乗船
「……っ!?」
角を曲がるとこれから乗り込む船が見えた。
それはもう、巨大だった。
すこし離れてても充分でかい。
実物まじでかい。
船の上に学校がのってる。
え、待って、グラウンドもあるよ。
その下の層の窓が沢山ある所はたぶん私たちが住むことになる部屋だろう。
部屋多いなっ!
「入口こっちみたいよ」
さっきまで一緒に船を見上げていたソフィアのその言葉に私は船を見上げたま頷き入口へと向かった。
****
「すごっ!! もはやお城じゃん」
思わずそんな言葉が出てしまうぐらい船の中は豪華だった。
本当にここは船の中なのかと思ってしまうぐらいに。
「本当に……というかもう皆部屋に集まってるみたいよ」
「まじ!? でもどこに行ったらー……」
そんな疑問は目の前の壁に大きなスクリーンの存在に気付いた途端消えた。
そのスクリーンにはこの船の構図のある一点に付けられている丸印と『ここ』という文字が映っていた。
「あそこに行けばいいみたいね」
「みたいだね」
***
スクリーンの指示通りに豪華な階段を登り地上で見た船の上に建っている学校の門前に辿り着いた。
「でっか!!」
もうさっきから驚きの言葉しか発していない気がする。
でもこれはしょうがないと思う。
学校でかいわ、広そうだわ、んでもって迷子になりそうだわ。
***
「ここみたいね」
ソフィアはそう言いながら教室に繋がる木の扉を開けた。
「うわ……」
もうお分かりかも知れないが、その中は想像以上に広かった。
長い机が並んでいてそこにまた椅子も並んでいて、先に着いた皆が着席していた。
なんというか大学の教室のようだった。
ん?
ふと、後ろに気配を感じた。
「……あ」
振り向くとそこには三つ編みの女の子が立っていた。
「ごめんなさい……」
消え入りそうな声でそう言うなりその子は私とソフィアの横を通り過ぎてそそくさと空いている席に向かって行った。
「知り合い?」
「……うん、多分エリザ様だと思う」
そう、あの人は生誕祭で距離が近くなったエリザさんだ。
「ああ、あの噂の……雰囲気だいぶ変わったわね」
「本当にね」
え? 何でそんなことを私が知ってるかって?
実はですね、クリスと一言も交わさない時期に、なんと、なんと! 前世の記憶を色々と思い出したんです!!
私が死んだ理由は交通事故。
下校中、友達から借りた『ドキドキッ! マリンschool』のパッケージを眺めながら横断歩道を歩いている時、暴走トラックに轢かれお陀仏してしまったのだ。
高校二年生の夏のことだった。
色々やりたいことあったのになぁー……。
あっ、そうそう、それでゲームのことだけど、思い出しはしたよ?
けどさ、うん、正直に言おう。
何も活用できる内容は思い出せなかった。
と、言うのも、私がこのゲームをプレイしたのはヒロインちゃんと攻略対象達が出会うきっかけがある第一章だけ。
だからイベント系も、第一章でチラッと出てきただけの攻略対象達の顔も全く思い出せなかったのか。
本当使えない、どうして全部プレイし終えずにゲームのパッケージ見つめて横断歩道を渡った!?
何をしてんの!? と前世の自分の胸倉を掴んでグラグラしてやりたい。
そんな全く頼りにならない記憶だが、一つヒロインちゃんについて思い出したことがある。
さっきも言ったようにこのゲーム『ドキドキッ! マリンschool』の主人公の公式ネームはエリザ=トレド。
外見は黒髪の三つ編みで、大人しそうな女の子。
……なのだが、この主人公ちゃんには裏設定があって、彼女は元々、上級貴族の生まれなのだ。
しかし、主人公ちゃんのお父さんがこれまた騙されやすい性格で、彼の友人という名の詐欺師達に付け込まれた結果、トレド家は沢山あったお金がサァーッと消えていき、なんと、上級貴族から一転、平民にまで落ちてしまったのだ。
ソフィアが言ってた『噂』はこれのこと。
「ね、あの子って……」
「『グレイ・ティー』」
「まぁ、当選してたんですのね」
「目、合わせてはなりませんわよ」
エリザさんが教室の中に入ると皆雑談を止め、一斉に彼女を見た。
エリザさんを見る皆の目は蔑み、憐れみ、好奇、たくさんの色が混じっていた。
ここで、もう一度この世界のお茶会の仕組みを復習、からのプラス知識を入れよう。
この世界でのお茶会は十三歳になった貴族の女の子が開催できるもので、自分にとって最初のお茶会を欠席した者を『グレイ・ティー』と呼ぶ。
最初のお茶会を欠席した『グレイ・ティー』は女の集団から外れたいんだと見なされる。
『グレイ・ティー』は欠席したお茶会の主催者のご令嬢から灰色の指輪を渡された時に誕生する。
その指輪をしている間は女という女の人に無視され、目も合うこともない。
そういう決まりだ。
また、そんな大規模なイジメみたいのから解放されるには、そのお茶会の主催者のご令嬢の許可がいる。
もし、その子の許可なしに指輪を外したならそれはそれは重ーい罪に問われるらしい。
あくまで噂だけど。
と、今の今まで『グレイ・ティー』について説明をしたけれども、『グレイ・ティー』の存在はだいぶ稀なのだ。
それもお茶会を欠席しても、その子が貴族であるならそのお茶会の主催者と協力体制を築くことが出来るから。
お金を渡したりとかして自分がお茶会を欠席したことを口外しないよう、灰色の指輪を渡してこないようにするのだ。
まぁ、賄賂っすよ、賄賂。
だが、それが平民と貴族の場合、協力体制を築くことが出来ない。
平民の子と協力体制を築いても得ないからね。
そして、察しの通り、エリザさんは初めてのお茶会を欠席した。
だがその時エリザさんは十三歳で上級貴族という立派な後ろ盾があった為、協力体制を築けたが、現在、トレド家は平民まで落ちてしまった。
と、なればそのお茶会の主催者には何の得も無くなる。
日々暇を持て余している貴族のご令嬢にとって、そりゃあ、エリザさんに灰色の指輪を渡し、『グレイ・ティー』としてのエリザさんが女の人達に無視されてるのを見るのは、さぞかし魅力的な遊びに見えることだろう。
さて、本編では本当はそのエリザさんを『グレイ・ティー』にした主催者のご令嬢はティナ=シーナとなる。
そう、私だ。
だがしかし!!
私はそんなチョー危険なフラグを気付かぬ内に折っていたのだ!!
実はエリザさんにお茶会に招待される前、私はリリィに「お嬢様、もう十三歳なんですし、お茶会を開いてみませんか? ほら、トレド様なんて招待いたしませんか? 同い年ですよ!」
と誘われたことがあった。
そんな誘いに私は「お茶会? めんどくさーい」と思ってた為、断固拒否した。
何も知らなかったとはいえ、私すごいっ! 天才っ!!
というわけで、私は主人公ちゃんを『グレイ・ティー』にしていない。
なのに主人公ちゃんは今現在、『グレイ・ティー』になっている。
本編と違うとこはあるが、今のところゲーム通りに動いているというわけだ。
まっ、私は死んでもゲーム通りに動いてやんないけどねー。
いや、死んだら無理か。
◆◆◆◆◆
「……あ」
ロト達と雑談をしていると、目の端に制服を着たティナの姿が映った。
「ウィル君ー? どしたのー?」
「ん? 何でもないよ」
そう言えば横に座る橙色の髪のロトは「そー?」と首を傾げた。
「あ! そー言えばさー!今年は『グレイ・ティー』の子もいるんだってー!」
「ふーん」
「ほー」
ロトの報告に全く興味無さ気な答えを返す、前の青の髪とピンクの髪の二人。
「うわっ! 何そのどうでもいい感満載の答えーっ!!」
「いやー、だってなー?」
「ちょっと、こっちに共感求めないでよ、めんどくさい」
「ルーナ!? 今俺とお前は同じ立ち位置だったよな!?
何で裏切り行為に走った!?」
「うるさい」
そんなルーナとセオのやり取りを面白そうに笑うロト。
と、突然教室の雰囲気が変わった。
さっきまで俺たちに集まっていた視線は入口の方に向けられていた。
『グレイ・ティー』そんな単語が周りから聞こえてくる。
皆に倣い、俺も視線向けると、そこには三つ編みの女の子が俯き加減にそそくさと歩いている姿が目に入った。
あの子、確か上級貴族から平民になったエリザ=トレドだったかな?
『グレイ・ティー』でもあったのか……。
「えっ、あの子ってエリザちゃんー!?」
ロトが小さく驚きの声を上げた。
「まじかよ、雰囲気変わりすぎだろ」
「というか、今年入った『グレイ・ティー』の子ってあの子だったんだね」
二人も驚きを隠せてないようだ。
「楽しくなりそうだね」
彼女が空席に座り、ティナとその隣にいる子も着席するのを見てそう呟いた。
そんな呟きに「そうだねー!」と嬉しそうに言うロト。
ニヤリと口角を上げるセオ。
「はぁ」と面倒くさそうにため息を吐くルーナ。
ーーさぁ、新しい生活の始まりだ。




