九十六話 年越し
冬休みに入り、繭奈たちと共に家で三人で過ごす日々が続いた。無事繭奈と父さんの顔合わせもできたしいい感じである。
そんなこんなで迎えるは年末。今日は大晦日であり、両親ともに仕事が休みだ。久々に過ごす家族の時間で、俺としても嬉しく思える。
できるなら新年は繭奈と冬夏との三人で迎えたかったのだが、それはまだ未来の話になりそうだ。みんなも家族との時間があるからね。
それはそれとして、夕飯前の時間に俺は、机の上に置いてあるスマホと向かい合っていた。スピーカー越しに聞こえてくるのは、大好きな二人の声である。
『龍彦に会いたーい!』
『もう何回目かしらね。私もそれは同じよ冬夏』
「俺もだよ、明日が楽しみだな」
溜め息混じりの冬夏の言葉に、繭奈も俺も肯定の意を示す。既に昨日から二人とは会えていないが、元旦である明日は初詣である。
三人で一緒に行く予定だ!
え?クリスマスは会ったのかって?そりゃもちろん。皆で盛り上がったよ。繭奈の家で少しだけパーティー気分で楽しんだ。
昼食を俺たち三人だけでなく、舞智さんと唯那さんも交えて楽しみ、その後は大人組と子供組で別れて部屋で遊んだ。
帰ったのは夕方だ、舞智さんが送ってくれたよ。
『初詣は唯那さんたちも来るんよね?』
『えぇ。龍彦くんのところはどうかしら?』
「来るよ。まぁ、父さんも母さんも俺たちを自由にさせるつもりみたいだけどね」
うちの両親は俺たちの関係を祝福してくれているため、神社に着くまでは一緒にということだ。ちなみに、冬夏のことは話していないので、俺が二人の女の子と付き合っていると聞いたらどんな反応をするんだろうか。
『そなんだ。じゃーアタシも挨拶しようかな』
『やめなさい。お義母さんたちも困るでしょ』
おどけたように言った冬夏に、繭奈が呆れたように返した。そんな二人のやりとりに俺は、乾いた笑いで返すことしかできなかった。
そもそも冬夏と付き合ってるわけじゃなかったし、俺自身も訳が分からなくなってきた。
もう二人と交際してるってことでいいんじゃねぇかな。
『まぁその辺は明日ね。アタシは繭奈の友達ってことで』
『そもそも友達じゃないのあなた。いったいなにを彼女気取りしてるのかしら?』
『辛辣!ってもうこんな時間じゃん』
それぞれ家族の時間もある。名残惜しいが、一旦電話はここまでだ。明日は初詣に行くのだし、そう引きずることでもないだろう。
俺も俺でそろそろごはんみたいなので、電話を切ることにした。ちなみに、久しぶりに母さんの手料理である。
「それじゃあ、良いお年を」
『良いお年をー!』
『良いお年をね、龍彦くん♪』
二人と別れの挨拶を交わして、グループ通話を切る。それからほどなくして俺は、部屋を出て夕飯を食べた。
そうして時間が経ち、ついに年を越した。スマホには二人からと、茂や告美たちからの新年の挨拶。
あけましておめでとうとか、今年もよろしくとかを送り合うだけのそれだが、それぞれ文章に性格が出ていて、思わずクスッとした。
それから少しだけ夜更かしした後、夜中一時頃には床について、目覚めたのは朝八時過ぎである。
あくびをしながらベッドから出てリビングに向かうと、そこには朝食の準備をしている母さんがいた。父さんもその手伝いをしているようだ。
「おはよう龍彦。もう少しで朝ごはんができるからな」
「おはよ。じゃあ顔洗ってくる」
テーブルを拭いている父さんの言葉に、あくび混じりで返す。洗面所に足を運びながら、母さんとも朝の挨拶を交わす。
ちなみに、両親は一緒に年越しをしたので、既に年越しの挨拶は済ませている。
戻ってきてすぐに朝食をとり、準備をして近くの神社に向かう。
さすがに元旦なので、初詣に訪れた人たちがたくさんいて、かなり賑やかなことになっていた。スマホで二人に到着の連絡を送ると、繭奈は既に着いているようだが、冬夏はもうすぐという返事が来た。
到着しているということで、人のごった返している神社の鳥居より、少し離れた場所でキョロキョロと見回してみると、そこには凄まじく美人なお姉さんがそこにいた。
初詣の装いか、着物で着飾ったその人に釘付けになっていると、彼女が繭奈であることに気が付く。道理で見惚れてしまったわけだ。
「龍彦、どうしたの?」
「なんだ、繭奈さんじゃないか。早く声を……って、なんだ見惚れているのか」
「あぁ、うん」
固まってしまった俺を見た両親が、どうしたのかと首を傾げる。しかし父さんがすぐに納得したようで苦笑した。
そんな父さんに力無く頷いて、俺は繭奈に声をかけた。




