↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が身を引けば丸く収まるのでしょう?  作者: 九葉(くずは)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/15

第14話

初夏の爽やかな潮風の中、白亜の教会の鐘が高く鳴り響いていた。


「わあ……綺麗……!」

「なんて美しい花嫁様なんだ!」


教会の扉が開いた瞬間、集まった領民たちから割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。


私が身に纏っていたのは、最高級の白絹に繊細な銀糸のレースが施されたウェディングドレス。

オスカーが王都から呼んでくれた仕立て屋と、何度も相談して選んだドレスだ。

袖の形も、裾の長さも、自分で決めた。歩きやすいよう少し短めに、と頼んだとき、仕立て屋は当然のように頷いてくれた。


胸元には、ヴァレンティン家に代々伝わる、深い海の色のサファイアの首飾りが輝いている。


バージンロードの先で待っていたのは、漆黒の正装に身を包んだオスカーだった。

いつも短く刈り揃えている黒髪を綺麗に整え、緊張で少し強張った顔をしている。

けれど、私の姿を視界に捉えた瞬間、その金色の瞳が眩しそうに細められた。


祭壇へ進み出た私の手を、オスカーの大きな手が包み込む。

その指先が、わずかに震えていた。

指を握り返すと、オスカーが小さく息を吐いた。

私ばかりが緊張しているのではないらしい。


「……エレノア」

「はい、オスカー様」


神父の厳かな誓いの言葉が響く。

病めるときも、健やかなるときも。


かつて実家では、私は「病めるとき」を許されなかった。

健やかで、頑丈で、何でもこなすことだけを求められていた。

けれど、この人は違う。


『神の御前において、誓います』


オスカーの低く力強い声が、聖堂に響き渡った。


「エレノア。生涯、お前を大切にする。辛いときに、我慢せず俺を頼ってくれ。……嬉しいことも、一番に聞かせてほしい」


私の番になった。

握った手を少し持ち上げ、彼の顔を見た。


「私も、生涯あなたを大切にします。嬉しいことも、困ったことも、お話しします。だから、オスカー様も……お一人で我慢なさらないでくださいね」


彼が短く頷いた。

その指の震えは、いつの間にか止まっていた。


胸の奥が熱くなり、視界がじんわりと滲んだ。

今度は、悲しい涙ではなかった。


ベールを押し上げられ、オスカーの顔が近づく。

額に、そして唇に、羽毛が触れるような優しい誓いのキスが落とされた。


教会の外へ出ると、青空から色とりどりの花びらが降り注いだ。

港からも船の鐘が鳴り、通りの向こうで手が振られている。


「領主様、奥様、おめでとうございます!」

「奥様、ドレスを踏まないでね! ゆっくりでいいんですよ!」


市場で出会った魚屋の親父さんも、宿屋の女将さんも、みんなが満面の笑顔で手を振ってくれている。

女将さんが目元を拭いながら、何か叫んでいる。よく聞くと、「ちゃんと食べてるかい!」だった。

私は笑って、大きく頷いた。


「エレノア」

隣を歩くオスカーが、私の手をぎゅっと握り直した。


「……幸せか?」

どこか不安そうに、探るように尋ねてくる不器用な旦那様。


私は足を止め、溢れ出しそうな幸福をそのまま乗せて、彼を見上げて微笑んだ。


「はい。世界で一番、幸せです」


オスカーの耳が赤くなった。


「……それは、俺も言いたかったんだが」

「一番は、お一人だけですか?」


尋ねると、彼は少し考えてから首を振った。


「いや。二人でいい」


笑い合った私たちの上へ、もうひと掴み、花びらが降ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。