【88】聖女様とパレード(5)
正午の鐘が鳴った。
[青い水晶宮]の城門が開き、ウィルタミア騎士団の先導の元!パレードが始まった。白い鎧に青いマントの騎士団が颯爽と駆ける。
屋根の無い馬車が何台も走り、その上に乗った正装した魔法士が近付く者を魔法の空気弾で排除しようと身構えている。
そんな馬車や、銀の鎧で黄色いマントの王国騎士団に囲まれた国王夫妻の乗ったオープンタイプの馬車が現れた。
黒馬に牽かれた馬車の上で、きらびやかな衣裳で身を固めた国王夫妻が国民へ手を振っている。
まだ45歳の若き国王と、39歳の美貌の衰えを見せぬ気高く美しい王妃。そしてその後ろの席には領主のオルフェル第三王子の生母、オフィーリア第一側妃が柔らかな微笑みを浮かべている。
三人とも王族や貴族に相応しい青い髪をしている。
初めは新婚夫婦の後にパレードする案もあったが、王妃が速攻で否定した
「あの主役の後ろなんて真っ平後免だわ!
みんな通りすぎる新婚の二人を目で追って、誰もわたし達なんか見やしないわよ!」
それで先に参加したのだ。
王都でも滅多に見られない国王夫妻の姿に、国民領民は大いに沸いた!
そしていよいよ真打ち登場。
ウィルタミア騎士団に囲まれてた、八頭立ての白馬に牽かれた純白の馬車。正に恋物語の一場面をそのまま切り取ったような、王子と姫の姿がそこにはあった。
王族を表す青い髪と紺色の瞳のオルフェル第三王子。
白い礼服に胸から肩に飾緒……飾り紐が映えている。光沢のある青いマントを片側だけに掛ける姿は凛々しく素敵で格好いい。正に絵に描いたような王子様だ。
その傍らには綺羅綺羅したティアラを焦げ茶の髪に飾ったラフィーネ王子妃。
成人したばかり15歳にしては小柄だが、その美しさを否定する者は誰もいなかった。ラインストーンをちりばめた白いドレスに、可憐な細腰から広がるスカートは青いシルクのチュールが幾重にも重なり豪奢。
純白のベールがティアラから伸びて、風に靡いている。
それは身長よりも遥かに長くほうき星のよう……。
にこやかに微笑みながら振る腕には、繊細なレースが施されたウェディンググローブ。
二人の周りを魔法で作り出したキラキラした光が飛び交っている
「平民なんて……嘘よね?」
「「「素敵!!」」」
少女達は物語の主人公達を間近で見て、放心している。
ラフィーネ王子妃の整った美しく可愛らしい容姿に、誰もが心奪われている。焦げ茶の髪に茶色の瞳。平民庶民を代表する当たり前に存在する色合いなのに、ラフィーネ王子妃は飛び抜けて美しく感じる。大きめの瞳、長い睫毛。とすーっと優しく弧を描く眉。形よい鼻。小さくふっくらした唇。それらが見事に調和している。
焦げ茶の髪は緩やかなウェーブを描き、ベールとともにフワフワと風に舞っている。
その姿に、一国の王子が王の座を捨ててまで、彼女を選んだ理由を納得してしまった。
何処からか流れていた、意地の悪い平民の娘が悪辣な手で王子を惑わした……という噂はたちどころに消え去った。この地上に現れた可憐な生き物を、誰にも渡したくないと思う王子の想いも理解した。
パレードは領都の二つあるメイン通りを進み[青い水晶宮]へ戻るルートだ。行く先々で人びと熱狂的に歓迎され、パレードは大盛況だった。
そんな様子を教会の尖塔から眺める少年がいた。
目深にフードを被っている
「へぇ~。国王に最も相応しい兄さんが選んだ花嫁が気になって急いでここへ駆けつけたけど、今日がパレードなんてついてるね!」
遠くに見える花嫁の姿を見ながら
「なんだろうアイツ。魔力がカスなのに、スゴく甘いいい匂いがする。こんなに遠く離れているのに……。何でかな?」
少年は尖塔から地面へ飛び降りる。落ちる時の衝撃は風魔法で軽減してあるので心配はない。少年はピッと指笛を鳴らした。黒いローブを着た者が少年の周りを囲んだ
「ねぇ。みんな準備は出来た?」
「はっ。指図通りに……」
ローブの者達は五名。少年の足元で片膝を付き支持を待っている。
「やっぱりさ。めでたいから贈り物をしないとね!
合図をしたら全部解き放ってよ」
「……はい陛下」
「おい!お前!」
少年は陛下と呼んだ者の胸ぐらを掴む
「陛下はやめなよ。なぜ陛下なんて言うのさ」
「それは……陛下が魔王陛下で在らせられる故に……」
「だからぁ~。ボクが魔王の訳がないでしょう?
なんせボクは聖女を見つけて愛してこの国の王になるんだからさぁ~。魔王が聖女となんてぇ~。洒落にならないよ。まっ。いっか。」
少年はローブを着た者の胸ぐらから手を離し、地面へ転がした
「それよりも準備できたんなら、さっさとおっぱじめようか!みんな!このパレードをトコトン楽しもうぜぃ!」
少年が合図をすると、ローブを着た者達は人混みの中へ消えた。




