開幕する学院祭と張り巡らされた網
華やかな装飾で彩られ、熱気に包まれる学院祭の当日。
庭園の特設ステージや屋台には大勢の生徒や客が詰めかけ、笑い声が響き渡っていた。
「エルザ様! スイーツ街の屋台、どこもすっごく美味しそうです!」
「落ち着いてマリア様。転んでしまいますわよ」
私とマリア様は、色とりどりのドレスに身を包み、賑やかな通りを歩いていた。
その少し後ろには、一般生徒に変装して周囲を警戒するルークの姿もある。
(……来たわね)
通りを渡る途中、通り沿いの建物のかげから、メガネをかけた男子生徒――ミハエルがチラリとこちらを覗き込んでいるのが見えた。
彼は手に「来賓用の案内状」と書かれた小さな封筒を握りしめ、青ざめた顔で何かを待っている。
「……あいつ、指示通り動いていますね。エルザ様を旧校舎へ誘い出す気だ」
背後から低く囁くルーク。
「ええ。裏幕は、生徒会役員である私が『来賓の対応』のために一人で旧校舎へ向かうよう、ミハエルに案内状を渡させる手筈だったはずですわ」
計画では、旧校舎に呼び出された私に濡れ衣を着せ、大勢の前で恥をかかせるつもりなのだろう。
「ふふ、思惑通りに乗ってあげましょう」
「エルザ」
ひんやりとした甘い声とともに、影からすっと現れたのはアレクセイだった。
彼は周囲の目を気にすることもなく、私の手首をキュッと掴み、指を絡めて引き寄せる。
「……罠だと分かっていても、君を一人で行かせるのは気が狂いそうだ」
「アレクセイ様、大丈夫ですわ。ルーク様もマリア様もついていてくださいますし……何より、一番の特等席でトドメを刺すのは貴方でしょう?」
私が上目遣いで微笑みかけると、アレクセイ様の紫の瞳が妖しく揺れた。
「……本当に、君には敵わないな。……分かった。ネズミが一匹残らず網にかかった瞬間に、僕がすべてを終わらせてあげるよ」
アレクセイは私の手の甲に愛おしそうに唇を落とすと、闇の中に溶けるように姿を消した。
「さあマリア様、ルーク様。おバカな裏幕さんたちに、本当の『悪役』が誰なのか教えて差し上げに行きましょう!」
私はドレスの裾をふわりとひるがえし、罠の待つ旧校舎へと足を進めた。




