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断罪を回避しようと身を引いたら、冷酷だったはずの婚約者が激甘ヤンデレ化して逃がしてくれません!  作者: もも子


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溶ける氷と、甘い逃避行の終わり

(……え? えええぇぇーーー!?)


頭の中で、警報が鳴り響いていた。


ヒーローが愛しているのはヒロインのマリア様で、自分はただの悪役令嬢。だから身を引けば円満に破滅フラグを回避できる――。

そう信じ切っていた私の前提が、ガラガラと音を立てて崩れ去っていく。


「……嘘、でしょう? カルステイン様……」


「『カルステイン様』は禁止だと言ったはずだ」


逃げ出そうとした私の腰を、アレクセイは強固な腕でガッチリと抱き寄せた。

密着した体から伝わってくるのは、尋常ではない熱と、逃がす気などサラサラない力強さだ。


「……アレクセイ、様」


恐る恐る元の呼び方に戻すと、彼の紫の瞳が歓喜でゆらりと揺れた。

それまでの冷酷な仮面が嘘のように剥がれ落ち、そこにあったのは、渇きに悶えていた男の甘い素顔だった。


「……そうだ、エルザ。その声で僕を呼んでくれ」


アレクセイは愛おしそうに目を細め、私の額に、頬に、そして唇の端へと、羽毛が触れるような優しいキスを落としていく。


「きゃっ……!? あ、アレクセイ様、何を……っ!」


「今まで冷たくして悪かった。君の気持ちを試すような真似をして、不安にさせていたんだな。……もう二度と、君を放したりしない」


(ち、違うの! 不安だったわけじゃなくて、単に首を撥ねられるのが怖かっただけなのよーー!!)


叫び出したい気持ちを必死に抑え込むが、目の前の男はすでに完全にスイッチが入ってしまっている。

私が一歩引いたことで、彼の中の「エルザを失う恐怖」が爆発し、隠していたヤンデレな本質を解き放ってしまったのだ。


「これからは、マリアではなく君を生徒会室に置く。君の好きなハーブティーを用意させよう。……夜会のドレスも、僕の濃紺に合わせた特注のものを仕立てさせる。いいな?」


「あ、あの……私の意見は……?」


「君の意見? ……僕の隣に永遠にいること。それ以外は認めない」


完璧な営業スマイルも、徹底的に作った壁も、激甘な執着の前には何の意味もなさなかった。


(破滅フラグは折れた……折れたけど、これ別の意味で逃げられないフラグが立っちゃってない!?)


◇


翌日。学園の中庭には、以前とはまったく違う光景が広がっていた。


「エルザ様! 今日も一緒にお茶をしましょう!」


パタパタと駆け寄ってくるのは、目をキラキラと輝かせたマリアだ。

彼女は私のとなりに嬉しそうに腰掛け、すっかり「憧れのお姉様」を見るような瞳で私を見つめてくる。


「マリア様……私にそんなに親しくして、よろしいのですか?」


「もちろんです! 私、エルザ様と仲良くなれて本当に嬉しいんです! ……あ、アレクにも感謝しなくちゃですね」


マリアがニコニコと笑いながら振り返った先――そこには、生徒会の書類を手に持ったアレクセイが立っていた。


「エルザ。風が冷たくなってきた。僕のジャケットを着なさい」


そう言って、彼は私を後ろからすっぽりと包み込むように上着をかけてくれた。

そして、マリアには見向きもせず、私の耳元で低く囁く。


「……マリアばかり見ないでくれ。僕を見てくれ、エルザ」


(……甘い。甘すぎるし、重い……!!)


冷酷な「氷の公爵令息」はどこへやら、いまや私の一挙一動に一喜一憂し、四六時中甘く執着してくるヤンデレヒーローが誕生してしまっていた。


破滅を回避したはずの私の学園生活は、想像もしなかった「激甘な溺愛ルート」へと突入していくのだった。


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