イチゴショートとお袋の味。
幹太おじさんが目を瞑って口を動かしている。いよいよジャッジが始まるぞ。こんなにもドキドキするのは、子供の頃から何度も味見をしてもらってきたから。おじさんは食べる方の専門で、作ることはしないから、作り方を教えてもらったことはないけど、味には厳しい。子供のときはただ「美味いな。」とだけ言ってくれていたが、本格的に作るようになってからは苦言もたくさん言われたし、イチゴショートについて熱くなりすぎて対立をしたという苦い思い出もある。
「ん…。」
「お。始まったな。」
みんなが、おじさんの様子を微笑って見守っている。
「キメが細かいな。クリームも軽い。…変わらない味。イチゴも良いものを選んでいるな。安定している。それでこそプロだな。」
「ありがとうございます!」
良かった!腕を上げたな、とも言われたかったけど、安定の味と言われることも嬉しい。安定してこそのプロだから。
「朝日、よかったな。審査員のお褒めがあったぞ。」
ほかのみんなからも声が上がった。
「これは美穂子さんの味を思い出すわね。」
ばあちゃんが黒豆入りガトー抹茶を食べながら言った。美穂子さんとは、お袋のことだ。お袋は結婚前から時々、手作りのお菓子を手土産にしていたんだそうだ。娘のいないばあちゃんにとって、手作りのお菓子を持って遊びに来てくれたことが特に嬉しかったと話してくれたことがあった。
「ホント?」
「ええ。美穂子さんの味よ。なつかしいわ。美穂子さん、よく持ってきてくれたの。」
「ホントだ。美穂子さんが一緒にいるみたいね。」
おばさん(幹太おじさんの奥さん)や、大おじさん夫婦(じいちゃんの弟さん夫婦)も目を細めている。お菓子に関しては、お袋が目標でもあった俺にとって最高のほめ言葉だ。
「ありがとうございます。」
俺は静かに頭を下げた。
「清、ヨーグルトムース食ってみろよ。」
親父が、弟である清おじさんにすすめている。清おじさんは親父と同じで甘いものをあまり好まないんだ。コーヒーだけ飲んで、お菓子に手を付けていなかったが、親父に促されてグラスを手に取った。
「お。これなら食える。コーヒーもうまいぞ。」
「こら。失礼だぞ。」
幹太おじさんのツッコミに笑い声が上がる。でも俺は嬉しかった。食べてくれただけでも十分。これは清おじさんのほめ言葉だ。
「ところで、これ、よくわからんけど美味いな。」
口の回りにクリームを付けながらきなこアラモードを食べているじいちゃんが言った。“よくわからん”というのが、じいちゃんらしい言葉だ。
「本日お披露目のきなこアラモードです。」
「きなこか。こういう味、好きだぞ。お前、和菓子屋にならんか?」
じいちゃんらしい冗談にみんなで笑った。




