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スイートポテト。

「間に合ってよかったですね。」

若い女性看護師さんの声とともにドアの影から現れたのは、大学生くらいの男の子だった。

「じいちゃん、水臭いんだよ。入院してることまで黙ってんじゃねーよ。」

「祐也!お前、どうしてここに?」

村田さんは、かなり面食らっている。

「昨日、お袋に電話があったんだよ。マヤさんとかいう人から。お袋からコレ預かってきたぞ。」

お孫さんは、大きな紙袋を村田さんに渡していた。

「開けてみて。」

紙袋から出てきたのは使い捨てのランチケース。蓋を開けるとほんのりと洋酒とバターの香りがして、黄色い細長いものが姿を見せた。どうやらスイートポテトらしい。

「お袋、どうしても仕事が休めないからって、電話を受けてから夜中までかかって作ってたんだよ。俺は、学校サボったけどな。」

クスっとお孫さんが笑うと、村田さんは顔をほころばせた。

「遠いところから、済まなかったな。」

「いいよ。堂々と学校サボれたし。あ。じいちゃん、お誕生日おめでとう。」

祐也君が言うとどっと笑い声が起こった。そして村田さんは笑いながら涙を浮かべていた。

「孫の祐也で、大学生です。私の娘が作ったスイートポテトを届けに来てくれました。皆さんも一緒に召し上がってください。」

「じゃあ、こちらと一緒にお皿に乗せてお配りします。」

俺はスイートポテトを預かると、切り分けたマカロンとともに皿に分け、ばあちゃんと祐也君に手伝ってもらって配った。もちろん看護師さんの分も。みんなの顔がほころぶ。みんながスイーツを手にした時のこの瞬間がたまらない。

「ところで、真山さんがどうして娘の電話番号を…?」

「この美味しい口止め料をいただいたから、何も知りませ~ん。」

看護師さんがマカロンを手にニヤリと笑った。少なくともこの看護師さんは最初から知っていたということか。そしてやっぱりじいちゃんが犯人か。まったく相変わらずだな。

俺も村田さんからぜひと言っていただけたので、一緒にスイーツをいただくことにした。

サツマイモの形に整えられたスイートポテトを手づかみで頬張ると、バターとブランデーの味が口いっぱいに広がった。美味いな。

「どうですか?プロの方のお口に合いますかな?」

村田さんが優しい笑みで言う。

「美味しいですね。とても。」

「良かったです。娘がまだ子供の頃、サツマイモが好きだと話したら、よく作ってくれたんです。覚えていてくれたんですね。」

俺の思い出はお袋の味だが、娘さんの味が思い出ということもあるんだな。ほんのりとした甘さに思い出がエッセンスになっていて、なんともほっこりとした味わいに思わず笑顔になった。

「このマカロン、すげー美味いっす。」

祐也君の声にみんなが頷いている。

「そうだろう。おじさんの自慢の孫なんだよ。」

じいちゃんがうれしそうに話す。

「なんの騒ぎですか?」

いきなりドアが開いて、威厳たっぷりの声が響いた。ゴッドマザーという言葉が似合いそうな女性看護師の登場に一同が静まりかえった。これは看護師長という人物では?やべー。今度こそやべーぞ。

「どうもお騒がせしてすみません。ご一緒にどうぞ。」

ばあちゃんがすかさずマカロンとスイートポテトの乗った皿を差し出す。俺もあわてて飲み物を差し出して一礼をした。

「そ、そういうことは、ですね…!な、菜須さんまで!ここは、び、病院であって、ですね…。い、いただきます。」

威厳あるゴッドマザーのような彼女が、ちらりと若い看護師さんの菜須さんを見ながらもあっさりとお皿を受け取る姿に、みんながほっとして、そしてクスクスという笑い声があがる。

「あの、いただいておいて言うのもなんですけど、今回限りにしてくださいね。こんなおいしい物を出されたら注意できないじゃないですか。」

怒っているんだか喜んでいるんだかわからないゴッドマザーの様子に、みんなが笑いをかみ殺している。

「すみません。私のために、真山さんが一肌脱いでくださったんです。」

村田さんがペコリと頭を下げる。

「看護師長の立場としては、ですね。…いや、その、ですね。このマカロンの、お、お店の場所を教えてくださったら見なかったことにします。こんなに抹茶を利かせたスイーツを出されたら、困ります!」

全員がかみ殺していた笑いが一気に湧き上がった。なんだかんだ言っても良い誕生日会になったかな。


ゴッドマザーの采配で、医師に見つかる前にと急いで片付けをして家路についた。もちろんショップのカードと焼き菓子も忘れずに配って。それを受け取って一番喜んだのは看護師長さんだったようだ。

ヒヤヒヤしたけど、ゴッドマザー、いや、看護師長を巻き込むことができたのはかえってラッキーだったな。

村田さんは、離れて住む子供たちに遠慮してあまり連絡をしていなかっただけで、仲が悪いわけじゃないそうだ。最初聞いたときは複雑な事情でもあるのかと思ったが、そうではないらしいと聞いてほっとした。

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