ブラウニーはクルミが好きだ。
世間はバレンタイン商戦でにぎわう昨今である。もちろん当店でも遅れを取らずに揃えている。生チョコ、トリュフ、小さなチョコ数個を箱詰めにしたギフトボックス。ガトーショコラももちろん。ガトーショコラはホールでプレゼントにとお求めになるお客様も多い。そんななか、陽菜が試食用のブラウニーを皿に乗せて提案してきた。…美味い。甘さ控えめのしっとりした生地にクルミの歯ざわりがなんとも泣かせる。しかし、他の焼き菓子との兼ね合いもあるしな。
「ガトーショコラとかぶるんじゃないのか?」
「ソコは差をつけるのよ。二切れだけにして、小さな袋に入れて、ガトーショコラよりもカジュアルな感じにするの。二切れだけにすれば、値段もガトーショコラよりも抑えられるはずよ。もちろん、期間限定でね。」
ガトーショコラの足を引っ張ることにならなければ良いが。そんな心配をしつつも、天板にまだ残っているブラウニーから目が離せない俺。もっと食いたい。
「しかし、ブラウニーが流行ったのは数年前のことだろう?」
「確かにそうだけど。出してみたいの。それにね。切れ端をサービス品としてお手頃に出せば、ロスはかなり防げるはずよ。」
切れ端のオコボレは俺やスタッフのみんなで、と期待していたのだが。あ。すっかりOKの方向に思考が向いているな。クルミの歯ざわりが俺の首を縦に振らせようとしている。
「うーん。じゃあ明日にでも少し出してみて、様子を見るか?」
「やったあ!さすがお兄ちゃん!」
店長と言わずにお兄ちゃんと言うなんて珍しいな。よほど嬉しかったのか?しかし今ナゼ、ブラウニー?
俺は陽菜にはなぜか勝てない。人たらしの要素もあるので世渡りが上手く、センスが良いということもあるが、陽菜にお願いモードをされると断れないんだ。いや、俺は別にシスコンじゃないぞ。
そんなわけで、まんまと乗せられてしまい、明日にはブラウニーを出すことにしてしまった。
そういえば、かなり小さい頃だが、お袋がブラウニーを焼いてくれた時期があった。口も手もチョコレート色に汚してがっつく俺たちを見て笑っていたな。気づいたらガトーショコラばかり焼くようになっていたからすっかり忘れていた。
陽菜がラッピングまで含めて全部担当するということなので、やらせておくことにしよう。明日が楽しみだな。




