第5話 スキルの成長、変わる日常
スキルというのは、大きく4種類に分類される。
攻撃、回復、補助……そして特殊。
分類の仕方は単純で、対象を攻撃できるなら攻撃スキルだし、回復できるなら回復スキル。筋力などを強化できるなら補助スキルとされるらしい。
自身が対象となったり、対象が存在しないようなスキルは丸ごと特殊スキルとして分類されている。
そんな特殊スキルは、極めて数が少ない。数百万人に1人以下の確率とまで言われている。
その効果は千差万別で、局地的に雨を降らすスキルやエネルギーを物質に変換するスキルなんかもあるらしい。
だが特殊スキルに共通して、自分以外の対象を攻撃、回復、補助できないということが言える。
そして、スキルの成長にはそのいずれかが必要なのだ。少なくとも、最近発表された実験結果からそうであると結論付けられていた。
だが、違った。俺自身がその実験結果の反例となった。
スキルは、十分な回数使えば……特殊スキルであっても、使うだけでも成長するのだ。
「ほら見て、いちちゃん!凄いよ、すぐに回復する!」
「そ、そうだね……」
街灯に照らされた病院の前で、自分の腕を焼いては回復するを繰り返す。
先ほどまでは顔を赤くしていたいちちゃんだったが、今は少し顔色が悪い。
おっと、傷口なんてそう何度も見たいものではないか。
「あ、いちちゃん。夜ご飯はどうするの?」
「え……ど、どうしようか……まだ食べてない、けど」
「よかったらなんかご馳走するよ!いちちゃんのお陰だし!」
いちちゃんの攻撃スキルで火傷をしていなかったら、俺のスキルは一生成長しなかった。
【再現】スキルは全身どこであっても、その影響を再現することができる。
服の下、見えない部分に火傷を作り、すぐに回復する。それを何度も繰り返すことで、今までよりも高頻度でスキルを使うことができるのだ。
特殊スキルでスキルレベル2ということ自体、前人未到の領域に違いない。このペースで使うことができれば、スキルレベル3だって夢じゃないのだ。
そうなったら、次はどんな効果が出てくるのだろう。夢が広がる。
「あ、お酒とか飲んじゃう?久しぶりだなぁ!」
「せん君……なんか、テンション高いね……?」
「当然だよ!だって、ほら見て!スキルレベル上がったんだよ!」
「おめでとう……?」
「いやー、長い間耐えた甲斐があったね!本当に、ありがとういちちゃん!」
心の底からいちちゃんに感謝を述べる。
しかしどうにも複雑そうな表情だ。
「いちちゃん?」
「……長い間って、どのくらい?」
「んー?本格的に頑張り出したのはじいちゃんが死んじゃってからだから、14年くらい前かな?」
「そんなに……」
「まぁ、攻撃スキルを持ってる訳じゃないから、ダンジョンの深い所には行けないけど……でも!自分を回復させることができるなら今までより冒険できるよね!?」
「そう、かもね」
「ふふ、なんかあの時を思い出すね!」
「あの時?」
「そう!昔さ、よく一緒に遊んでた時に、一緒にダンジョン攻略するんだー!って話してたよね!」
結局俺のスキルがダンジョンの攻略に役立たないものだったから、一緒にダンジョンへ行くことは叶わなかった。
そうこうしている内に、いちちゃんはメキメキとスキルを成長させ、国でも有数の上位攻略者となっている。
だから今からでも一緒にダンジョンに!なんて図々しいことは言えない。スライム狩りしかしたことないのに、そんな超上級者と一緒にダンジョンへ行ったらおんぶに抱っこ間違いなし。
「……あったね」
「懐かしいね。あ、いちちゃんは何が食べたい?」
「え、あー、特に……せん君のおすすめで」
「おっけー!とり天作るね!」
「あ……作ってくれるの?手伝うよ」
「あはは、外食はちょっと余裕なくて、お恥ずかしい」
いちちゃんは多分、というかかなり金持ちだろうから、外食なんて痛くも痒くもないだろうが。
俺はもう少しダンジョンで頑張ると決めたので、節約生活続行だ。
「そういえば、めっちゃ流してたんだけどさ。いちちゃん、いつの間にこっちに帰ってきてたの?」
「ん?今朝だよ」
「今朝だったか」
最寄りのスーパーの中でも雑談を続けていると、いちちゃんの顔色も戻ってきた。嫌なものを見せてしまったが、トラウマになってないといいけど。
いちちゃんは幼馴染ではあるが、現在は両親と共に遠く東京の地に住んでいる。たまにこうしてこちらに帰ってきているのだ。多分仕事の関連だと思う。
いちちゃんが勤めている会社は、有名ダンジョン攻略者パーティを複数抱えるような大企業。日本各地に支部があり、入社して暫くは俺の家からも近い支部に通っていたのだが、その優秀さが上部の目に留まり、東京本社へとヘッドハンティングされたのだとか。
何度か配信を見たことがあるが、なんというか、凄かった。
じいちゃんが話に聞かせてくれたような戦い方で、魔物を焼き尽くしていく姿を思い出す。
自分でも醜いと思うのだが……それ以上見続けていると嫉妬に駆られそうな気がして、配信を閉じたこともある。
「いつまでこっちにいるの?」
「んー……しばらく」
「おろ、長期のお仕事か」
「いや……えーっと」
いちちゃんは何事か言いにくそうな顔で頬を掻いている。
俺は買い物かごに卵を入れながら首を傾げる。
「……仕事、やめたんだよね」
「え゛」
「いや、無理にやめたわけじゃなくてね。契約の更新をしなかっただけで、これからは個人でダンジョンに潜ろうかなって」
「え、あ、うん」
「貯金もいっぱい出来たし、せん君と一緒にダンジョンに行ったりとかも……なんて、考えてたんだけど……だめ、かな」
「あ、えぁ……いや、俺は大丈夫だけど、え?」
そりゃあ願ってもないことだ。
言ってしまえば、無料で超上級のコーチングが付くみたいなものである。危険な時は守ってくれるし。
とはいえ、そこまで幼馴染にあれこれしてもらうのは申し訳ないのだが……え、もう仕事やめちゃったんですか?
「住むところとか、もう決まってるの?」
「んーん、せん君のうちの近く、ホテルがあるでしょ?しばらくあそこに泊りながら、住むところ探す予定」
そこ、最高級ホテルなんですが。
昔いちちゃんが家族で住んでいた場所は、既に別のマンションが建っている。
そもそもここいらはダンジョンの近くで超一等地なので、付近で探そうとしても早々空いていない筈だ。
……いや。俺の家なら部屋は余裕で空いているけど。ちゃんと遺品整理も済ませているので、どの部屋もいつでも使える状態だ。けど、さすがに幼馴染とはいえ「うちくる?」なんて言えない……。
「と、とりあえず会計済ませて帰ろうか」
「……?うん」
「せん君、ちからもち」
「いやいや、流石にこの程度で力持ち扱いは舐めてる」
スーパーで色々買った帰り、ついでにお酒も買おうと思って酒店に入ったら、オーナーのお爺さんが偶然その場に居て……まぁ、いつものだ。
チューハイや日本酒など、色々ともらってしまった。申し訳ないことだが、ここもやはり受け取らないと不機嫌になってしまうので仕方がない。
おかげさまで予定より荷物が増えてしまったが、流石に多少なり鍛えているので、このくらいで泣き言は言わない。
ビニール袋が破けて中身が散乱したら話は別だ。その場に泣き崩れるかもしれない。……冗談だ。
……まぁ、重い物は重い。いちちゃんと一緒にダンジョン攻略をするのなら、もっと体は鍛えないと。
などと考えている内に到着した自宅の前に、一人の銀髪少女が立っているのが見えた。
「あ!やっと帰ってきましたね!遅いですよー……えっ?」
「えっと……誰ですか?」
天真爛漫な様子で振り返った銀髪少女は、ピシリと音が鳴るように固まった。
ここは俺の家ですが。




