【76】聖女様の結婚式(7)
ラフィーネは気が付いたら何故だか体が光っていた。
そして目の前に、白い礼服に身を包んだ青い髪と瞳の世にも美しい貴公子が自分を見詰めていた
──これは……夢……よね?
わたしは首をかしげた。
そして自分の指先が、貴公子の指と、大きな桃色の玉の上で触れあって居るのを見た。
そして相手の温もりを感じた
──夢なんかじゃない!
とたんに恥ずかしさが溢れ出て、顔が熱くなった。
それでもこの美しい物語の王子様のような男が、何故かわたしに愛情溢れる視線を送ってくれている。視線を合わせるのが気恥ずかしくて、わたしは俯いた。
そして自分が純白の衣裳に身を包み、着飾って居るのに気付いた
──まるで花嫁衣裳のよう……
わたしは恐る恐る視線を上げて、勇気を出して聞いてみた
「ここは……何処でしょうか?」
物語の王子様はハッとした顔をして
「青い水晶宮です。そして……わたしとラフィーネは結婚式の最中です」
──嘘でしょ!
結婚式!
この物語の王子様ような人と!
なんで?
それにラフィーネって?わたしの名前かな?
記憶に無いけど……。
他に自分の名前も思い付かないから、わたしはラフィーネなのかも?
──えっ?近い近い近い近い!
素敵な王子様が身を寄せてくる。
そして桃色の玉から手を離すと、わたしを優しく抱き寄せた。わたしの手も同時に玉から外れる。
耳元で囁かれる
「もしかして……記憶が戻ったのですか?
もしそうなら頷いて下さい」
記憶なんて戻っていない。
わたしは自分が何処の誰かさえ分かっていない。
だから……首を軽く振った
「では……この状況を理解出来ていますか?」
いえ。これっぽっちもサッパリ欠片も分かりません。
もちろん……首を振る
「先ほども言いましたが、わたしとラフィーネは結婚式の最中です。指輪交換が終わり、互いに愛を誓い、宝玉に祝福されたところです。これから誓いの接吻になります」
せっ!せっ!せっ!
──接吻!!!
無理無理無理無理無理無理
だってわたしの記憶では、殿方と口付けなんて交わしたこと無いもの!もしかしてこれが……
──初キッスかも?
でも結婚式まで挙げるような親密な仲なら、きっとキスくらいなら日常的にしていても可笑しくないわね?
「ラフィーネ?接吻は嫌なのかい」
──嫌!
な訳無いじゃないですけど……。
いきなり見ず知らずの初対面の相手……しかも超絶良いお顔の貴公子様がお相手では、わたしの役不足が痛ましくて……。
あっ
なんか哀しそうな瞳で見ている。
「これが無事済んだら、この会場を後に出来るよ。でも今のままでは皆不審がって進まないから……」
キスをしてって……ことね。
わたしは横目で会場を見る。来賓の皆様がどの方々もご立派で、この状況を不安気に眺めている。王様のような人もいるし……。
もしわたしがこの人を愛して結婚を決めたのならば……
「ラフィーネ。ぼくとの接吻は嫌なのかい?」
わたしは首を振る。
もう今はこの状況を乗り切る為にも、流れに乗るしかないと思う。
それに……こんな素敵な人なら……いいかな。
「わたし……嫌じゃ無いです。
わたし初めてじゃないかも知れないけど……わたしには初めての接吻なので……優しくしてください」
とたんに貴公子の笑顔が華やいだ。
貴公子は、成り行きを見守っていた偉そうな格好をした神父様に頷くと、神父様もニコっとわたしに微笑んで
「それでは!両者の永遠の愛を願って!
誓いの口付けを!」
神父様は両手を広げて賓客たちへアピールする。
もはや舞台の一場面。
主役の一人らしいわたしはもう演じるしかないの?
貴公子がそっとわたしの頬に触れる。
わたしは顎を上げ瞳を閉じる。
背中にも手を回され、引き寄せられる。
わたしの唇に、唇が触れた
──意外と……柔らかいんだ……
胸と胸が密着し相手の鼓動を感じる。
そしてわたしの胸の奥に暖かい想いが沸き起こる。
多分わたしが目覚める前の感情。
わたしは気付いてしまった
──わたし……この人を大好きだったんだ
初めての会った人なのに嫌な思いは全然しない。
この感情は[愛]なのかは分からない。
でも心が喜んでいるのが分かる。
そしてわたしもこの唇を触れあっている人を大好き。
どうしようもないくらい好き。
わたしは震える両腕を彼の背中に回し、わたしもそっと彼を抱き寄せた……。




