お祝いはもちろんサプライズで。
俺は今、マカロンタワーを乗せて、ハンドルを握っている。店は陽菜に任せて、俺が届けることにした。
今日の主役である、じいちゃんのお友達は75歳の誕生日を迎えるということで、75歳らしい演出ができないものかと考えたところ、タワーの高さを調節することで、75個のマカロンを使うことに決めた。もちろん数字のキャンドルは忘れない。ついでにクラッカーを持っていこうかとも思ったが、さすがに病院にも、フォロー担当のばあちゃんにも迷惑がかかるので、それだけはやめることにした。
使い捨ての取り皿とフォーク、紙コップ。ステンレス魔法瓶に、温かいコーヒーと紅茶を用意。そして色紙とペン、ポラロイドカメラも持っていくことにした。その場で、お祝いしてくれる人たちと一緒に色紙を完成させてプレゼントすることにした。当然ながら、看護師さんたちへのフォローとウチの宣伝も兼ねて、焼き菓子の小袋を多めに用意。ばあちゃんだけにフォローさせるのは、気の毒だからな。
駐車場に着き、タワーや飲み物などの荷物を乗せた台車を、揺らさないように押す。病院は午後とはいえ、時間外の外来や見舞い客がけっこういて、俺の荷物は注目を集めていた。私服で出てきて正解だな。コックコートで来たとしたら、もっと注目を集めてしまっただろう。
病室のある階でエレベーターの扉が開くと、ソワソワと待ち構えているばあちゃんの姿が目の前にあった。
「無理を言ってごめんね。」
「気にしないで。これもちゃんと注文をしてくれたんだし。」
誰もいない病室に着くと、ばあちゃんと二人で準備にとりかかった。じいちゃんは、友達を呼びに行っているんだとか。
ベッド用テーブルを二つくっつけた上にテーブルクロスを広げ、タワーを乗せたところでドアが開き、ワイワイと声が聞こえた。
「これは何のツリーだ?」
「親戚の結婚式でピンク色のは見たことがあるわね。」
「立派なケーキだな。」
じいちゃんとほかの患者さんらしき人たちがワイワイとタワーを見て声を上げているのだ。皆さんに軽く会釈をしてから紙コップに飲み物を注いでいると、ばあちゃんが配ってくれた。
「村田さん、お誕生日おめでとう!乾杯!」
配り終わったと同時にじいちゃんが声を上げたとき、一人だけ面食らっている人がいた。主役にだけ知らせないようにしてサプライズのようだな。俺は急いでキャンドルに火を点け、声をかけた。
「本日はおめでとうございます。では、キャンドルの火を消してください。」
「え?あの…。」
「真山の孫の朝日と申します。祖父からお誕生日祝いのご依頼で参りました。」
そう言って頭を下げると、村田さんは顔をクシャクシャにして微笑んだ。
照れくさそうに火を吹き消すと拍手が沸いた。
「おめでとうございます!よかったですね。」
「ありがとう。みんな。真山さん、ありがとう。」
村田さんが涙ぐんでお礼を言ったその時、病室のドアが開いた。
「まあ、病室にいらっしゃらないと思ったら…。」
声のした方を見ると看護師さんが立っていた。やべえ。叱られそうだな。とりあえず焼き菓子を渡そう。
ばあちゃんは看護師さんのほうに近づいていこうとしている。フォローに入るつもりだな。
「病室でこんな大騒ぎをしてもらっては困ります。…ご家族の方にどう申し上げればよいのか…。」
焼き菓子を渡して、早いとこ切り分けてしまおう。そして、この看護師さんにも一緒に食べてもらって、なんとかこの場を収めなくては…。
焼き菓子とナイフを取り出そうと体の向きを変えたとき、看護師さんがまた言葉を発した。




