恋の作戦会議とお姉様のスパルタ指導
「えっ……!? ル、ルーク様が私とお茶を……!?」
翌日。生徒会室で事情を聞いたマリア様は、両手を頬に当てて真っ赤になっていた。
「ええ。あの不審な影の正体はルーク様でしたの。マリア様に危害を加えるつもりはなく、ただお話しするきっかけが掴めなかったようですわ」
「そうだったんですね……! 私、てっきり怪しい人かと……」
ほっと胸を撫で下ろすマリア様。
そんな彼女のとなりで、私は優雅に紅茶を一口含んだ。
「というわけでマリア様。今週末、学院の庭園でルーク様とのお茶会をセットしましたわ。しっかりエスコートしていただくよう、あちらにも厳しく言っておきましたからね」
「ええっ!? い、いきなりお茶会ですか……!? 私、男の人とお話しするの苦手で……!」
あたふたと手を振るマリア様が可愛くて、私はフッと小悪魔な笑みを浮かべた。
「大丈夫ですわ、マリア様。この私が完璧にレクチャーして差し上げます。男心を揺さぶるちょっとした仕草や、相手をキュンとさせる会話のテクニック……全部仕込んで差し上げますわ!」
「お、お姉様……! すごいです、頼もしすぎます……!」
すっかり私のことを「頼れる素敵なお姉様」として尊敬の眼差しで見つめてくるマリア様。
……と、そこへ。
「エルザ。僕以外の男の恋愛指南に夢中になるのは構わないが……僕への配慮が足りないのではないか?」
部屋の奥から、低く甘い声とともにアレクセイが歩み寄ってきた。
彼は私の背後に回ると、当然のように肩を抱き寄せ、耳元に吐息を吹きかけてくる。
「っ……! アレクセイ様、マリア様が見ていらっしゃいますわ!」
「構わない。僕たちの仲の良さを見せつける良い機会だ」
「もう、アレクったら! エルザ様が困っているじゃないですか!」
マリア様がぷくっと頬を膨らませて抗議するが、アレクセイはどこ吹く風だ。
「マリア。週末のルークとのデート、遅刻しないようにしなさい。それから……エルザをこれ以上独り占めしようとしたら、次回から生徒会室への出入りを禁止する」
「な、なんて意地悪なの……! でも私、負けませんから! エルザ様のお気に入りの座は譲りません!」
「僕の妻になる人に『お気に入り』も何もないだろう」
バチバチと視線を交わすアレクセイとマリア様。
かつて乙女ゲームのメインヒーローとヒロインだった二人が、今や「私の取り合い」で不毛な争いを繰り広げている。
(……なんでこうなったのかしら?)
呆れつつも、私は手元のお菓子をアレクセイの口元へ差し出した。
「はい、アレクセイ様。ご機嫌を直してくださいな」
「……ん。エルザがあ~んしてくれるなら、許してあげよう」
すっと口を開けて素直にお菓子を食べるアレクセイ。
冷酷な「氷の公爵令息」は完全にどこかへ吹き飛び、ただの甘々で扱いやすい婚約者になっていた。
こうして、不器用な騎士候補生ルークとヒロインマリア様のお茶会に向けて、元・悪役令嬢による「スパルタ恋のレッスン」が幕を開けるのだった。




