【64】聖女様と二つの国(4)
ギルドから冒険者達に依頼が出た。
これは冒険者ギルドから正式な依頼。
このローレンの街の冒険者全員に、半強制力を持つ依頼だった。
内容は
〈アイラの捜索。人相書きの二人組の情報提供と確保〉
ギルドとしては、アイラが拐われたとしたら、アイラを特別扱いしたギルド側の責任も大きいので、ギルドからの依頼とした。カムスにも通知を送った。
幸いガイも多くの冒険者から頼りにされ慕われていたし、愛想の良いアイラはギルドのマスコット的キャラクターでもあった。背も低かったしね。
その愛らしいアイラちゃんが拐われた可能性があるとして、冒険者達は色めきたった!
「許せねぇ!何処のどいつだ!
よりにもよってアイラちゃんを拐うとはふてえ野郎だ!」
「この冒険者の街で!許せねぇ!」
冒険者ははみ出し者に見られる事もあり、中街の高級店からは入店を断られる事も多かった。別に高級店は冒険者だから入店を断ったのではなくて、店に入る服装がそぐわないので断っただけだが、普段の冒険者達の姿がどう思われているかを表していた。
泥棒や浮浪者に間違われる事もあった。
だがそんな冒険者達だが、彼等にも彼等なりの矜持があった。
泥棒や人拐い、そして暗殺など、人様に顔見せ出来ない暗い依頼は絶対受けないし、しないということ。
その為に裏社会にはそれら専門に扱う[闇ギルド]なるものがあるが、冒険者達の多くはその闇ギルドやそこに出入りする者達を毛嫌いしていた。
このローレンの街には闇ギルドは存在しないが、冒険者ギルドはその手の依頼は絶対受けないし、依頼を持ち込んだ人物はブラックリストに乗り出入り禁止になる。
最近はカムスの街の闇ギルドが壊滅したばかりだ。
モンスターと戦わせる違法賭博場が検挙された事件から洗い流され、民家を装っていた闇ギルドが浮き彫りになり幹部は粗方捕まったばかりだ。
冒険者達にとって冒険者稼業は、全うな職業に適正の無い彼等なりに、全うに稼いで生きる手段であった。
人様に顔向け出来ない仕事はしない。
其が誇りでもあった。
だからこの冒険者の家族が多く集まるローレンの南街で、しかも冒険者ギルドで得た情報で、冒険者の家族が拐われるなんて有ってはならない事だった!
緊急性がある依頼以外は放り出して、冒険者達はローレンの街中へ散った。
☆☆
アーサーは執務室で書類の山と格闘していた。
後継者不在で一時王家預かりとなっていたアスタリス侯爵領を、王家から賜った。
アスタリス侯爵領はローレンの街を中心とする領地で、ローレンには劣るが似たような規模の街も幾つか存在する。
同盟国のファルシア王国と国境を接していて、交通の要衝でもある。
アスタリス侯爵家は王家に忠実な武の家門として、代々この地に根を張ってきた。
だが、次期国王の後継者争いに巻き込まれた。
侯爵夫妻が馬車の事故で命を失ったのだ。
侯爵は有力な王太子派であり、彼の親友でもあった。そのアスタリス侯爵を排除すべく陰謀が企てられ、ライバルであった第二王子派に事故に見せかけて暗殺されたのだ。
これは後継者争いが決着し、王太子派が勝利したことにより明るみになった。アスタリス侯爵無き後、代理と称して第二王子より強引に送り込まれ実権を握ったダルイ子爵は失脚し、アスタリス侯爵令嬢のレイア・アスタリスの監禁及び殺害容疑で拘束された。
その後の調べで数々の不正が明るみになり、ダルイ子爵の爵位は没収されその領地は埋め合わせの為にアスタリス侯爵領へ編入された。
ダルイ子爵とその家族は平民に落とされ、今はアーサーの家臣の男爵家預かりとなっていた。
アーサーがこのアスタリス領の領主となったのはこんな思惑があった。
それは無駄な後継者争いを避けるため。
王太子派と第二王子派は、次期国王が王太子に決まるまで、熾烈な後継者争いが繰り広げられた。特に第二王子派の手段を選ばぬ苛烈振りに多くの貴族達が巻き込まれ、王国は疲弊した。
その轍を踏まない為に、王太子の三番目の子供であるアーサーは後継者争いから外されて、アスタリス侯爵となることが決まったのだ。
アーサーが次期王太子である兄と仲が良く、将来王国を支える信頼にたる家門として存続することを願われていた。
アーサーは領主であるがまだ侯爵ではない。
爵位は成人となる15歳まで受け継げない。それまでは父である王太子の側近のフェルデ伯爵が侯爵代理として補佐をしている。フェルデ伯爵は未成年領主アーサーの後見人として、領主の仕事の多くも肩代わりしていた。
フェルデ伯爵とアーサーは、ダルイ子爵が滅茶苦茶にした侯爵領の復興の為に日々書類の山に埋もれて忙殺されていた。
そんなアーサーの元へ、女騎士であり最側近のメリアベルが、急ぎの案件でやって来た
「なんだメリアベル!血相を変えて」
「憶えておられるでしょうか?殿下と決闘をした少年を?」
忘れる訳がない
「ジャンのことか?あいつがどうした?」
「面会を求めております」
──何しに来たのだ?面会?
再戦の要求だろうとアーサーは踏んだ
「断れ。遊んでいる暇はない。
それよりもジャンはどの面さげてここへ来たのだ?
親父が殴り損ねたか?」
だがメリアベルは指示に従わなかった
「どうした?メリアベル。行け!」
「いえ!アーサー殿下。会われた方が宜しいかと思われます」
「なぜだ?もうアヤツの顔も見たくはないのだけど?」
「アイラ殿に関わることです」
アイラ?やっぱりアイラを諦めきれないのか?
「尚更だ。追いかえせ!」
「アイラ殿が行方不明です!」
「何!」
「どうやら誘拐されたようです」
「バカ!それを早く言え!
直ぐにジャンと会う、応接室へ通せ!」
アーサーは立ち上がると書類の山をぶちまけて、急いで部屋を出ていった。




