恋の特訓とやり手のエルザ
「いいですか、マリア様。男性はお気に入りの甘味を美味しそうに食べる姿に弱いのです。……さあ、一口召し上がって『美味しいですわ!』と満面の笑みで!」
「は、はいっ! ……ん、美味しいですわ! エルザ様!」
「完璧ですわ、マリア様! その笑顔、破壊力抜群です!」
放課後の生徒会室は、完全にエルザによる「マリア恋の特別レッスン場」と化していた。
甘いタルトを一口食べて花が咲いたように笑うマリア様を見て、私は心の中でガッツポーズを決める。
(可愛い……! この可憐さなら、あの不器用なルーク様なんて一発でコロリと落ちるわね!)
「次は『お礼の伝え方』ですわ。ルーク様がエスコートしてくださったら、少し上目遣いで『頼もしいのですね』と……」
「……エルザ」
白熱する熱血指導の最中、冷ややかな声とともに、後ろからぐいっと腰を引き寄せられた。
背中に伝わる固い胸板の感触。アレクセイが私の肩に顎を乗せ、不満そうに低く囁く。
「さっきから聞いているが、君は男を惑わすテクニックに詳しすぎるのではないか?」
「っ……! こ、これは淑女の嗜みとして学んだ教養ですわ!」
(やばい、前世の恋愛マニュアル知識だってバレたら大変だわ!)
「ふうん……教養、ね。では、その『男を惑わすテクニック』とやらを、僕にも試してくれたんだろうか? ……あの時、僕を骨抜きにしたように」
アレクセイの指先が、私の唇をなぞるように優しく触れる。
紫の瞳が妖しく光り、息が止まりそうなほどの甘い圧力が室内を包み込んだ。
「あ、アレクセイ様、今はマリア様のレッスン中で……っ」
「エルザ様を困らせないでください、アレク! 今いいところなんですから!」
すかさずマリア様が間に割り込み、私の手をキュッと握りしめた。
「私、ルーク様とのお茶会を絶対に成功させて、エルザ様に良い報告をします! だからアレクは邪魔しないでください!」
「……マリア。君は本当に度胸だけはあるな。……まあいい、今週末はルークに存分に君の相手をさせよう。その間、エルザは僕が独占させてもらう」
フッと冷たい笑みを浮かべるアレクセイ。
「えっ……! 独占、ですか!?」
「当たり前だ。僕たちの邪魔者がいなくなる絶好の機会だからね。二人きりで出かける準備をしておきなさい、エルザ」
(結局、自分が私とデートしたいだけじゃないのーー!!)
こうして、マリア様とルーク様の緊張の初お茶会と、ヤンデレ婚約者アレクセイとの甘すぎる水入らずデートが、同じ週末に開催されることになったのだった。




