怪しい書記と、仕掛けられた罠
「あの書記……ミハエルと言いましたわね」
生徒会室で資料を整理しながら、私はふと思い出したように口を開いた。
一見すると真面目で大人しく、生徒会でも影が薄かったメガネの男子生徒、ミハエル。
彼が先日の脅迫状を資料の隙間に忍ばせた人物であり、かつて私に取り入ろうとして失敗し、没落しかけている「ゴードン子爵家」の遠縁であることは、ルーク様の調査で判明していた。
「ええ。ミハエルは自分の一族を立て直す資金と引き換えに、誰かから指示を受けて動いている実行犯に過ぎませんわ」
「フッ、影の薄い書記に扮して手紙を忍ばせるとは、鼠にしては知恵を絞ったようだがね」
アレクセイは冷ややかな笑みを浮かべ、後ろから私の腰にそっと手を回してきた。
私の肩に顎を乗せ、紫の瞳を怪しく光らせる。
「ミハエル本人はただの手先だ。だが、彼に指示を出している『裏幕』は、明日から始まる学院祭の最中に君を陥れようと企んでいる」
「ミハエル様……おとなしそうな人だと思っていたのに、まさか裏幕の手先だったなんて……」
マリア様が悲しそうに眉をひそめると、その隣でルークが固い決意を込めて拳を握りしめた。
「安心してください、マリア様。当日の警備は俺たち騎士候補生が固めます。ミハエルや裏幕が変な動きを見せたら、すぐに捕まえてみせる」
「頼もしいですわね、ルーク様。……ですが、ただ捕まえるだけでは面白くありませんわ」
私はくるりと振り返り、アレクセイ様の胸元に指先をそっとあてた。
「ミハエル様には、そのまま『裏幕の指示通り』に動いていただきますの。……私たちが敷いた完璧な罠の上で、ね」
「……相変わらず、僕の婚約者は容赦がなくて可愛いな」
アレクセイは愛おしそうに目を細めると、私の指先にそっと唇を寄せた。
(急に出てきた小悪党のミハエル様も、そのバックにいる裏幕も……私の平和な学園生活と、アレクセイ様との甘い時間を邪魔したことを後悔させてあげるわ!)
いよいよ開幕する学院祭。
裏幕の意図をすべて見抜いた元・悪役令嬢による、返り討ちのカウンター劇が始まろうとしていた。




