第8話 パーティー結成?
当然の事だが、ダンジョン攻略には危険が伴う。どんなに強力なスキルを持っていても、たったひとつの油断で命が無くなるような場所だ。
故に、本気でダンジョン攻略をするのであれば、複数人でダンジョンへと赴くことが大半だ。
そのダンジョンに潜るグループを、俗に『パーティー』と呼ぶ。
パーティーを組む最大のメリットは、危険なダンジョンを複数人で攻略することによる安全性。足を怪我して動けなくなったとしても、パーティーの仲間に助けてもらうこともできる。
ダンジョン攻略者は、攻略者証に情報が記録されている為、ソロの場合は確定申告すら不要で自動的に徴税される。……まぁ、俺の所得だと免除されているが。
パーティーを組むことをダンジョン管理協会に申請すれば、攻略者証の情報を紐付けることで利益分配などの記録も共有され、これもやはり納税の手間を省くことができる。会社所属は知らない。
というか、ダンジョン管理協会に申請せずパーティーでダンジョンへ入ると、そこで得た素材は売却した個人の収益となる。その収益を分配した場合は贈与扱いとなるため、無駄に税金がかかるのだ、
税金は怖い。相続税とか特に。なんだよ、土地の評価額って……。
とにかく、パーティーを組むことは大きなメリットがあると言える。
……が、勿論リスクもある。
「えーっと、流石に篝火さんに申し訳ない……」
パーティーメンバー内の戦力差が激しい場合、ふつうは「弱い人」に合わせて攻略する階層を選ぶ。
この3人の中で弱い人……いうまでもなく、ぶっちぎりで俺だ。
俺は過去に1層で負け帰り、それからはずっと待合から1層までの通路にいる、多くのスライムを狩り続けた男である。
対して、大企業で本社にヘッドハンティングされるいちちゃんと、同社の後輩である篝火さん。
明らかに俺が足を引っ張ることになる。
いちちゃんだけなら幼馴染の縁で、とかそういう納得の仕方もあるし、昔から一緒にダンジョンへ……なんて言っていたので心理的なハードルも低い。
しかし、篝火さんは別だ。今日初めて会って……いやまぁ、初対面の女性に手料理を振舞ってるのも既におかしな話ではあるのだが、それを抜きにしても、確実に迷惑をかけることになる。
「わ……私は大丈夫ですっ。むしろ、一華先輩と一緒なら……それに、かの英雄のお孫さんとパーティーだなんて!断る理由がないですよっ!」
「あー……ごめんね、篝火さん。失望しちゃうかもだけど……」
やっぱり、勘違いされていたか。
いちちゃんがわざわざパーティーを組みたがる相手で、教科書に載るような英雄の、その孫。
そりゃ強いと思い込んだって仕方がないし……まぁ、この手の勘違いは慣れている。
「俺のスキル、特殊スキルだから攻撃に使えないんだよね」
「え?」
「だからいつも入口すぐのスライム狩ってる」
「すらいむ」
「日給5千円だね」
「ごせんえん」
篝火さん、思ったよりも愉快な人だな。銀髪美少女で後輩力が高く、ノリも良い。
そんで割と気遣いも出来て、大企業出身?スペック高いな。
ふん、俺に比べたらマッチ棒くらいの攻撃スキルでも上になるんだから、今更劣等感なんて抱かないさ。
「……って、この話はいちちゃんにもきちんとしたことないっけ?」
「んーん。大丈夫、知ってる。見てたし」
「……見てた?」
「うん。配信ずっと見てたよ」
うそぉ。確かに毎回、最大視聴者が2人か3人くらいだったけど……それならコメントしてくれたっていいのに。
コメントもないからたま~に独り言をぶつぶつ垂れ流すだけの、スライム魔石引き抜き虚無配信だぞ?
何が楽しくて見てたんだ……?
「……ってことは!一層からってことですか!?」
「うわびっくりした。そうだね、そうなるね」
「一華先輩がそれでもいいなら、私も一層からの方が助かります!」
「うん。私はせん君と一緒ならなんでもいい」
「唐金さんも、それで大丈夫ですか!?」
「俺は勿論、大丈夫だけど……いいの?」
「はい!私、実はまだマトモにダンジョン攻略に行ったことがなくて……」
篝火さんは、持っていた箸を置いて語り始める。
「私のスキル……【現喰】という攻撃スキルは、スキルレベル1の時点で『指定した空間を削り異界へ送る』という効果を持っていました」
「それは……めちゃくちゃ強いんじゃ?」
「はい。事実上防御不可能なので、攻撃性能はかなり高いです。ただ、その攻撃性能の代わりにデメリットがふたつありまして」
空間を削って異界に送る。つまり、先ほど取り出したキャリーケースはその効果で異界送りにしていたものということか。
かなり有用な攻撃スキルだ。俺が喰らったら間違いなく死ぬ。……俺じゃなくても死ぬ。
「ひとつが、射程が短いことです。手の届く範囲くらいにしか攻撃が届かないんです」
「ああ……それは確かに、リスクが高いか」
接近しないと使えない攻撃スキルということは、それだけ自分に危険が迫るということである。
まぁ、そこまで強力なスキルなら相手の攻撃も異界送りに出来てしまいそうなものだが……。
「そしてもうひとつが……異界に送ったものは返ってこないということ……でした」
「なるほど……あ、もしかして?」
「はい。これはスキルが成長した時に解決しました。追加された効果は、『異界へ送った物体を射出する』というものです。休日に一華先輩とスキルの診断に行ってスキルがレベルアップしたことを知ったんですが、その時に一華先輩にアドバイスを貰ったんです」
「そう。偶然休みが被ったから一緒に行ったけど、危ない所だった。こんなに可愛いモモちゃんがあんな会社に拘束されるなんて許せない」
「一華先輩……」
篝火さんもいちちゃんも、かなりお互いを好意的に見ているようだ。
うんうん。いちちゃんの幼馴染として、仲の良い同性の友人が多いことはとても喜ばしいことだな。
……俺?まぁ、俺の話はいいじゃないか。
「そんなモモちゃんが攻撃すると、魔物の素材が消滅するから、魔物素材の解体係に任命されてた」
「はい!でも、魔石の周囲に付いた硬い甲殻なんかも綺麗に除去できたので、その点は評価されてました!」
「へぇ、色んな役職があるんだね」
「でも、やっぱり私も最初は、ダンジョン攻略に憧れて攻略者の道に進んだので……なので!3人でパーティを組んで、一層から攻略を進めていくのは私も興味あります!」
「……いちちゃんと2人で行きたい、とかならないの?」
「……まぁ、欲を言うなら……ですけど、私ひとりの為に一華先輩が一層から攻略するのは、ちょっと申し訳ないです。なので、3人の方がいいかもしれないです」
あら正直ですこと。
篝火さんも、いちちゃんと一緒に仕事を辞めた時は、新天地で二人三脚の如く頑張るつもりだったんだろう。同じホテルに泊まるような発言してたし、ルームシェアまで考えてるんだと思う。
けど到着してみたら知らない男と一緒に帰ってきて、3人でパーティーを組もうと。
最初こそ怯えられた気がするが、篝火さん……滅茶苦茶優しいのではないか?
容姿も相まって天使に見えてきた。
「モモちゃんが拒否したら、私はせん君と2人でパーティーを組むよ」
「3人パーティーがいいです!3人でパーティーを組みましょう!」
「あはは……まぁ、篝火さんが良いなら、俺からもお願いしようかな?」
「はい、よろしくお願いします!……ちなみに、唐金さんの特殊スキルって、どんなのなんですか?私初めて見ました」
「ああ、俺のスキルは【再現】って言って……ちょっとややこしいんだけど、受けたことのある攻撃スキルと回復スキルの効果を何度でも自分の体に再現できる、って効果だね」
「?……なるほど?」
「見せた方が早いだろうけど……食事中にすることじゃないから、ご飯を食べた後にやってみるね」
「わかりました!」
篝火さんはまた食事に集中し始める。
山盛りのとり天の半分以上は、いちちゃんの胃袋の中に入ってしまったが。
昔からいちちゃんはよく食べる。故に、どことは言わないがデカい。
後片付けを済ませて居間に戻ると、居間に荷物が積まれていた。
大きめの段ボールが8箱。いくら居間が広いとはいえ、ここまで荷物があると流石に圧迫感があるな。
「結構荷物あるんだね」
「ダンジョン攻略に使うものが結構嵩張るみたいですね」
「ああ、そういうことか……住むところ見つかってから出すのじゃダメだったの?」
「このスキル、異界に送った物をちゃんと把握しておかないと、取り出せないんですよ。だから念のため、忘れないうちに出したかったんです」
「へぇ。まぁ、一人で住むには広すぎる家だし、幾らでも荷物は置いて大丈夫だからね」
「ありがとうございます!」
「さて、じゃあ俺のスキルを見せようか……ちょっとグロテスクだけど、大丈夫?」
「はい」
「じゃあ……っ」
ジュウ、と左腕から焼ける音が鳴り、肉が焦げるような臭いもする。
数えきれないほどに繰り返した【再現】で、慣れ親しんだ痛み。
篝火さんは真剣な瞳でその傷口を見つめている。ダンジョン攻略者なだけあって、傷を見る程度じゃ怯まないようだ。
「昔事故って受けた攻撃スキルで火傷したんだけど、その火傷を何度でも再現できる」
「ふむふむ……」
「……」
「……え、終わりですか?」
「うん。スキルレベルが1だとこれしか出来ないスキルだよ。まぁ、特殊スキルってそんなもんだね」
「それは……かなり苦労されたんじゃ?」
「めーっちゃした。んで、今日診断受けたらスキルが成長してた」
「おお!あ、それで手に入ったのが回復スキルの……ですか?」
「そう!こんな風に……ほら、病院でかけてもらった回復スキルの効果を【再現】できるから、傷が残らないレベルで治せるんだ」
「へええ……それ、凄くいいですね!ダンジョンで怪我をしても、自分で治せるってことですよね?」
おお、良いところに気が付く。
「そういうことだね。俺が前線で戦えば、戦闘も安定しそうじゃない?」
「確かに……でも、そのスキルって火傷以外も治せるんですか?」
「あ……確かに、どうなんだろう?」
【再現】スキルの効果文は、「スキルの『影響』を自身の肉体に再現する」というものだった。
実際、いちちゃんから受けた火傷を再現する時には直接肌が焼け、火傷をする。その際に火が出てくることは無い。
病院で掛けてもらったであろう回復スキルを再現しているとは言っても、「火傷を治した」という影響だけを再現する可能性がある。仮に医者の松里さんが俺に掛けた回復スキルが「あらゆる怪我を治すスキル」だったとしても、その中から火傷だけ治せる効果になっている可能性もあるのだ。
そればかりは試してみないとわからないし、そもそも松里さんがどんなスキルを使ってくれたのか知らない。
「カッターでちょっとだけ傷付けて試してみるとか?どうぞ」
「便利だね、そのスキル……じゃあ、お借りして……と」
「わあああ!?」
「うわっ……危ないよ、刃出てるから」
左手首にカッターを当てようとしたら、篝火さんが俺の両腕を掴んで止めてきた。
「なんで手首で試すんですか!?治らなかったらどうするんですか!」
「あ、つい」
「つい!?」
「せん君……もうちょっと、自分の体を大切にしたほうがいいと思う」
廊下でどこぞに電話をかけていたいちちゃんから、戻って開口一番そう言われる。
う、いちちゃんからの言葉は耳が痛い。
いちちゃんのジト目を受けながら、カッターで指先を少し傷付けた。
少し浅かったのでもう一回。ん?血の出方が足りない気がするので、もう少し深く?もう少し下か?
「痛い痛い痛い痛い、やめてください」
「せん君やめて、見てられない」
「あ」
ちょっとの間を置いて血が流れ出たのを満足気に見つめていると、いちちゃんは殊更嫌そうな顔をしている。篝火さんに至っては目を逸らしていた。
火傷が出来る方がグロテスクだと思うんだけど。皮膚がグズグズになって臭いもあるし……。
「……お、ちゃんと治る」
「ああ……よかった……人にものを貸してこんなに後悔したの初めてです……」
「ありがとう、洗って返すね」
「あ、いえ。差し上げます」
【再現】は指先の切り傷には効いたが、カッターの返却は断られてしまった。
そりゃそうか。汚いもんな。




