過熱する過保護と黒い影
「エルザを追放しろ、だと……? フッ、ふざけた真似を」
生徒会室に重い沈黙が落ちる中、アレクセイは手にしていた脅迫状を、氷のように冷ややかな手つきで破り捨てた。
「アレクセイ様! 証拠を破いてしまっては……!」
「構わない。差出人の目星など、最初からついている」
冷酷な瞳を細めたアレクセイは、私を後ろからすっぽりと抱きかかえるように腕を回してきた。
逃げ場をなくすような強烈な力強さと、尋常ではない体の熱。私の首筋に顔を埋めると、彼は低く恐ろしい声で囁いた。
「今日から君の護衛を倍に増やす。学園内での移動はすべて僕が付き添う。……授業中も、だ」
「じ、授業中まで!? それはいくらなんでも過保護すぎますわ!」
「僕の目の届かない場所で、君に指一本触れさせるわけにはいかない。……断るなら、君をカルステインの屋敷に閉じ込めて鍵をかけるまでだ」
(本気だわこの男ー!! ヤンデレのスイッチが完全にMAXまで入っちゃってるー!!)
私が頭を抱えていると、マリア様が必死に手を挙げた。
「あ、あの! アレク! 私をつけ回していた不審者と、エルザ様への脅迫状って、やっぱり関係があるんでしょうか……?」
「おそらくね。……マリア、君をつけ回していた男の顔に、見覚えはあるか?」
「えっと……顔はフードで隠れていて見えなかったんです。でも、背が高くて、騎士科の制服を着ていました。……それに、剣の鞘に『銀の鷲』の紋章が刻まれていて……」
(銀の鷲の紋章……!? それって……!)
私の脳裏に、前世でプレイした乙女ゲーム『聖女の誓い』の記憶が走馬灯のように駆け巡った。
(ちょっと待って! 銀の鷲って、隠し攻略対象の『騎士団長の息子・ルーク』の家紋じゃない!!)
ルーク・フォン・バークレイ。
ゲームでは、学園の秩序を守る正義感あふれる騎士候補生で、マリア様のルートでは彼女を陰から守る熱血な護衛役として登場するはずだった。
(でも、なんでルークがマリア様をストーカーみたいにつけ回して、私に『追放の脅迫状』なんて送ってくるのよ!? ゲームの展開と全然違うじゃない!!)
混乱する私の前で、アレクセイの紫の瞳が怪しく光った。
「騎士科の生徒か。……いいだろう、僕の婚約者に危害を加えようとする害虫なら、根こそぎ潰すまでだ」
「待ってくださいアレクセイ様! 早まりすぎてはいけませんわ! 何かの間違いかもしれません!」
「間違いなどない。君に嫌がらせをする者は、誰であろうと許さない」
アレクセイの過激すぎる排除工作を止めるため、そして真相を確かめるため、私はマリア様と顔を見合わせた。
(破滅フラグを折ったと思ったら、今度は学園を巻き込む大事件に発展しそうじゃないの……! でも、大切なマリア様も、暴走するアレクセイ様も、私がまとめて守ってみせるわ!)
開き直った元・悪役令嬢エルザは、謎の騎士候補生ルークの真相を暴くため、自ら動き出すことを決意するのだった。




