【89】聖女様とパレード(6)
「キャーーー!!!!!」
領都のあちこちで悲鳴が上がった。
護衛兵の動きが慌ただしくなる。
「何事だ!」
オルフェルはラフィーネを庇いながら叫ぶ
「良く分かりません!同時多発的に何かが起きています!」
別の騎士が駆けてきて
「瘴気が突然発生して、魔物が現れたようです!」
「瘴気?」
オルフェルは唸る。瘴気は人が余り居ない山や森の奥地に発生する。対策が遅れればそこから徐々に広がり辺りを侵食していく。
この人通りの多い街中、それも太陽の照り付ける昼間に発生したなんて聞いたこともない。
「先ずは国王一行を最優先に保護し、[青い水晶宮]へお連れしろ!それから兵士達は一団を形成し、魔物を食い止めろ!我々も一旦水晶宮へ下がり、そこで体勢を整える」
騒ぎに巻き込まれた民衆がパニックになって、叫び声をあげながら逃げ惑っている。その後ろから巨大な牛の形をした魔物の姿が見えた!
「ビックホーン!なぜこんなところに!」
ビックホーンは大きな角を持つ全長4m大の牛のような魔物。瘴気に覆われた草原とかに見られる中型の魔物だ。
このウェルタミアの領都ウェインは四方を壁に覆われ、こんな魔物が入り込む隙間はない。
つまりは突然この街中に発生したことになる。
それも複数体!
数十体ではきかないだろう!
領都ウェルタニアのアチコチから悲鳴と喧騒が木霊している。
目に見える範囲でも、黒々とした巨体のビックホーンの群れが暴れまわっていた。
ビックホーンの角に巻き上げられて、人が宙を舞う!
オルフェルはソレを苦々しく睨み付けると馬車から降り、馬に乗り換える
「しっかり掴まって!ラフィーネ」
「はい……」
ラフィーネを馬に乗せている間に、兵士に指示を出す
「ビックホーンの正面に立つな!やり過ごしその側面から脚を狙え!槍を持つ者は胴を刺し動きを鈍らせろ!」
オルフェルは馬を脇腹を蹴ると、馬が走り出す。
前方の国王一行は王国騎士団が厳重に守って移動しているので、心配は無いだろう。
本来なら民の安全も確保しなければならないが、要人を脱出させ後顧の憂いを払わないと魔物との戦闘に兵力を集中出来ない。オルフェルも自身の騎士団に守られて進んでいる。
ラフィーネは必死にオルフェルにしがみついていた。
ラフィーネが恐る恐る目を開けて辺りを見れば、所々に青紫の禍々しい煙のようなものが立ち昇っているのが見えた
──あれが……瘴気?
すると頭の中にある単語が浮かんだ。同時に清浄な光のイメージが脳裏に写し出される。
ラフィーネはその単語を誰にも聞こえないような小さな声で呟いた
「──ホーリーフィールド──」
すると目線の先の紫の煙のようなものが、たちどころに眩い光に包まれて消え去った。その光は今もそのまま残っている
──今のは何?わたしがやったの?
「殿下!複数のビックホーンがこちらへ向かってきています!明らかに殿下を狙っております!」
「食い止めろ!」
──くそ!
逃げる人々が押し寄せ、思うように進まない。
自分が狙われているのなら……
「ラフィーネ。別の馬に乗ってここを離れるんだ!
ミーアキャンベル!ラフィーネを任せた」
「はっ!」
現れた金髪の女性騎士はオルフェルに抱き上げられたラフィーネを馬上で受け取る
「奥様!しっかりと掴まって下さい!」
「オルフェル様!オルフェル様もお逃げください!」
「ラフィーネ。ぼくは大丈夫。心配いらない。
行け!ミーア!」
「はっ!」
ミーアキャンベルは馬を走らせる。
押し寄せる人混みに上手く進めないが、それでも進んで行き、オルフェルとどんどん離されていく。
四体のビックホーンが奮闘するオルフェルの元へ向かっている。騎士達が必死に食い止めているが、周りに一般人もいるために思うように剣を振り回せない!
オルフェルは馬上で指示をだしているが、ビックホーンは狙い定めたようにオルフェルに向かっている。
騎士が叫ぶ
「殿下!お逃げ下さい!血路を我々が開きます!」
オルフェルはチラッとラフィーネの方を見る。
逃げ惑う人々に巻き込まれて、思うように進めていないようだ。このままなら巻き込むかも知れない。もう少し引き付けて……
「うわぁーあ!」
近くの騎士が角に跳ね上げられ、空を逆さになって飛んでいる!ビックホーンは護衛が空白となった地をオルフェル目掛けて勢い良く突っ込んでいく!
「殿下!!!」
騎士が間に入るが、また撥ね飛ばされる!
ラフィーネはその様子を見ていた!
オルフェルにビックホーンが迫る!
オルフェルは剣を抜き放ち身構える。
ラフィーネはその後に続く愛する者の惨劇を想像して、血の気が引いた。
「いやぁあ!オルフェル様ぁああああ!!!」
ラフィーネは絶叫した!




