フロランタン。
「朝日。このビスケット、豆がたくさん乗っててうまいな。」
ビスケット?作ってないぞ。じいちゃんの手にはフロランタンが握られている。フォークやスプーンを使うよりも手でつかんで食べるほうが好きなじいちゃんは、早々に焼き菓子に手を伸ばしていた。
「じいちゃん。それはビスケットじゃなくてフロランタンっていうんだよ。」
思わず説明してしまった。こういうとこ、親父とそっくりだ。血は争えないな。何せ親父はその昔、ブウラウニーを『クルミ入りチョコパン』と呼んでお袋の失笑を買っていたことがある。クッキー類をビスケットと呼ぶのもじいちゃんらしい。
「フ…?よくわからん。この豆のビスケット、あるだけ買っていくぞ。持ち帰り用に包んでおいてくれ。」
「あ、ありがとう…。」
お買い上げをしかも大口でいただけるとはありがたいが、フロランタンという名前を覚える気は、さらさらないらしい。やっぱり変わってない。
「おじいちゃん、『ビスケット』包んでおいたからね。」
「おう。ありがと。」
陽菜がクスクスと笑いながら飲み物を運んできた。やりとりは厨房に筒抜けだったらしい。
「おじいちゃんらしいね。フロランタンよ。覚えておいて。そうだ。『みどり包み』は食べた?」
陽菜が皿にサーブしてじいちゃんの前に置いた。
「餅菓子か?」
「求肥で包んであるケーキよ。もちろん抹茶のね。」
今度はみどり包みを手づかみでほおばっている。じいちゃんにしたら、どこぞの気取った和菓子も温泉饅頭も、手づかみがいちばん食べやすいから、表面にクリームのない、コレは手づかみしやすかったのだろう。
「おい。この餅菓子うまいぞ。みんなも食べてみろよ。」
餅菓子…。どこまでもじいちゃんらしいトークだな。
「ナニ手づかみしてるんだよ。もう食ってるよ。」
幹太おじさんが苦笑している。幹太おじさんは、じいちゃんが繊細なケーキでも手づかみで食べることをときどき憤慨している。パティシエ仲間でも、ケーキをお上品に食べない客に怒る奴もいるが、俺にしたら、残さずにおいしく食べてもらえるなら、そこまで言うつもりはない。特にじいちゃんには、喜んで食べてもらえているならそれで良いと思っている。
「ところでこれは季節はずれのクリスマスツリーだな。」
今度は抹茶のマカロンタワーを指差している。じいちゃん、いくら何でも勘弁してくれ。ツリーじゃないです!
「そろそろ切り分けましょうか?」
陽菜が笑いをかみ殺して、ナイフを持ってやってきた。




