嘘つき
結果から言って、その日なんやかんやでクリスに当選のことを話せずに終わった。
そのことについて深く後悔したのはすぐ後。
次の日のことだった。
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「失礼します。お嬢様、フランシス様がお越しになっております、そして一体貴女様は何をなさっているのですか?」
コンコンというノック音と共にリリィがやって来た。
「あ、リリィ! やー、久しぶりに柔軟やってみようと思ったんだけどさー、ダメだわ。
すんごい硬くなってて全く動かない」
床で足を伸ばし一所懸命手を伸ばすが、全くつま先に届く気配もない。
なんていうかあれだね。
「……テディベアのようなことになってますね」
「そう! それだ!!」
自分の言いたいことを言ってもらってビシッとリリィを指差す。
「『それだ!』じゃありません!
早く着替えてください!
まさかその格好のまま出るおつもりですか!?」
「え? どこに?」
「フランシス様がお見えになってますとつい先程報告致しましたが?」
素敵な笑顔で首を傾げた。
「あ、あはっ、あはははっ……すぐに着替えますっ!!」
そう大声で宣言し、ダッシュでクローゼットの元に行き、扉を開けた。
「……」
大量の衣服と靴が並んでいるのが視界にブワッと広がった。
それから私はソッと何ごとも無かったようにクローゼットの扉を閉めた。
「あー、何か喉乾いたなぁー」
「どこに行く気ですか?」
部屋を出ようとする私の肩をガシリと掴んだ。
「やっ、だってだって!!
あんないっぱいの衣服類を見たらさぁ! もういいかなってなるじゃん!?
ありのままの私で行こうかなって思うじゃん!?」
「なりません!
というかあの素晴らしいドレス達を見てそんな心境に陥ってしまうのはお嬢様ぐらいですから!
あと、最後いい事言った風ですが、使い方間違ってます」
ことごとくリリィに論破され、私はその場で項垂れた。
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「ソフィアー! いらっしゃーい!」
いつものようにドレスの裾を掴み、階段の手すりの上に乗ってシャーッと滑り降りた。
「お邪魔してます」
玄関扉の前に立ち、もはやこの私の行動に何もツッコまなくなったソフィアさん。
「今日はね、報告したいことがあって来たのよ」
報告?
と首を傾げていると「そう!」と珍しく目をキラキラさせて詰め寄ってきた。
「『マリンschool』に当選したのよ!」
バッと白い紙を見せられた。
あぁ、デジャヴ。
「え、まじで!? すごい! ソフィア当選したんだ!!」
直接は聞いていなかったからどっちだろう、と思っていたが、やっぱり当選していたのか。
「そうなの!! ね、ティナは?」
「わ、私!?」
「ええ、聞いたわティナもあの後応募したんでしょ?」
「あぁ、うん、応募したよ!」
「どうだったの?」
「私も当選した!」
「ならティナと同じ学校で同じ景色が見れるのね」
そう言ってソフィアは色気たっぷりにクスリと笑った。
「そうなるねー!」
そんなソフィアを見て、この笑顔で何人の人が倒れるのかを想像の中で数えながらそう答えた。
と、そんな事を話しているとゴトッと後ろで何かが落ちた音がした。
振り向くと驚いた顔のクリスがいた。
先程の音はどうやら本が落ちた音だったようだ。
「クリス?」
「……あ、ゴメン、盗み聞きするつもりは無かったんだけど……」
つまり『マリンschool』に当選したことをガッツリ聞かれてたというわけだ。
「え、あ! いや、その、昨日話そうと思ったんだけどねっ? その、タイミングが掴めなくってさー……」
そう言いながら落ちた本を拾いあげた。
ちょっと待て、何で私はこんな言い訳みたいなことを言ってるんだろ!?
あれっ? あれぇ!?
「っていうことは本当なの?」
「う、うん」
そう肯定すると、クリスは「そっか……」と拳をギュッと握り俯いてしまった。
「……うそつき」
「え?」
上手く聞き取れなかった。
クリスはッハ! と顔を上げて「なんでもないよ」とだけ言い残し逃げるようにもと来た道を戻って行った。
私はそんな後ろ姿をポケーと見送ることしか出来なかった。
「何やってんの、早く行きなさいよ」
そう言って背中をトンッと押してくれたのはクリスとの会話を見ていたソフィアだ。
「う、うんっ!」
ハッとした。
何ぼんやり見送っているんだ私は!
今しなければならないことを気付かせてくれたソフィアにお礼を言って、本を片手にクリスの部屋へダッシュで向かった。
***
「ク、クリス」
コンコン、というよりはドンドンと扉を叩き声を掛ける。
「クリス、あの、開けて?」
そう声を掛けるも返事が返ってこない。
居ないのかな?
部屋に戻ったと思ったんだけどな……。
「ーー姉さん?」
そう思っていると中からクリスの声がした。
「ク……」
「ゴメン、今は一人にして」
小さな声だったけれど、私の声を遮りそう言った。
「……分かった」
このままここに居てもきっとクリスは出てきてはくれない。
そう思い踵を返しソフィアの元へ戻った。
クリスが落とした本が異様に私の手の中で存在感を示していた。




