バースデーケーキ。
「もうみんな忙しいし、単品のケーキを多めに買ってくることにしようか?それぞれの好みに合わせたものを買うので、良くない?」
ある年、俺の誕生日の数日前にお袋が言った。
「誕生日の当日じゃなくてもいいから、ホールにして!」
俺は断固として反対した。もうロウソクを吹き消したりすることに興味はないが、誕生日だけは、あの大きなホールのケーキだろう!忙しいというのであれば、当日じゃなくても、家族の揃う日でかまわない。ホールのケーキを食べるべきだ。
「ホールにしようよ。お誕生日なんだよ?」
陽菜が言った。そうだそうだ!陽菜に一票!いや、陽菜が俺に一票入れたのか。
「切る手間が省けるし、合理的じゃない?それに均等に切る自信ないのよね~。」
均等云々の気持ちはわかるが、何よりも切るのがめんどくさいらしい。お袋らしい理由だ。マメかと思えば、思いがけないことでめんどくさがるんだよな。
「カットの大きさが偏ってもいいから、ホールにすべきだよ!」
「そう?じゃあ、前倒しして、週末に受け取れるように予約してくるね。」
俺と陽菜の主張で、バースデーケーキを予約してもらえることになった。誕生日はホールじゃなくっちゃ。
「種類は…、生チョコデコレーション?チョコムース?」
「んー。今年はチョコムースがいいな。」
当時の行きつけのケーキ屋のホールケーキはこの二つがお気に入りだった。チョコレートケーキは今でも好きだ。迷ったが、この年はチョコムースをリクエストした。
バースデーケーキといえば、お袋は自分の誕生日のときは、パティシェに直々にオーダーをしたことだってある。俺はそこまでのオーダーは望んでいないが、陽菜がそれを見て、えらく羨ましがっていた。俺もあの時はオーダーしたケーキの大人なデザインを見たときは、心が弾んだ。普通のホールケーキは切り分けやすさが重視された丸いものが多いが、それは切り分けは度外視の、ハート型。クリームやアラザンがランダムに踊り、マカロンとイチゴが華を添えていた。ベースは俺たちの好きなチョコムースだったが飾りつけを変えるだけでこうも雰囲気が変わるものかと感動したのだ。
そんなことを思い出しながら、今日もオーダーのケーキを作る。オーダーをくれたお客様は若い日のお袋に少し似た女性だった。抹茶のムースをベースにしたスクエア型のものだ。デザインは、抹茶のマカロンと抹茶のチョコプレートを乗せてくれれば、あとはお任せします、とのことだ。ならばさりげなく求肥でも乗せてみようか。お任せのときは、遊び心が顔を覗かせる。
あの日の俺たちのワクワクが彼女やご家族に伝わることを祈って、クリームをふわっと乗せる。




