騎士候補生との接触と吹き荒れる嫉妬
「見つけたわ、騎士科のルーク様」
翌日の放課後。アレクセイが生徒会の緊急会議で席を外したわずかな隙を突き、私は学園の訓練場裏でルーク・フォン・バークレイを待ちぶせしていた。
背が高く、引き締まった体に騎士科の制服を身にまとった赤髪の青年。その腰にある剣の鞘には、間違いなく「銀の鷲」の紋章が刻まれている。
彼は私に気づくと、ハッとしたように身構え、気まずそうに視線を泳がせた。
「……ヴァルハイト伯爵令嬢。俺に何か用か」
「単刀直入に伺いますわ。マリア様を陰からつけ回し、私にあの不審な脅迫状を送ったのは……あなたですね?」
「っ……!? な、なぜそれを……!」
図星だったらしく、ルークは目を見開いた。
だが、その瞳に浮かんでいたのは悪意ではなく――切実な焦りと、純粋すぎる必死さだった。
「勘違いしないでくれ! 俺はマリア……マリア様に危害を加えるつもりなんてない! ただ、あの人があまりにも危なっかしくて、陰から見守っていただけで……!」
「まあ」
(やっぱり! ストーカーじゃなくて、不器用すぎる単なる片思いだったのね!)
ゲームでの熱血漢らしい純情さに、私は思わずクスッと微笑んでしまった。
「では、私への『生徒会から追放しろ』という脅迫状は? 私はマリア様に害などなしていませんけれど?」
「それは……っ! あんたが最近マリア様と仲良くしているのを見て、嫉妬したっていうか……。マリア様が『エルザ様!』ってあんたばかり追いかけるから、俺の入る隙がまったくないんだよ!」
「……はい?」
あまりにも拍子抜けな理由に、私は呆然と立ち尽くした。
(私への追放要求って……悪意じゃなくて、ただの『好きな子の視線を独占された男子の子供っぽい嫉妬』だったのーー!??)
「だからって脅迫状なんてダメよ、ルーク様。マリア様だって怖がっていたわ」
「うぐっ……す、すまない……。ただ、あんたからマリア様を取り戻したくて……っ」
「マリアを取り戻す? ほう……面白いことを言うじゃないか、バークレイ候補生」
――背後から、氷点下100度のような冷気と恐ろしい圧力が鼓膜を揺らした。
「あ……」
振り返ると、そこには書類の山を抱えたまま、紫の瞳を血走らせたアレクセイが立っていた。
その笑顔は、まさに「微笑む悪魔」そのもの。
「ア、アレクセイ様……いつからそこに……?」
「『あんたからマリア様を取り戻したくて』のあたりからだ。……僕の目を盗んで他の男と密会し、挙げ句その男から情熱的な言葉を掛けられているとはね、エルザ」
「ち、違いますわ! これは重大な勘違いで――」
「黙りなさい、エルザ。バークレイ、僕の婚約者に不躾な視線を向け、脅迫状まで送った罪……今すぐ不敬罪で投獄してもいいんだぞ?」
「っ……! 俺はただ、マリア様とヴァルハイト令嬢が……っ!」
完全にブチ切れたヤンデレヒーローと、不器用すぎる騎士候補生。
二人の男の間で火花が散る中、私は深くため息をつき、おでこを押さえたのだった。
(はぁ……事件の真相がしょうもなさすぎる上に、アレクセイ様の嫉妬が過去最高レベルで爆発しちゃってるじゃないのーー!!)




