城
「うわっ! えっ、ウィルさん、何してんの!?」
馬車でノンさんに送ってもらい、約束通りお城に行くと門を通ると見える素晴らしく大きい噴水に腰掛け、持ち前の長い脚を組んでいるこの壱の国の王子、ウィルがいた。
ちょ、you王子だよね? 何してんの。
ってか、絵になり過ぎててヤなんだけど!?
「あ、ティナ。ちゃんと来たんだ」
「いや、それより二回目だけど、ウィルは何をしんの?」
「ティナのことだから城の中に入ったらどうせ迷子になるだろうからここで待っていたんだ」
どうせ!?
えっ、ちょ、この人今なんて言った!?
どうせって言ったよね!?
ひどっ! え、ひどくない!?
心の中でそう叫んでいると、ウィルはクスクスと笑い出した。
「相変わらずだね、ティナは」
「え、褒めてる?」
「褒めてる褒めてる。っていうか、立ち話はなんだし、中にどうぞ?」
いや、あなたは座ってますけどねっ?
立ってるのは実質のところ私ですけどねっ?
***
「ほぉー! 城に来るのは二回目だけど何回見てもすごいねー! 大きいねー!」
「あははっ、あんまりフラフラしてると迷子になるよ……って、言ってるそばから、居ないし」
ウィルはその後、軽く迷子になっていたらしい私を見つけ私の襟首を掴み、ズルズルと引きずった、私を。
ここ重要。
お城の人達の視線が痛い。
すれ違う人々が二度見してー……いや、五度見ぐらいして立ち止まる。
「ご、ごめんごめんっ! もうふらふらしないからー! その手を離してー!?」
私のお願いは届いたようで、ウィルは「全く……」とため息を吐きながら手を離してくれた。
軽く拷問だよね。
『引きずりの刑』 的な。
***
「はい、着いたよ」
「こ、ここがウィルの部屋!?」
あれから少し歩いた後、大きい豪華な扉の前で止まった。
「うん、どうぞ」
扉を開け、中に入るよう促した。
「おじゃましまーす……」
ウィルの部屋は、私の部屋の倍の大きさだった。
部屋が二個分、壁を突破らった感じ。
中ぐらいの冷蔵庫もある。
ここだけで生活出来るよね。
「適当に座って」
そう言って執事さんにお茶を、と指示を出した。
適当にって言われても……えー、どこにしよー! 迷うぅー!
と、何台も並ぶプリクラ機を前にしたギャルのような反応をしつつ、辺りを見渡していると、私の視線は壁に飾ってあるある物に止まった。
「あれは……」
「ティナ? どうしたの?」
そんな私に首を傾げてしたウィルだったが、私の視線を追った後、「ああ」と納得した。
「ティナとの約束に使った剣だよ。
今は刃こぼれしちゃって新しい剣を使っているけどね」
「私も持ってるよ」
「え?」
「ほら」
いつも持ち歩いている短剣を取り出し見せた。
「えっ!? まさか、いっつもそれそこにしまって持ち歩いてたの!?」
「うん!」
「あははっ! さすがだね。
ちなみに剣の練習は続けてるの?」
「続けてるよー! 早朝一人で練習して、二度寝するんだー!」
「あ、また寝るんだ」
二度寝って最高だよね。
だからリリィが起こしに来る時中々布団から出れないんだよねぇー。
「じゃあこれからちょっと俺と手合わせしない? ティナがどこまで上達したか見たいし」
「おう! 臨むところよ!!」
それから、稽古場的な所に移動しウィルと久しぶりの手合わせをした。
****
「つ、疲れたぁー! もう無理ぃー!」
ていうか、今日白いワンピースで来て良かった。
リリィに止められたけど逃げて良かった。
あんなヒラヒラじゃ絶対本気出せなかった。
「お疲れ様、はい、水」
「あ! ありがとー!
にしてもウィルはヤッパすごいねー! 前と比べてめっさ剣さばき上手くなってた」
「あははっ、ありがとう。
そう言うティナもすごくなってた。
中盤ちょっと負けるかと思ったぐらい」
そう言う割には汗一つかいてないけどね?
そんな私の疑いの目に気づいたウィルはクスクスと笑った。
ウィルの剣を振るう姿はなんていうか、幻想的だった。
さすが王子様だな、って感じ。
それに色気も加わってるものだから、あれを女の子達が見たらきっと発狂ものだろう。
あぁ、目に浮かぶ、悲鳴を上げながら一人、また一人と倒れていく様を……。
あれ? なんか殺人現場みたいになってきたぞ?
あれ? おっかしぃなぁー。
**
「ね、ちょっと思ったんだけどさ、何でウィルは街に来てたの?
王子様なら止められるんじゃー……」
「ほら前に話したでしょ? 王族特有のオーラを抑えることが出来るイヤリングがあるって、それの威力を試してみたかったんだ。
そんな時に何かを覗き見ているティナを見つけて、剣を教えるために街に行ってたよ」
ああ、あの時か。
鼻ピの人達が優しそうな男の人をカツアゲしてた時か。
あの時は後ろから声を掛けられてビビったなぁー。
っていうか、剣、教えてくださってありがとうございます。
「城は黙って抜け出してた。
オーラは出てないし、顔もいつもフード被っていたからティナ以外の人には見られてなかったよ」
「だからいっつもフード被ってたのかー!」
「うん。
まぁ、それも一年で城の人にバレたけどね。
バレたからにはもう街に行けなくなった」
「それでだったんだ」
「うん。
さ! そろそろ戻ろうか少し寒くなってきたし」
ウィルのその言葉に「そうだね」と頷き私達は稽古場を後にした。
***
「じゃあね、今日は楽しかった。
良かったらまた来て、待ってるから」
さてお帰りの時間となりました。
「うん! また来るねー!」
ウィルに手を振りノンさんの元に行こうとしたその時、突然ウィルに「ちょっと待って」引き止められた。
「おっ!? ど、どうした!?」
「一つ聞くの忘れてた」
「ティナ、『マリンschool』に当選した?」
その瞬間私は一刻も早くノンさんの元へダッシュしたくなった。
出来なかったけど。
「当選したよ」
「本当!? じゃあ、来年から同じ学校行けるんだね」
そっか、そうなるのか。
え、ちょっと嬉しいかも……。
だって、ってことはよ? ウィルから苺を奪えるか機会が多くなるってことだよね!?
おぉー!! 俄然燃えてきたー!!
「ティナ、一緒に居る時間が長くなるとはいえ、苺は誰にも渡さないよ?」
素晴らしい笑顔でそう仰った。
「いやっ、えっ、うっーん……」
何故かウィルが口にする苺は他のものより断然美味しいのだ。
言うなれば、美味しい苺が自分からウィルの元に向かって行ってる感じ。
ずっと前同じ苺パフェを食べた時、一口ウィルからもらえたことがあった。
その時、同じ料理を頼んだのに何故かウィルの苺パフェは私のより格段に美味しかった。
それからウィルから苺を奪おうと挑戦していたが、今のところ完敗である。
「『マリンschool』が楽しみだね」
「うん……あ!」
そうだ、今のうちに頼んどくのもありかも。
「ウィル、何があっても」私を海の藻屑にしないでね」
嬉しそうに微笑んでいるウィルの肩に手を置き、目に見えない圧をかけた。
「え?」
「頼んだよ」
「何かよく分からないけど、うん」
納得こそしなかったものの、そう『言ってくれた』。
いや、違うな『言わせた』の方が正しいか。
まっ、どっちでもいいや。
「じゃあね、引き止めてゴメン。
今度は是非クリスも連れて来てよ」
「お! それいいー! そうするー!
次来る時はクリスを引きずって連れてくるねー!」
「引きずるんだ」
「うん! クリス軽く引き篭もりだもん……あ!」
「どうしたの? ムンクの叫びみたいな顔してるけど」
あ、ムンクの叫び知ってるんだ。
じゃなくって!!
え、どうしよう。
そういえば、『マリンschool』に当選したことクリスに話してない!
ってか、前クリスに『マリンschool』には行かないって言っちゃったよ!? 私!
ひょー!!!
って、よく考えたら、クリスから『マリンschool』に当選したって報告に『前行かないって言ったよね!?』的な返事が返ってくるわけないか。
ってことは、なーんだ、何も叫ぶことなかったじゃんー!
「よく分からないけど、解決して良かったね?」
そう言って色気を撒き散らすウィルに手を振り別れた後、私は馬車の近くに立っているノンさんの元にスキップで向かった。




