生誕祭-3-クリス=シーナ
今回はお察し通り、クリス視点です。
「あれ?」
気付くと、さっきまで女の人達の隙間から見えていた貴族の女の人と話す姉さんの姿が消えていた。
蛇みたいな男の人が姉さんの手を無理矢理取ったのを見た時は、飛んで助けに行きたかった。
この女の人達が貴族じゃなかったら、迷わず冷たくあしらってすぐにら姉さんの所に行ってたが、残念な事に全員貴族。
僕のせいでシーナ家が悪く言われるのは我慢ならない。
はぁ、だから嫌だったんだよ、生誕祭なんて。
でも姉さんも一緒なら大丈夫だと思ってたのに少し離れたらあっという間に包囲された。
ちょ、もうちょっと離れて、香水臭い。
まぁ、結局僕が行く前にトレド家の令嬢が姉さんを助けたんだけどね。
で、そこからが問題だ。
姉さんとトレド家の令嬢が話しているのを女の人達の隙間から見ていたら、突然女の人達の中から1人、よっぽど自分に自信があるのかスルリと腕に絡みついてきた。
突然の彼女の行動に思わず顔が引き攣ったのは仕方ないと思う。
その少しの間だった。
腕に絡みついた手をソッと外し、彼女から距離をとった後、視線を姉さんに戻すと、姉さんはいなくなっていた。
そうだった、姉さんは少し目を離したらどこ行くか分からない人だ。
完璧油断した。
思わず舌打ちしそうになるのを抑えて、素早く辺りを見渡した。
「……やっぱり何処にもいない」
薄いピンク色のドレスを纏った少女はどこを見てもいなかった。
「クリス様?」
「あ、なんでもありません」
わざと少し顔を曇らせて首を振った。
「まぁ、クリス様、遠慮なさらないで」
「顔色が悪いわ」
「そうですわ。どうしましたの? 私達に教えて下さいな」
彼女達の姉ぶった心配の仕方に思わず吹き出しそうになる。
残念、僕の姉さんは1人だけだよ。
「実は、お父様とお母様に伝えなくてはならないことがありまして……少し失礼しても宜しいでしょうか?」
真っ赤な嘘だ。
だが彼女達には通じたようで、「まぁ」とか、「そうでしたの」とか口々に言って、道を開けてくれた。
チョロイな。
「申し訳ありません。では、失礼します」
少しだけ頭を下げ、そそくさと女の人達の群れから離れた。
「すみません、先程ティナ=シーナとお話ししていた方であっていますか?」
グラスを持ったエリザ=トレドに声を掛けた。
姉さんの場合きっとグラスじゃなくって料理がたくさん乗っているお皿だろうな……。
「ええ、そうですが……貴方は?」
「あ、私はクリス=シーナです。ティナは私の姉です」
そう軽く自己紹介すれば、彼女は「ああ」と頷いた。
「今、姉を探しているのですが、どこに行ったかご存じでしょうか?」
「えっと、お手洗いに行くと仰って大広間を出て行きましたよ」
トイレか。
彼女に「ありがとうございます」とお礼を述べて、僕は急いで大広間を出た。
「トイレ、ここだけどー……あ! すみません、ここから出てきた女の子っていましたか?」
近くの廊下に配置されているソファーに腰掛けて一休みしている女の人に微笑みながら尋ねた。
「ええ、いましたわ」
少し頬を赤らめそう答えた。
「その子薄いピンクのドレス着てましたか?」
姉さんの特徴を教えると女の人は「私が見たのはその子よ」と手応えのある答えが返ってきた。
「出てきて大広間と反対方向に行くものだから、どこに行くのだろうと気になっていたから覚えているわ」
姉さんっ!!
女の人のその言葉に思わずツッコミたくなった。
女の人にお礼を述べて、僕も姉さんが行ったらしい大広間と反対方向へ歩き出した。
これは完全に姉さんのお得意の迷子だ。
「はぁー……だから、お母様に離れるなって言われてたのに」
姉さんの迷子は質が悪い。
いっつも迷っている所は僕らが一捻りも二捻りもいる所だ。
姉さんは迷子の天才だ。
そんな姉さんをすぐに見つけてくれる門番のシウォルさんはこの場にいない。
「こんな所でどうしたのー?」
姉さんはどこにいるだろう、と立ち止まり考えていると、横から元気な声が聞こえてきた。
声のする方を見ると、橙色の髪の毛の綺麗な顔立ちの小柄な男の人が立っていた。
恐らく、姉さんと同い年ぐらい。
「あ、えっと、どうやら姉様がお城で迷ってしまって……」
そう言えば、彼は「迷子!?」と目を見開き驚きながらも、その口元が笑いそうになってるのは見間違えではないと思う。
「フッ……! ごほんっ、お城広いもんね……」
始めこそ笑いを抑えようとしていたが、「ごめん」と一言謝った後、ケラケラと笑い出した。
少ししてから、笑いすぎて出た涙を拭いながら彼は「ほんとにごめん」と謝った。
いや、大丈夫です。
僕もこの人と同じ立場なら笑っていただろうし。
「あ! 君のお姉さんを見つけるの僕も手伝ってもいいー?」
楽しそうな笑顔と共にそう言った。
その申し出に、人手は多い方が見つかりやすいかな、と思いお願いすることにした。
「あ、君の名前はー?」
「クリス=シーナです。姉様はティナ=シーナ」
「おっけー。クリス君でいいー?」
「あ、はい」
「あー! それやめて欲しいなー」
「それって?」
「敬語だよ、敬語ー!」
「えっと、じゃあ、分かった」
そう言えば、満足そうに頷いた。
「あ、名前は?」
「あー、ゴメン言ってなかったー」
テヘッと笑ってから、「ロトだよー! ロト=マラウィ。ロトって呼んでー」
そう自己紹介をした。
さっきから思っていたが、彼は会った時からずっとタメ語だ。
大分上の方の身分なんだと思うけど上級貴族のその上って……まさか王族?
ロトは王子ではないのは分かる。
王子は金髪だったし、そもそも顔が違う。
それに、王子に兄弟はいないハズだ。
そうなると王子の従兄弟とか?
にしては王族のオーラがないような。
前の生誕祭で王子に会ったが、凄かった。何がって聞かれると困るけど、オーラがもの凄かったのは覚えてる。
そういえば、ロト=マラウィってどこかで聞いたことあるような……。
まぁ、今はそんなことはいいか。
取り敢えず、姉さんを見つけないと。
「クリス君のお姉さんの特徴教えてー!」
「姉様は、薄いピンク色のドレス着てて、髪の毛はこのぐらいで、ハーフアップにしてます」
ジェスチャー付きで伝えた。
「うん、なんとなく分かったー」
なんとなく?
彼の言葉に少し不安になった。
「あ、見つけたらここに連れて来たらいいー?」
「うん、そうして欲しい。
じゃあ、30分後、ここで」
見つからなくても、ここでまた会おう。
と話してから、僕とロトは姉さんを探しに、バラバラに歩き出した。




