第30話 帰り道
『配信終了 最大同時視聴者数:38236人 コメント数:224件』
わぁ、見たことない数字だ。
ダンジョン攻略配信を見る人の中には、攻略者ではない人も多数いるらしい。コメントをするには攻略者証が必要なので、コメント数は視聴者数に比べて少なくなるのかな。
まさかここまで配信が伸びるとは思っていなかったけど……炎上しないと良いな。無理だろうな。炎上するんだろうな。
配信に対するコメントが攻略者しか出来ないだけで、あとからインターネットにて匿名で叩かれるなんてよくあること。よくあって欲しくはないが、有名人にはついて回る問題なのだとか。
特に今回は超有名人のいちちゃんが俺に泣きながら抱き着くという場面を配信しているので……うん。もう考えないようにしよう。
「謝って」
「た、たいへん、もうしわけあ、ありませんでした」
「いやいや、白さん。謝らなくていいから。」
いちちゃんが白さんを威圧している。そんなにメスガキが嫌いだったのか。メスガキ概念自体は今でも普通にある文化なので、古いオタクが知っている情報という訳ではないが……人を選ぶよな。
配信を止めたとはいえ流石に外聞が悪いので、地面に正座しようとした白さんを手で制す。
「改めまして……俺は『劫火絢爛』のパーティーリーダーをしている、唐金千花です」
「初めまして。篝火桃です」
「……咲花一華」
「日向葵です」
いちちゃんは凄く嫌そうな顔をしていたが、ひとまず自己紹介から入る。
今は配信を着けていないのでフルネームだ。インターネット上での出会いならともかく、こうして対面で話すのにユーザーネームで名乗るのは少し失礼な気もするからな。
あくまで俺の矜持的なものだったが、みんなも同じように名乗ってくれて安心する。みんなのユーザーネーム知らないけど。別に今のご時世、フルネームが割れたところでどうにもならないだろうしな。
「し、白というな、名前で配信して、います。ふ、藤町 小白、です」
「じゃあ藤町さん?ダンジョンの中で長々話すのもあれだから、歩きながら話しましょう」
「は、はい」
どうせ事情聴取されるのはこの人も同じなのだ。来た道を戻りながら話すでも良いだろう。
返したドローンボットを大事そうに胸に抱え、後ろからトボトボとついてくる。
いちちゃんに先頭へ行ってもらい、俺は周囲を警戒しながら白さんの隣を歩く。
「藤町さん。最初に聞きたいんですけど、あの男……シエンとは初対面で?」
「は、はい。は、はじめて、会いました」
「何か言ってましたか?」
「きゅ、急にドローンボットをこ、壊されて……。あわ、慌てて、す、姿を隠した、ので……。く、くそーって、言いながら。あ、あたしを探して……」
「なるほど……よく隠れられましたね」
シエンは、その目的こそわからないが……間違いなく裏の人間だ。
俺は話でしか聞いたことが無いそいつらは、私欲の為にダンジョンを使う。ダンジョンの入り口は通常ひとつしかなく、国が管理している為入ることは出来ない。が、それは通常の話。スキルを駆使してダンジョンに入ることが出来る人なら、この世界に幾らでもいるだろう。
出来ることと、していいことは話が別。そのモラルが無い者や、利用される者が裏の人間として生きていくのだ。
きっと、この西ダンジョンの1階層に魔物が溢れていたのも奴か奴に近い者の仕業だと思われる。そんなことができる危険なスキル……絶対、野放しにしてはいけない。
「あ、あたしのスキル……う、【打倒者】は……。あ、相手から認識さ、されなくできて……」
「【打倒者】!?」
「ひゃっ……」
思わず大きな声が出た。藤町さんは体をビクっとさせる。小柄な子をびっくりさせるのは罪悪感が凄いね?成人女性だけど。
しかし、スキルについて学校で習う以上に勉強したことがある人ならば、驚かざるを得ない理由がある。
スキルの名前というのは、誰が決めているのか未だに判明していない世界の謎のひとつだ。
名前については幾つか仮説があり……その中のひとつに、「神性に近いほど強力である」とするものがある。
当然例外はあるものの、スキルレベルが低いうちから範囲が広い、応用が利くなどといったことが挙げられる。その仮説に基づくならば、藤町さんのスキルは……最上位とも言えるだろう。
打ち倒す者。——それは、古代エジプト神話に出てくる、メジェド神の別称。
神性に近いどころか、スキル名が神そのものの名前になっているに等しい。
認識されなくなる効果とは一見そこまで強力じゃなさそうに思えるが、絶対に先制攻撃を取れる効果だと考えればどうだろうか?虚空から現れた光線によって命を救われたことを俺は覚えている。その後も藤町さんを認識できなかったので、先制攻撃どころか一方的に攻撃できる可能性すらある。
メジェド神も、記憶が正しければ眼から光を放ち攻撃するはず。であれば、藤町さんは俺の命の恩人でもあるのだ。
容易く人体を切断する光線を、相手に認識されないまま発射できる……普通避けられないよな。両腕を俺に使っていながらも、失ったのは片腕で済んだシエンは一体何者なんだよ。
「藤町さん……さっきは助けてくれてありがとうございます」
「へっ……?な、なんのこと、で、ですか……?」
「千花さん……?」
モモがこちらを見つめている。
なんで?
「シエンに殺されかけたとき、光線で助けてくれましたよね?」
「……え、な、なんでわかる、んですか?」
「いやまぁ、状況的に藤町さん以外に居ないし」
スキルの名前から効果を連想しました、なんて初対面で言ったら、「なんだこのオタクは……」と引かれてしまうかもしれない。こっちもメスガキムーブに引いたのでお相子かもしれないが。
「そ、そんな、あ、あたしは……。あたしより、そ、その……彼女、さん?のほ、方が……」
「彼女?いないんですけど」
「……あ、ご、ごめん、なさい。か、篝火さんにも、言ってあげてく、ください……」
「モモ?……あ」
そうだった。モモが迅速にシエンの腕を消してくれたおかげで、なんとか間一髪助かったんだ。嫌がるモモを急かして。
それなのに、起きてから今までお礼のひとつも言っていない。どこか不機嫌そうだったのはそれが原因か?その状態で藤町さんにお礼を言ったから、さっきみたいな顔で見てきた……と。
彼女と間違えたのは意味がわからないが、もっともなことを言われて驚く。ただのメスガキじゃないんだね。
「モモ、ありがとう。お陰で助かったよ」
「……いえ。仲間を助けるのは、当然なので」
「初めてだろうに、ごめんね」
「……!」
ぼんっ、と音が鳴りそうなほどに顔を真っ赤にしたモモが、俺をキッと睨む。
「の、ノーカウントです!人助けなんですから!」
「そ、そう。せん君、あれはノーカウント」
「一華先輩は黙ってください!」
「えっ……」
え……?
いちちゃんはモモのフォローをしただけの筈なのに、何故かヘイトを向けられている。
いちちゃんは理由がわからないと言ったふうに頭の上に疑問符を浮かべているので、単純な喧嘩では無さそうだが……そういえば、俺が気を失う前にいちちゃんがモモを急かしたんだっけ。
そんなことでいちちゃんに対して怒るような、柔い慕い方ではなかったと思うんだけど……。
「や、やっぱり嫌だったよな、ほんとごめん……」
「い、嫌とかじゃなくてですね……あれはほんと、回数に入れるようなものじゃないというか……そもそも、千花さんは嫌じゃないんですか!?あんなのを回数に入れられて!」
「俺は別に……モモにしかできないことだし」
「は、はぁ!?わ、わ、わたわたわた」
モモが壊れた。
意味が分からん。
「せ、千花兄ぃ!私は!?」
「せん君!」
「え?いや、いちちゃんと葵には出来ない……かな?流石に」
絶望したような顔でその場に崩れるふたり。仲が良いようでなによりだけど、何故そんなにショックを受けるんだ?
物事には適材適所というものがある。葵には当然無理だし、いちちゃんだって、そんなことをすれば先に俺が死ぬ。
「「そんな……」」
「つ、罪なお、男……」
「わたわた……」
カオス。まだダンジョンの中だと言うのに。
俺が何かおかしいことを言ったのだろうか?
「いやだって……モモのスキルじゃないと、シエンの腕を綺麗に除去できないでしょ」
ピタリ。一瞬動きを止めるモモ、葵、いちちゃん。
そして目に薄ら涙を浮かべながら、こちらに近付いてくる。
「「「紛らわしい!」」」
カシャシャシャン。
3回、割れる音が聞こえた。




