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第7話 唐金家と超レアスキル

「もちろん、最初からそのつもりだよ」

「んふ~……」


 いちちゃんの様子からして、俺のスキルの使い方については納得してもらったと思う。

 これから先誰かから攻撃スキルを受けたとしても、使うのはいちちゃんのスキルだけ。

 ……ん?自分を傷付けていることに関しては何も変わらないけど、いちちゃん的には問題ないのかな。

 ないのか、なんか嬉しそうだし……別にいいか。


「あ、でも回復はいいよね?」

「うん。私はせん君を回復できないから……しかたない」

「あはは……」


 それにしても、こうして引っ付かれると昔を思い出すな。

 子供のころのいちちゃんは、とにかく俺にべったりだった。大きくなるにつれてあまり引っ付かなくなったけど、根っこの部分は甘えん坊のままなのかもしれない。

 さっき俺が抱きしめたのを内心嫌がっていないか不安だったけど……大丈夫そうだな。


「さ、いちちゃん。篝火さんが待ってるだろうから、はやくご飯作らなきゃだ」

「あ。モモちゃんの存在忘れてた」


 忘れないであげて。自分で呼んだんだよね?

 あれ?


「ねぇ、篝火さんって荷物はどこに置いてるの?」

「んー、多分まだ持ってると思う」

「持ってる……?」


 どこに?

 

 





「お待たせ……今更だけど篝火さん、アレルギーとか苦手なものとかない?大丈夫?」

「わ、大丈夫です!なんでも食べられますっ!」

「相変わらずの後輩力。せん君、モモちゃんはこうしてみんなに可愛がられている」

「こんなに良くしてくれるの、一華先輩くらいです~っ」


 いちちゃんに捕まって撫でまわされている篝火さんを横目に、大皿に盛られた鶏の天ぷらを座卓の中央に並べる。

 いつもならキッチンのダイニングテーブルで作ってすぐ食べるが、客が居る時はこうして広い居間を使うものだ。

 俺一人だとほとんど使わない場所なので、いちちゃんの荷物があるならここに置いてもいいし。


「米はおかわりもあるからね。いっぱい食べちゃって」

「ありがとうございます!」


 篝火さんの後輩パワーは確かにすごい。俺の後輩ではないのに、つい世話を焼きたくなるような魅力がある。


「なんだか唐金さん、お母さんみたいです」

「……はは、初めて言われたかも。そこはお父さんじゃない?」

「えへへ、私の実家だと、お母さんがごはんをよそってくれていたんです」


 お母さんみたい、か。

 俺も数年前までは、こうして母にご飯を用意してもらっていたかな。

 懐かしさと物悲しさに、少し言葉に詰まってしまったが、篝火さんは気付かなかったみたいだ。

 篝火さんは広い居間をキョロキョロとしていたが、ふと一点に視点が留まる。


「……あ、えっと……」

「篝火さん、大丈夫。気にしないでいいよ」

「……え?」

「仏壇、見てたでしょ?」

「……はい」

「こういうタイプの家には大抵居間に仏壇があるもんだから……気になるなら、襖閉めるけど……」

「あっいえ……全然大丈夫です!ただ、お写真がいっぱいあったので……」

「モモちゃん、後で私と一緒にお線香あげよう」


 居間の端に設置された仏壇には、俺の親戚の写真が多く飾られている。

 きちんとした遺影が残っているのは祖父母くらいなものだが、幸いとしてこの家は親戚で集まることが多かった。

 必然的に集合写真を撮ることも多かったので、あの日消えた親戚全員分の写真は飾っているのだ。


「ふ、今はとりあえず、俺のお手製とり天に舌鼓を打つんだね」

「せん君の手料理、ホントに美味しいから覚悟すること」

「わ……わかりました!」

 

 感傷的な気持ちに浸っていては、美味しい飯も不味くなる。

 気持ちを切り替えて、目の前の食事に集中すればいいだけなのだ。

 そう言われて「いただきます」と合掌する篝火さんを見ていると、やっぱりいちちゃんが気に入るだけあって心根の綺麗さが伝わってくる。

 さぁ、俺も食べよう。



 

「そういえば、篝火さんに荷物を運んでもらってるって話だけど、どこに置いてるの?」

「あ!まだ出してないです」

「出してない……?」

「はい!あ、私のスキルって、応用するとたくさん荷物を運べるんですよ!といっても、スキルが成長したのはつい最近で、この使い方も一華先輩が考え付いたものなんですけどね」

「はんははひへみはら?」

「いちちゃん……なんか出してみたらって?」


 もぐもぐと咀嚼しながら頷くいちちゃん。行儀悪いよ。

 

「じゃあ、食事中に失礼します……よいしょっ」


 篝火さんの軽い掛け声と共に、何もない空間がぼやけて歪み……次の瞬間、畳の上にキャリーケースが置かれていた。

 ……!?


「え……篝火さん、これ……何、特殊スキル?」

「と思うじゃないですか……これ、攻撃スキルなんです!」


 自慢じゃないが、スキルに対するコンプレックスがあったので人並み以上にスキルには詳しい。

 だが、それはあくまで効果が公開されているスキルに限る話である。

 過去の偉人であったり、有名なパーティだったり、芸能人だったり……そんなスキルを公開している人の中に、『空間を操る』ようなスキルを持った人はいなかった筈だ。


 ん?効果が、公開……?ふっ。後悔はしていないぜ。


「唐金さん?」

「はいっ、すみません」

「え、なんで謝るんですか……じゃなくて、固まってどうしたんですか?」

「いや、なんでもない。これって、人の前で使っても大丈夫なやつ?」

「と、いいますと?」

「いや、なんかとんでもないことに巻き込まれそうというか……」


 篝火さんは今、何もない空間からキャリーケースを出した。

 攻撃スキルと言っていたから、何かしらの制約はあるのかもしれない。だが、そんなことは問題ではない。

 人の目で感知できない方法で、物を運ぶことが出来る。


 いわば、密輸し放題な能力なのだ。


 国にバレたら出国は出来ないだろうし、企業に申告しているなら引き抜きを防ぐなんらかの措置はしている筈。

 ……もしかして、俺が知らないだけで大企業では割と普通なのか?頭がおかしくなりそうだ。


「ちなみにそれって、条件とかってあるの?」

「条件……あんまり大きいと入れられないです!多分、ひと抱えくらいが限界ですかね?」

「数に限界とかは?」

「今のところないですね」

「……やばくない?」

「せん君、わかるよ。私もせん君の前じゃなかったら使っていいなんて言わない」

「え、一華先輩?どういうことですか?」


 いちちゃんは、やっぱりその有用性と危険性に気付いているようだ。


「モモちゃん、私からモモちゃんのスキルについて説明してもいい?」

「まぁ、一華先輩が信じてる人なら、私は構わないです」

「いちちゃん、慕われてるね」

「ふふ、モモちゃん可愛い」


 ナデナデ。

 いちちゃんはほっこりしてそうな顔を引き締めると、真剣に語り出した。


「まず、モモちゃんのスキルでこんなことが出来るっていうのは、この3人しか知らない。理由は勿論、モモちゃんの身に危険が及ぶから」

「……一華先輩がそう言うから、私、会社にもスキル成長の申告出してないです」

「モモちゃん、えらい。出してて、この事実に気付かれたり、誰かに広められたら……最悪、表に出られなくなると思う」

「え、そんなに危ないんですか?たしかに、攻撃としては凄まじいとは思ってますけど……」


「スキルじゃなくて、人間が危ないんだよ、モモちゃん」


「え……」

「……まぁ、歴史や社会情勢に顧みてもそうだろうね。正直、まだバレてないって聞いて安心してる」

「唐金さんまで。勿体ぶらないで、結論を教えてほしいです」


 久しぶりに言われた。俺もいちちゃんも結構勿体ぶって話すタイプだから、高校時代にはよく言われてたんだよ、それ。


「端的に言えば、モモちゃんのスキルを目当てにした裏の人に、攫われる可能性が高いってこと」

「えっ……そ、そんなの、漫画やアニメの世界の話じゃないんですか?いないです……よね」

「「いるよ」」


 俺といちちゃんの言葉が重なる。目が合ったので、いちちゃんに先に話すように顎で促した。


「モモちゃん、うちの会社は健全経営してる素振りしてるけどね、裏は汚いこといっぱいしてる。知らないふりして契約更新せずに辞めたけど、私がやめられたのは裏の事を知らない風にしてたことと、ただの攻撃スキルだから替えが効くからなんだ」

「えっ、そうなんですか……!?」

「待っていちちゃん、その話俺聞きたくない」


 俺にもダイレクトに危険が迫りそうな話をここでしないでほしい。篝火さんだって、働いてる会社がそうだって知りたくなかったと思うけど。

 いちちゃんは、箸を持ったまま親指を突き立てた。


「大丈夫。せん君たちは私が守るから」

「いちちゃん……」


 これ、男女逆だったら間違いなく「ぽっ」となるシーンだったな。

 不覚にも俺の中の乙女心がキュンときてしまった。


「それに、裏社会がどうとかって、せん君も知ってるんでしょ」

「うーん、いや、存在するのは知ってるけどね?篝火さんの今働いている企業がどうかっていうのは知りたくなかったかも」

「え、唐金さんもそういう裏と繋がる何かがあるってこと、ですか?」

「……なんかその言い方だと俺が裏社会に居るみたいだけど、まぁそうだね。ウチは祖父が英雄とか呼ばれてた関係で、色々話を聞いてたから」

「英雄……唐金さん……え、もしかして唐金さんって、あの唐金十造の!?……あ!ってことは……」


 思わずと言った様子で、仏壇を見た篝火さん。じいちゃんのこと知ってるのか!?とはならない。

 英雄と呼ばれるだけあって、じいちゃんは教科書にも載っている。なんなら義務教育で習うほどだ。

 ほんの少しだけ鼻が高くなるのは許してほしい。


「そう。俺は唐金十造の孫で……この近くで起こったダンジョン化事件の、生き残りだよ」

「あの……私……ごめんなさい……」

「大丈夫。さっきも言ったけど、気にしなくていいよ」


 多分、さっき「お母さんみたい」と言ったことを思い出して謝ったのだろうが、言われたことに関しては本当に気にしてないから謝らないでほしい。

 ダンジョン化事件に関しても、全国ニュースになっていたから知ってるんだろうし。


「まぁ、そういう訳だから、スキル関連で危ないことがあるってのは知ってるんだ。けど、具体的にどこが裏組織だ~とかって話は知りたくなかったなぁ……」

「大丈夫。モモちゃんももうあの会社辞めたから、ここに関係者いない」

「え?篝火さん、裏のこと知らないのにやめたんだ。なんでまた……」

「一華先輩が辞めるって聞いて……えへへ」


 まぁ、結果的には良かったことなのかもしれないが……大企業なのだから、辞めるにも相当決心がいるはずなのに。

 いちちゃん、本当にどれだけ慕われているんだ?


「一華先輩に教わったこの力で、一華先輩を支えるって決めたんです!」

「うん。あ、じゃあ、この3人でパーティ組もう」

「「……え?」」


 え?

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