本当の悪意と揺るぎない覚悟
「……こんなもの、破り捨てるまでもないな」
冷気すら漂う生徒会室で、アレクセイ様は手紙を指先で粉々に揉み消した。
その瞳には、先ほどまでの甘えた空気など微塵もなく、絶対零度の殺気が宿っている。
「アレクセイ様、おやめになって。……証拠品なのですから」
私はそっと彼の手の上に自分の手を重ねた。
彼の指先は凍りつくように冷たくなっていたけれど、私の体温が触れると、ぴくりと震えて温度を取り戻していく。
「エルザ……。学院祭の期間中、君をカルステインの屋敷から出さない。いや、今すぐ学園を休学させる。……君に傷一つつけさせるわけにはいかない」
「ダメですわ」
私は首を横に振った。
「逃げるなんて私らしくありませんもの。それに、私を狙う『本当の鼠』が誰なのか、ハッキリさせないといつまでも安心して生活できませんわ」
「エルザ様……っ! でも、とっても危険です! 私もルーク様に頼んで、護衛を増やしてもらいます!」
青ざめた顔でマリア様が必死に訴えてくる。
その純粋な優しさが嬉しくて、私はクスリと微笑んだ。
「ありがとう、マリア様。でも大丈夫ですわ。……私を誰だと思っていますの? アレクセイ様を手のひらで転がす『元・悪役令嬢』ですのよ?」
「……フッ、僕を転がしている自覚はあったんだね」
呆れたように、けれど愛おしそうにアレクセイ様がため息をついた。
彼は私の腰を抱き寄せ、おでこをコツンと当ててくる。
「分かった。君のやりたいようにさせよう。……ただし、僕の視界から一歩も出ないこと。それが条件だ」
「ええ、もちろんですわ」
(ルーク様の脅迫状は、ただの不器用な恋の暴走だった。……でも、それに乗じて私を本当に破滅させようとしているヤツがいる)
手紙を置いていったあの書記の生徒、そして学院祭という大舞台。
前世のゲーム知識にはなかった「本物の破滅フラグ」が、刻一刻と近づいている。
(いいでしょう。私の平和な未来と、アレクセイ様との甘い日常を邪魔する者には……容赦なく返り討ちにして差し上げますわ!)
決意を固めた私の横顔を、アレクセイ様はどこまでも深く、重い愛を秘めた瞳で見つめ続けていた。




