第31話 多分大丈夫だと思うんだけど
何故3人に攻撃されたのか理由を教えてもらえないまま、1階層の入り口まで戻ってきた。
2発ずつ殴られて葵にはスキルを掛け直してもらっている。
……別にいいさ。何が起こったかは、後で配信のアーカイブを確認すればいいだけの話。思いっきり俺の腹が貫かれて死にかけているので、残酷表現規制で公開設定には出来ないかもしれないが、配信主である俺は見ることができる。
俺が気を失っている間に何が起こったかしっかり見てやる。というか、その間に起きたことで俺が怒られているとしたら、ちょっとばかし理不尽だな。現時点で俺が知りようのないことだし。別にいいけど!
スライムが通路端に蠢いているのを尻目に、ダンジョンを出て……。
まず目に入ったのは、物々しい雰囲気を醸し出す完全武装の部隊。その人たちの応対をする受付嬢と……多分、西ダンジョンの管理支部長かな?
「あ……唐金さん!」
受付嬢が俺に気付き、手を振ってくる。
認知されていることは知っているのでそんなに驚くことではない。それに、この状況になった事件の当事者なのだから、呼ばれるのは当然である。
「唐金さん、ご無沙汰しております。当ダンジョンの管理支部長、菅田です」
「あ……どうも。お久しぶりです」
おっと。祖父の葬式でも、4年前の事件でも話しているのにすっかり忘れていた。
そうだ、菅田さんだ。眼鏡を掛けている、白髪交じりの黒髪をオールバックにした疲れた顔の男性。
菅田さんは俺と握手をしつつ、俺の装備を見つめる。そして、寂しそうな顔をした。
「……お体は、問題ないですか」
「はい。今のところは特に」
そんな表情をする理由はわかる。この装備が祖父の遺品であることは、彼も知っている。葬式に来たことからもわかるように、菅田さんもここが地元なのだ。
地元の英雄の遺した装備が、今や見るも無残な姿になっている。……思うところがあるのだろう。
その上で、俺の体調を心配してくれる。優しい人だ。
「念のためすぐに病院へ行ってください。松里さんには話をつけていますので」
「わ、わかりました」
他ならぬ松里さんのスキルを【再現】して治したので問題はないと思うが、既に話を付けているのであれば仕方がない。
確かに少し腹に違和感があるような気もしなくはない。腹を腕が貫通していたのだ。少しは違和感が残ってもおかしくはないだろう。
「唐金さん。ダンジョン協会治安維持部隊、34番隊隊長の大木です」
「ご丁寧に、どうも……唐金です」
「ご生還をお喜び申し上げます。本日は諸々ありましたので、しっかりと療養ください」
「はい」
「しかしながら、今回の事件においては重要参考人となりますので……病院で体調に問題なければ、明日パーティーメンバーの方と……途中合流したそちらの方と一緒に、こちら西ダンジョン管理支部までお越し頂けますか?」
「……わかりました」
正直、別に今すぐでも構わないのだが、みんなも疲れているだろう。
先に帰ってもらって、俺だけ病院に向かうとするか。
それにしても、治安維持部隊か。俺たちの配信が出動の要因と考えるには、来るのがあまりにも早すぎる。各県に1部隊しか設置されていない、対人専門の特殊部隊。藤町さんや俺たちがシエンに襲われるよりも前に、何者かによる事件がダンジョン内で起きていたと考えるのが自然だ。
……魔物の大量発生に殺人未遂事件。一体ダンジョンで何が起きているんだか。
それと、服の前面が破れているのと血塗れのまま外を出歩くのは問題があるということで、受付嬢が全身を覆えるローブを持って来てくれた。昨日に引き続き、短期間で壊しすぎではないだろうか。
しかし困ったな。この装備が壊れてしまった以上、新しい装備を購入しなければならない。当然今着ている装備は遺品なので飾っておくとして……問題はこの装備と同等の品を買うような資金はないということ。
……最悪、最低限の安物を買うか。シエンが最後に言った、「全員殺す」という言葉。俺たちが『劫火絢爛』として活動していれば、また襲って来るかもしれない。それがいつになるかわからないが、装備を貫手で貫通させられるなら、並みの装備を買っても仕方がないのだ。
何故俺たちを狙うのか、何故名前を聞いただけであそこまで激情に駆られるのか……なにもわからない。本来であれば魔物からの攻撃だけ考えていればいいのに、こんな無駄なことを考えなければならなくなる。
考えなければならないことはそれだけではない。今後襲って来るのがダンジョンの中だけなら、ダンジョンを避けるだけで良い。脅威が魔物だけであれば……夢から逃げるという耐えがたい苦痛はあれど、そうする選択もあっただろう。
だが、シエンは人間だ。配信中でも関係なく殺しに来るような人間が、ダンジョン外で襲ってこない訳が無い。
私服で居る時。ひとりでいる時。友達と遊んでいる時。
その全てに死の気配が宿る。
3人と藤町さんは、そのことに思い至っているだろうか?
……対人、ね。出来ることは何でもした方がいいか。
道中で焼き尽くした魔物たちの魔石は帰り道に拾い集めていたのだが、全部で30万円くらいになった。葵がパーティーに加入できない関係上、俺といちちゃんとモモの3人で等分されてしまうので、俺の取り分から半分を葵に渡した。
葵は最初遠慮していたが、ほぼ全ての魔物を倒しているいちちゃんが「それなら私も別にいらない」なんて言い出すものだから、渋々受け取っていた。
本来ならいちちゃんに比重を置きたいのだけど、それを拒否して等分の提案をしたのもまたいちちゃんだ。
一旦集約して完全に等分させる案もあったのだが、下手にそんなことをすれば聞いたこともない税金が掛かる可能性があるので辞めた。
昨日の今日で病院に到着。昨日より早い時間のため、まだ診療時間内。すぐに検査とはいかず、待合室で待つこととなった。病院はいつでも人がいっぱい。それもまぁ、仕方がない事か。
回復スキルを持っている人間は、特殊スキルほどではないものの、そこそこ希少だ。全ての病院にまんべんなく居るわけではないし、居たとしても松里さんほどに熟達した回復スキルの使い手とは限らない。
それに、回復スキルも万能ではないと聞く。回復スキルを保有する人専用の医師免許のようなものもあるらしい。
今回、俺の腹を腕が貫通していたため回復が完了しなかったが……もしも体の中に異物がある状態で回復したらどうなるだろう?そういった恐ろしい想像が現実になりかねないからこそ、回復スキルを使うことにはリスクが伴うのだ。
……俺が言っても全く信憑性がないけど。全てのスキルは『他人に使う』ということに規制が掛かっているだけで、『自身に使う』のは一切規制されていない。だから俺は医師免許を持っていなくても自分を回復できるのだ。
それにしても。
「ふたりとも、家で待っていても良かったのに」
「ううん。心配だから」
「そうですよ、あと折角なのでスキルレベルの確認もしようかなと」
いちちゃんとモモは、俺と一緒に病院へ来ている。葵も来たがっていたのだが、荷物を纏めなきゃと言って帰っていった。俺の家に住むって言うの、冗談じゃなかったんだね。
晩御飯を食べたら一度帰ると言っていたが、このまま行けば少し遅くなりそうだから予定を繰り上げたのだろう。それにしても、葵が泊まりに来るのなんか何時ぶりだろうか?昔はお互いの家に泊ることなんてよくあったが……考えれば、ダンジョン化事件以降は一度も泊まりに来ていないな。
「あー、病院来ると測りたくなるよね。いちちゃんも測ってみたら?」
「私は良い。モモちゃん、行って来れば?」
「ん~……今空いてるっぽいので、ちょっと行ってきます」
今回俺は腹をぶち抜かれたので、その関連での検査があるだけだろう。治療が伴わないのであれば、その中にスキルの確認はないと思われる。……昨日やったばかりだし。
スキルの名前と効果まで分かる検査はある程度手間もかかるし、費用も掛かる。が、現在のスキルレベルの確認だけであれば、血圧を測るのと同じくらいフランクに行えるのだ。まぁ血圧計とは違い個人所有できないものなので、病院に来たらやる、くらいの気持ちである。
スキルレベルが上がっていたら、更に効果の確認もする……というのがよくある光景だろうな。
「唐金さ〜ん、唐金千花さ〜ん」
「お、呼ばれた。いちちゃん、行ってくるね」
「うん。気をつけて」
「……なにを?」
スキルレベルを確認しに行ったモモを見送った直後、看護師に呼ばれる。
今から検査するだけだというのに、いちちゃんが変な冗談を口にした。
……いつも通りの無表情で、わかりにくすぎる。気をつけることなんて何もないから冗談だとはわかるんだけど。




