ヨーグルトのムース。
バレンタインが終わって、久しぶりに親父がコーヒーを飲みに来た。ヨーグルトのムースを注文。親父の数少ないお気に入りである。そしてドリンクはスイーツが何であろうがコーヒーを飲むのが親父流である。
このヨーグルトのムースは甘さを控えめにしてある。実は親父のリクエストもあって、甘いものを好まないお客様のためにと用意しているものだ。そしてフルーツソースもベリーではなく、柑橘系のソースにしている。こちらも甘さは控えめだ。さらにこだわったのは、ムースの量も少なめでトッピングのフルーツを多めにしているという点。スイーツが苦手な人でもフルーツは好きという場合があるためだ。なのでカップルの場合、男性客が注文することが多い。フルーツは入荷状況によって変わる。今日のフルーツはリンゴとイチゴ。そしてちょっと甘いけどマンゴー。
「喫茶コーナーは予約できるのか?」
親父が言いながらマンゴーを頬張った。
「ああ。クリスマス以外ならできるけど?」
クリスマスは喫茶まで手が回らないことと、予約のケーキの置場所を確保したいために喫茶コーナーをクローズしているのだ。
「今度、法事の後に昼飯を済ませてからここでみんなでお茶を飲みたいんだ。じいちゃんばあちゃんも、年だからこの店になかなか来られないし、良い機会だと思うんだ。」
「いつやるの?誰の法事?」
「四月に。ひいじいちゃんのだよ。まあ、お前たちは仕事もあるし、今回はじいちゃん、ばあちゃんと、おじさんおばさんでこぢんまり、平日にやろうと思うんだ。もう定年した者ばかりだからな。平日の方がゆっくりできるだろう?」
なるほど。確かに俺としても平日の予約の方が助かる。
ひいじいちゃんは、親父たちが結婚する少し前に亡くなっているので、俺たちいとこ連中で顔を知っているメンバーはごく一部だ。
「それは口実で、実は幹太おじさんが、『俺がボケちまう前にここのケーキを食わせろ-!』と電話してきたんだ。それにじいちゃんばあちゃんが久しぶりにお前たちの顔を見たいと言ってるしな。」
「なるほど。幹太おじさんなら想像がつく。」
俺は思わず吹き出しそうになった。その元気があればまだその心配はないだろう。親父の兄にあたる幹太おじさんは、親父とは正反対で『美味い物=ケーキ』という人だ。そのせいかこの店を開いた時に、やたら喜んで、開店祝いにとしてパトロン並みにお祝いを包んでくれたのだ。少し遠いから、なかなか店に来ないが、来るとびっくりするほど大人買いをしてくれる、ありがたい存在だ。そして時々焼き菓子を送ると本当に嬉しそうにお礼の電話をくれる。子供のころは、大きな箱いっぱいにケーキを手土産に遊びにきてくれたものだ。
じいちゃんばあちゃんが来てくれることも嬉しいが、ケーキ好きな幹太おじさんが来てくれるのが特に嬉しい。
「幹太おじさんや、他のみんなは何でも喜んでくれるだろうけど、じいちゃんは何が良い?和菓子派だろう?」
じいちゃんは、手土産を持っていくことには喜んでくれるが、洋菓子のときはあまり手が伸びない。和菓子や果物のほうが好きだ。
「それを考えるのはお前の仕事だぞ?」
親父がニヤリと笑う。さすが元営業マン。お客様を喜ばせるため何をするべきか?という課題をずっとこなしてきただけに、ここはノーヒントらしい。ありがたく、この課題をお受けします。




