【74】聖女様の結婚式(5)
[青い水晶宮]では、使用人総出で連日接待の準備に追われていた。今も続々と貴族達が領地に到着している。
いよいよ今日、国王夫妻とオルフェルの生母たる第一側妃オフィーリア殿下が訪問する予定だ。
その目的はオルフェル第三王子の結婚式!
結婚式は明日に迫っていた。
誰もが羨むオルフェル王子の相手はラフィーネ・ルシアン伯爵令嬢。だがその女性は平民出身であると既に暴露されていた。しかも側室でもなく正妻!
ララが成人して2ヶ月目の出来事である。
そしてその話を知って多くの貴族や国民は思った
『オルフェル第三王子は国王競争から自ら降りた』
だからと言ってオルフェルの人気が翳る訳でもなかった。ある事件に巻き込まれて記憶を無くした平民のララを、保護し世話を焼いているうちに恋に落ちたと吟われ、そのシンデレラストーリーに国民は沸いた!
そしてその御令嬢は15歳ながら、事件の後遺症のせいで歳より幼い様相を見せているだの、嘘かホントか分からない噂が広まっていた。
これはオルフェル側が意図的に流した情報である。
国王夫妻が急遽結婚式に出席することが決まり、ララの状態を最早隠しきれないという判断からだ。
結婚式も本来は内々に簡潔に済ませる筈だったのに、国王夫妻の参加によりそうもいかなくなった。
国王夫妻が出席するとなれば、その格に似合った貴族達も招待せざる得なくなり、時間の押している中で急ピッチで準備していたのだ。
こんなに急いだのには訳もある。
隣国の同盟国フリーデン王国の第三王子アーサー殿下の侯爵就任祝いに、こちらの方面軍の司令官でもあるオルフェル王子が招かれていて、夫婦で出席すると返事をしたためていたからだ。
結婚式から一月後に、その侯爵就任を祝う宴は予定されていた。はじめから夫婦で出席を目論んでいたので、国王夫妻の参加でも予定をほんの僅かしか後方にズラせなかったのだ。
本来ならば最低でも半年……せめて一年は準備期間が必要なのに、何故か急かされるようにオルフェルは結婚を急いだ。それでもオルフェルの迅速な対応と適切な采配で、準備は滞りなく進んでいた。
優秀な家臣団の尽力もある。
そんな[青い水晶宮]全体が戦争前夜のように騒がしくしているのに、たった一人、この世紀の結婚式の主役のラフィーネ・ルシアン伯爵令嬢だけが平和にお茶をしていた
「ラフィーネ様!ティーカップは優しく置いてくださいね」
「えーめんどくさーい!」
平民アイラは名前を変えララとなった。
そして出世魚のように今度はラフィーネと変わった。
アイラという本名は一部の人間のトップシークレットで、使用人達はララという名前で疑っていない。
世間にはララはおろか、ラフィーネという名前だけが広まっていた。
オルフェル側がラフィーネで噂をばらまいたからだ。
このララの世話を焼いている侍女も、アイラという本名は知らない。それどころかララ本人も、自分がララ以外の何者でもないもだと信じ込んでいた。
けれど流石に貴族令嬢がララではマズいので、ラフィーネと改名となった。けれどララは改名から一月が過ぎているが、未だに自分の名前を上手く言えない。
というかアイラという本名もすでに忘れていた。
というよりも存在そのものも記憶の端から消えていた。
記憶喪失の時に「君の名前はアイラだよ」と教えられて、呂律が回らず本人もララと聞こえたのか「わたしはララ」と憶えてしまった。
そしてその行動もまるで五歳以下の子供のようであった。
オルフェルはララ改めラフィーネを、そんな御令嬢であると王家にも包み隠さず伝えた。察した国王はラフィーネ嬢に関しては[一切の無礼を許す]と許可を出していた。
許して貰わなければ平民出身のララなんて、秒で首が飛んでしまう!
今のラフィーネは専属侍女のパラナとキャロルに世話を焼かれている。パラナは子爵令嬢でキャロルは男爵令嬢。信頼出来る家臣の娘からラフィーネの専属侍女を集った。
初めはラフィーネの天真爛漫で予測出来ない行動に戸惑っていた二人だったが、今はその屈託の無い性格に惚れ込み心の底から仕えている
「ラフィーネ様。明日いよいよ結婚式ですね?
オルフェル殿下との結婚は楽しみですか?」
「けっこん?けっこんてなに?」
パラナは眉をひそめて
「えっと……大好きな男の人と女の人が仲良く一緒にいようという、儀式です」
「仲良し?パパと仲良しだよ?」
「その……身内の方じゃなくて!
オルフェル殿下!ラフィーネ様はオルフェル殿下が大好きですよね?」
「うん!大好き!ずっと一緒にいたい!」
ラフィーネはにこやかに笑って立ち上がる。パラナはそんなラフィーネをなだめて座らせて
「そのオルフェル殿下と『もっと仲良く一緒にいようね』という儀式です」
「ララ!嬉しい!」
部屋の扉が開き、丁度オルフェルが入ってきた。
ラフィーネは 立ち上がると駆け出して、オルフェルに抱きついた
「でんかぁー!」
「どうしたララ?何か良いこと有ったのかな?」
「あした!ララとでんか、けっこんするの?」
「そうだよ」
オルフェルはかがんで、ララと目線を合わせる。
そのララへ向ける愛おしくて堪らなそうな視線に、パラナとエミリーも思わず涙ぐむ
「ララね。嬉しいの!大好きなでんかともっともっとずっと一緒に、居れるから!」
「おや?楽しいこと言ってくれるねララ。
どうやらララに素敵な事を教えてくれた人がいるようだね」
オルフェルは侍女二人に微笑みかける。
侍女二人は顔を赤らめ、ペコリと揃ってお辞儀をする
「ララ。ぼくはあした。ララが大好きでもっともっと大切にするって誓うから、ララも一緒に誓って欲しいんだ」
「ちかう?」
「うん。誓うとはね。神様に約束するってことなのだよ。そして凄く大好きは[愛する]って言うのだよ」
「あいする?は『すごく大好き』なの?」
オルフェルは頷き、ラフィーネの頭を撫でる
「そうだよ。あした白い服を着たお爺さんが『永遠の愛を誓いますか?』って聞いたら、わたしは『誓います』と言うからララも『誓います』と言って欲しいな」
「うん言う!でんかをあいする!ちかいます!」
ララはまたオルフェルに抱きついた。




