秘密のWデートと完璧な手の上
週末。澄み切った秋晴れの下、学院の広大な庭園はお茶会を楽しむ貴族たちで賑わっていた。
「……あ、あの、マリア様。今日は俺のお願いを聞いてくれて……ありがとう、ございます」
庭園のテラス席。ガチガチに緊張したルークが、真っ赤な顔でぎこちなく椅子を引いていた。
その向かいには、ドレスの裾をキュッと握りしめたマリア様が座っている。
「い、いえっ! ルーク様、お招きいただきありがとうございます……!」
(よしっ……! 出だしは上々ね!)
そこから少し離れた植木の影から、私は手に持った日傘で顔を隠しながら、二人の様子をじっと見守っていた。
(ルーク様、固すぎるけれど必死にエスコートしようとしているわ。マリア様もちゃんと私の教えた笑顔でお礼が言えている……! うふふ、なんだか授業参観に来たお母様の気分だわ!)
「――エルザ。他人の恋路を覗き見るのが、君の言う『デート』なのかい?」
ふいに背後から耳元に吹きかけられた温かい吐息に、私は小さく「ひゃい!?」と情けない声を上げてしまった。
振り返ると、そこには普段の制服姿ではなく、上質なフロックコートをスマートに着こなしたアレクセイが立っていた。
日傘の陰に隠れるように私を壁ドンならぬ「木ドン」の体勢で閉じ込め、紫の瞳を不満げに細めている。
「ア、アレクセイ様……っ! 近いですわ!」
「近いのは当然だ。今日の君は僕のパートナーだろう? なのに、さっきからあの二人ばかり見て、僕の顔を一度も見てくれない」
「そ、それは……マリア様たちが上手くいくか心配で……んむっ!?」
言い訳をしようとした私の口元に、アレクセイが優しく指を添えて言葉を遮った。
「僕の目の前で他の人間の心配をするなんて、いい度胸だ。……お仕置きが必要だな」
「お、お仕置き……!?」
アレクセイは逃がさないように私の腰をしっかりと引き寄せると、日傘で周囲からの死角を作り、私の頬へそっと唇を寄せた。
チュッ、と小さな音を立てて落とされた甘いキス。
「っ……!? カ、カルステイン様……っ!!」
真っ赤になって胸を押さえる私を見て、アレクセイは満足そうに口元を緩めた。
氷のように冷酷だった男が見せる、甘く溶けるような笑み。
「ようやく僕を見てくれたね、エルザ。……あの二人は心配いらない。見なさい」
彼に促されてテラス席へ視線を戻すと――そこには、ルークが差し出したタルトを頬張り、「美味しいですわ!」と満面の笑みを咲かせるマリア様と、その可愛さにノックアウトされて顔を覆っているルークの姿があった。
「……ふふ、本当ですね。余計な心配でしたわ」
「ああ。だからこれからは、僕だけを見ていればいい」
アレクセイは私の手を取り、指の隙間に自分の指を絡める「恋人繋ぎ」でギュッと握り締めた。
(……まったく。ヤンデレ化して重くなったかと思えば、こんな顔で甘えてくるなんて反則ですわ……!)
破滅フラグを回避して一歩引こうとしたはずなのに、いつの間にか私は、この男の手の上で最高に甘い幸せを噛み締めていた。
「ええ、分かりましたわ、アレクセイ様。……本日のデート、存分に私を楽しませてくださいね?」
小悪魔な笑みを浮かべて返すと、アレクセイの瞳が愛おしそうに揺れた。
二人の巻き起こした波乱は無事に収まり、穏やかで甘い時間が、学園に心地よく流れていくのだった。




