お祝いのツリー。
二次会の三日後、ガトーショコラの焼き具合を確かめている間にスマホが鳴った。慌てて道具を台に置いてから画面を見ると親父からだった。
「おい。大変だぞ。」
俺が「もしもし」と言う前に親父が言い出した。
「何?」
「じいちゃんが昨日、骨折して入院したらしい。」
「え~?」
心配だな。お年寄りだからちょっとしたことで骨折をするのは珍しくないが、治りが遅いものだし、高齢であるほど、元通りとはいかない確率が高い。聞けば夜に風呂を出たときに、パジャマを着るときに転んで、腕を折ってしまったのだとか。足じゃなくてまだ良かったのかもしれないが、腕でも場合によっては不自由になるだろう。
「病院はどこ?仕事が終わったら顔だけ見に行くから。」
「そうしてくれるか?」
「面会時間は?」
「一応8時までだけど、身内だから消灯時間の9時までなら許容範囲だぞ。」
「わかった。」
電話を切ってから再びガトーショコラに向き合うと、またスマホが鳴った。
「朝日か?」
また親父かと思って画面も確認せずに出ると、今度はじいちゃんからだった。
「じいちゃん?腕の骨折なのに電話できるの?」
「おお。もう連絡が行ったのか。ばあちゃんに受話器を持ってもらって電話してるんだ。こないだ頼んだツリーを配達してくれ。」
「はあ?だって入院中でしょ?」
病院にそんなものを持ち込んで良いのか?内科じゃないから普通のケーキくらいは大丈夫だろうけど、あんなでかい物を持ち込むのはどうなんだろう?
「じいちゃんなあ、同じ部屋の人と友達になってなあ。その人が子供さんたちが近くにいなくてさみしそうでなあ。だから、その人の今月が誕生日を、お祝いしてやりたいんだ。」
じいちゃんはすぐに誰かと仲良くなる上に、すぐ情に流される。そのおかげで貸したお金を返してもらえなかったりなど、騙されたこともあるらしいが、常に回りに人がいるタイプだ。そんな性分だけに昨日、入院したばかりで、つまり昨日か今日に友達になったばかりの人のお祝いをしたいというのも、実にじいちゃんらしい。
「とにかく、今夜行くから。そのときに詳しく聞かせて。」
電話を切ってから、陽菜に報告をする。
「ええ~?大丈夫なの?タワーなんて持ち込んで。」
陽菜もびっくりして、じいちゃんの容態よりもそのオーダーのことの方に驚いている。
「とにかく、仕事が終わったら病院に行かなきゃね。」
言い終わらないうちに陽菜は焼き菓子を箱に入れ始めた。
「詰め合わせのオーダーが入ったのか?」
「何言ってるの?今日持ってくお見舞いのお菓子よ。」
もう冷静さを取り戻したのか。さすが陽菜だ。
えーと。俺のできることは、と…。
今日はお客様もそんなにいないから、抹茶のマカロンの準備だけでも取り掛かっておくことにするか。




