抹茶の最中。
「おう。来たか。」
面会時間を少し過ぎた頃に病室に行くと、うとうとしていたじいちゃんが目を覚ましてそう言った。
「大丈夫?」
「ごめんね。びっくりさせて。」
ばあちゃんが言った。ばあちゃんはしばらく泊まり込むらしい。
「まあ、食え。」
差し出されたのは見覚えのある、昔からのお気に入りの和菓子屋の箱。適当に手に取ってから見ると抹茶あんの最中だった。ここの和菓子も久しぶりだな。じいちゃんは、ここの和菓子をたぶんコンプリートしていたと思われる。いつ遊びに行っても、ここの和菓子が常備されていた。羊羹や最中はもちろんのこと、季節の風景を見せてくれるキレイな練りきり、どら焼き、カステラ。俺はこの店の商品で和菓子の味を覚えたと言っても過言ではない。もちろん、この店の店主とも友達である。お得意様ではなく、友達なのだ。
包みの紙を開けているとばあちゃんが言った。
「幹太おじさんが持ってきてくれたの。おじいちゃん、和菓子がないと脱走しちゃうかもって。」
…じいちゃんならあり得るぞ。タクシーを呼んででも買いに行きそうな人だからな。最中にかぶりつきながら妙に納得。
最中のあん独特のねばっとした食感と抹茶の風味を香ばしい生地とともに味わう。やっぱり美味いな。小さい頃はよくじいちゃんの膝の上で食べさせてもらった懐かしい味だ。「朝日が饅頭屋になったら毎日買いに行くぞ。」といつも言っていたな。今の店を開く時には喜んでくれたが「饅頭屋じゃないのか?」と言っていたくらいだ。その時にお袋のガトーショコラの話をしたら、今度はえらく喜んでくれた。情に訴える気はなかったが、お袋の話はじいちゃんの情のツボに入ったらしい。
「ところで、タワーみたいな大きな物を持ち込んでも大丈夫なの?」
「俺が良いと言ったら良いんだ。明日か明後日にでも持ってきてくれんか。」
ばあちゃんの方を見ると苦笑いしている。やっぱりな。いつもこういうことをするときにばあちゃんがフォローして好き放題やってきたんだ。またばあちゃんは、しかられたときのフォローを買って出るのだろう。
「今朝、自販機のところでコーヒーを飲んでいたら、隣の病室の人と友達になってなあ。聞けば、お子さんが近くにいないって言うじゃないか。じいちゃん、お祝いしてあげたいんだ。」
昨夜に入院して、もう友達って早すぎるだろ。しかも、身の上話ばかりか誕生日まで教えあうなんて、どんな才能だよ。
「本当に大丈夫なの?」
黙って最中を食べていた陽菜も心配そうに言う。
「大丈夫、大丈夫。なあ、ばあちゃん。」
「ええ、ええ。そういうことにしておいてあげますよ。」
今度は陽菜が苦笑する。じいちゃんの情に流されやすいところも、ちょっと破天荒なところも、時々は困るがどうにも憎めないのだ。先述の和菓子屋の店主と友達になったのも、情に流されたのがきっかけらしい。
明日の昼過ぎに届ける約束をして俺たちは消灯時間ギリギリに帰途についた。届けた後のことが気になるが、ここはばあちゃんに任せよう。




