないな!!」
え、見間違い!? じゃないよね!?
あと5分で授業始まるじゃない!!
「ヤバイまずいヤバイまずい!」
そう連呼しながらクローゼットを開け、制服に着替える。
膝ちょい上のスカートとブレザー、リボンを身につけ髪の毛を整える。
この世界の女の子達が着るドレスや服はだいぶ裾が長い為、この制服を見た時、皆驚いたことだろう。
「こんなに短いの!?」
「はしたない!」
的な感じで。
て、今はそんなことどうでもいいんだよ!
教科書などが入った鞄を引っつかみ、部屋を出、猛ダッシュで階段を駆け上がり、登校時間が過ぎていた為か柵で閉められている校門を思いっきり助走をつけ飛び越えた。
「すごっ! 私の跳躍力すごっ! これは全国大会優勝も夢じゃない!」
スタッと華麗に着地をキメ、1人でそう盛り上がっていると、もう1人小柄な人が私と同じように柵を飛び越えてきた。
私の隣で華麗に着地をキメた彼と目が合った。
「ティナちゃんー!?」
「ロト!?」
まさかのロトだった。
「ティナちゃんも寝坊ー?」
「うん、ってことはロトも?」
「うんー」
2人でそう苦笑いしていると、キーコーンカーンコーンと授業開始のチャイムがなりはじめた。
「「うわっ! 待って待ってー!!」」
***
「さて、ロトさんどうします?」
チャイムはちょっと前に鳴り終わった。
そしてチャイムが鳴り終わらないかぐらいで教室前に着いた私たちはオールバック先生こと、ネカル先生が教室に入って行くのを目撃してしまったのだ。
この学校は最初に朝礼がある為、担任であるネカル先生が教室に入るのはなんら問題はないけど。
今ネカル先生を追い越して教室に入るのはまずいと本能的に悟った私たちは、曲がり角にそっと隠れた。
「静かに後ろの扉から教室に入るっていうのはどうでしょうー?」
「いいね! それ採用!」
それなら上手くいけばバレずに済むだろう。
**
「じゃあ、行くよー?」
「よしこい!」
ソォーっとロトが扉を開ける。
小さな隙間に四つん這いになって私、ロトの順に中に入る。
「うし、全員いるなー、今日の朝礼はこれからのことを話そうと思う」
そう言ってネカル先生は背を向け、チョークを手に持った。
今のうちだ……!!
そう思いハイハイで近くの机へ向かった。
赤子に若返った気分だ。
驚いた顔でこちらを見る近くに座るクラスメイトにロトのウインクで黙らせ、そそくさと移動する。
黙らせたというか、気絶させたというか。
「あ、そうだ」
と、ネカル先生が不意に振り返った。
ヤッベっ!!
え、ちょい! 振り向くとか反則!!
2人でサッと机の下に潜り息を潜める。
これぞ反射神経だ。
「後ろの方は黒板の字見にくいだろうから、その目の前にあるちっさいモニターの電源付けて見ろよー」
へぇー、そんなのあるんだー!
確かに一番後ろから見たら黒板の文字なんかミジンコだろうけど。
ネカル先生が、再び黒板に向かったのを確認した後、机の下から出て、あたかも最初から居たかのように木製の椅子に腰掛けた。
「上手くいったねー」
「本当に! 一時はどうなるかと思ったけど」
ヒソヒソとそう話す。
「あ、あそこウィルくん達だー」
真ん中の方にウィル達が座っているのが見えた。
その斜め後ろにはソフィアとエリザさんが座っていた。
「ね、ロト電源ってこれだよね?」
「多分そーじゃないのかなー?」
モニターの側面に付いている丸いボタンを押すと、モニターに先生の後ろ姿と黒板が映った。
すご! ハイテク!!
「えー、いいか、この世は壱ノ国、弐ノ国、参の国、四ノ国、そしてこの世の中心であり始まりの国と呼ばれる零ノ国の5つの国がある」
黒板に零ノ国を中心にあらゆる場所に散らばっている4国を書いた。
「壱ノ国はお前らも分かってるように今年度の『マリンschool』の入学式の場所となったよな。
そんでもって航路は弐ノ国、参ノ国、四ノ国、壱ノ国、零ノ国の順に行く予定だ」
そう言いきった途端、皆のザワザワが大きくなった。
え、ちょっと待って。
だって零ノ国はー……。
「先生! 零ノ国はその国の人じゃないと入国出来ないんじゃなかったんですか?」
そう、零ノ国は不思な国で、他の国の船乗り達が零ノ国に入国しようとすると、必ず大きな嵐に遭うのだ。
その嵐のせいで、何度挑戦しても零ノ国に辿り着けないのは勿論、酷い時には船が難破したりしてしまうらしいが、零ノ国の人だけは嵐に見舞われず出たり入ったり出来る、という話はどの国でも有名だ。
一説ではその嵐は零ノ国を守っている伝説の海の生物、巨大ウミヘビが起こしているものだとか……。
またこんな話もある。
零ノ国の人は出たり入ったり出来るわけだから、零ノ国を訪れてみたい他の国の船乗りは自らの船に零ノ国の人を乗せて行ってみたことがあるらしいのだ。
だけど、失敗に終わったんだと。
なんでも零ノ国の人がいれば起きることは無いとはずの嵐がその船を襲い、乗組員達がてんやわんやしている内に気付いたら、船の上には一緒に乗っていた零ノ国の人達だけがいなくなっていたんだって。
これ、ある意味ホラーだと思うんだよね。
「そう! そうなんだよ!」
生徒の質問に突如目をキラキラさせて話し出すオールバック先生。
「計算すると、今回の航海で零ノ国に着くのは今から3年後の夏。
そして、その3年後は、零ノ国を守る巨大ウミヘビが零ノ国を離れる年でもあることが分かった!
お前らも知っている通り、巨大ウミヘビが零ノ国を離れるのは500年に一度だ。
その年に丁度あたったんだ!!
これは3億の宝くじに当たるよりずっと確率が低いんだぞ!?」
バンッと黒板を叩き、そう熱弁した。
まじか!! 3億当たるよりも低いんだ!!
「すっごいねー!」
「ほんとに!!」
気付けばロトと私もネカル先生同様、目が輝きまくっていた。
「でも、伝説だからあんまアテにしない方がいいんじゃないのかな……?」
「確かに、それで嵐に遭って船が難破したらヤダなぁー……」
そんなザワザワがあちこちで起こりはじめた。
「はいはい、静かにしろー。
いいか、このウミヘビ伝説はもはや今日の研究では伝説ではなくなってる。
本当に零ノ国の周りには巨大なウミヘビが生息していることは明らかになってるんだ。
それにそいつが嵐を起こしていることもな」
まだ報道されてねぇけどな。
と、新聞紙を片手にそう付け加えるネカル先生。
どこから出した。
さっきまでチョーク持ってたよね?
「よし、このくらいだな。朝礼はこれで終わりな。
次の授業の準備しとけよー」
そう言って、出席簿を片手に教室の扉に手を掛けた。
かと、思えば、ピタリと止まりこちらを振り返った。
「あれっ? 何でだろう、コッチ見てる気がする」
「ぐ、偶然だねー、僕もそー思うー……」
「言い忘れてたけど、ロト=マラウィ、ティナ=シーナ、遅刻とはいい度胸じゃねぇか。今日の教室掃除はお前ら2人がやれ」
それだけを言って教室を出ていった。
「「バレてるー!?」」
その後私達の叫び声が教室中に木霊したのは言うまでもない。
〜おまけ〜 ティナとクリスの文通より
『姉さんへ
初めての船での生活はどう?
コッチは姉さんがマリンschoolに行ってからリリィが面白いぐらい抜け殻みたいになってるよ。
もう1ヶ月もすれば元に戻ると思うんだけど……。
クリス』




