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第25話 慣れていますので

「あっあっ、えーっと、道産子雪だるまさんおかえりなさい。俺はこのパーティーのリーダーで、センカです」


 俺の過去最高閲覧者数が急に1000倍に増えてしまい、腰が抜けそうになりながらも挨拶をする。

 そして流れる『誰?』の嵐。


「せん君、どうしたの……うわ」


『幽夜七海月 : うわ助かる』

『縦笛を貰うぞ : 蔑みの目をもっと頂戴』


 流れるコメントは、見ようとしても次々流れていく。

 どうにかコメントを返さないと、と慌てていると、いちちゃんに肩を叩かれた。


「拾えるやつだけで、いい。全部読んだらキリがない」

「いちちゃん……慣れてる?」

「慣れてる」

「そうだった」


 超売れっ子ダンジョン攻略配信者グループに属していたいちちゃんは、こんな事態など慣れっこ!

 ……いや、俺は慣れてないので。読み上げないことに対する罪悪感を抱きながら、それでも流れるコメントを眺めていると、後ろから葵が声を掛けてきた。


「せ、千花兄ぃ……この配信のリンクが貼ってある投稿が、すっごく伸びてる……」

「え、どれどれ……雪原(ゆきはら)あざみさん?って方の投稿……再投稿1万超えてるじゃん!誰!?」


『道産子雪だるま : ごめん、まさかここまでお祭りになるとは』


「あ、道産子雪だるまさんが、雪原さんなのか。……あ、ごめん。配信で名前出しちゃった」


 さっき道産子雪だるまさんが配信からいなくなって、今の時間までまだ10分少々しか経っていないのでは?

 そんなちょっとの間で、こんなにお祭りになるのか、配信というのは……。


「告知してなくても関係なかったね」

「そうだね、流石いちちゃん、フォロワー200万人オーバーの底力」


 葵の言葉にそう返しはしたものの、実際俺とモモのフォロワー数ならこうなることはなかったと思う。葵が告知してたらわからないけど。

 この投稿をした雪原さんも、フォロワー数はなんと10万人を超えている。そんな人が俺の配信にフラッと来てコメントしてくれていたんですか?やっぱりスライム狩りじゃなければ人は来るんだね……。


「まぁ、こうなったのは仕方ない。視聴者たち、今日は1階層で慣らしの予定。ごゆるり」


『動寺内メラライ : キュン』

『幽夜七海月 : あかん惚れてまう、あ、もう惚れてたわ』


「せん君、あとどれくらいダンジョンにいる?」

「んー、あっちの方から大量に来たから、その大元を調べて今日のところは終わりかな?」

「ん、わかった」


『スキスキダイスケ : パーティーリーダーせん君?』

『気持ちは小学生 : せん君、目が死に過ぎでは?』

『自称パン食い : 1階層でスモールレッサーアラクネがそんなに群れるとか聞いたことない』


 ……目が死んでる?

 それも少し気になるがそれ以上に。

 たった今コメントでも言及されたが、やはりあの魔物は群れない認識で合っている。

 いくらダンジョンが殺意の高く、油断をすれば簡単に死んでしまう場所とはいえ……1階層からこんな危険が度々あるようなら、ダンジョン自体に入場規制が掛かるはずなのだ。

 今の場面だって、いちちゃんが居なかったらと考えると背筋が凍る。……いちちゃんが居なかったら?

 

「……嫌な予感がする」

「そうだね……みんな、ちょっと急ごうか」


 いちちゃんの言葉に頷き、先導して少し早歩きに切り替える。

 このダンジョンの1階層は、入り口の近くは広い空間で、奥に行けば幾つかの狭い通路……というより、洞窟がある。入り組んだ構造にはなっているが、どの道を行っても行き止まりはないらしく、方向音痴でさえなければ洞窟を抜けて2階層に行けるだろう。

 洞窟の入り口に辿り着くまでも4体の魔物が現れたが、後ろから炎の矢が飛んできて即死している。

 いちちゃんにとって、この場に現れる魔物は後列からでも即座に倒せる相手でしかないし、葵のスキルで咄嗟の攻撃に対して保険がある。だからこそ速度重視で前に進めるのだ。


 少しして複数ある洞窟の入口が見え、一旦立ち止まる。

 どの入口から入るか……。


「千花兄ぃ、なんかコメントが……」

「え?」


 立ち止まった俺たちの中で、一番最初に配信画面を確認した葵が声を挙げた。

 急かされるままにコメント欄を見ると。



 

『白ちゃそ応援隊長 : 白ちゃんを助けて』

『白ちゃそ応援隊長 : 白ちゃんを助けて』

『白ちゃそ応援隊長 : 白ちゃんを助けて』

『白ちゃそ応援隊長 : 白ちゃんを助けて』

『メロ引きの恋路 : 連投ヤバすぎ』

『白ちゃそ応援隊長 : 白ちゃんを助けて』

『五神姫オッカケ : 通報した』

『動寺内メラライ : 白って誰?』

『白ちゃそ応援隊長 : 白ちゃんを助けて』

『タイラントタランチュ : 救援要請は本人から配信でどうぞ。情報出てないからデマ。無視でヨシ』

『白ちゃそ応援隊長 : 白ちゃんを助けて』


 

 そこには、同じ内容のコメントが同じ人物から大量に投下されている光景があった。

 無視するには、文面が恐ろしすぎる。

 

「白ちゃそ応援隊長さん……?何があったのか、説明できますか?」


『白ちゃそ応援隊長 : 白ちゃんそこの2層から上がって』

『白ちゃそ応援隊長 : 1層入ってすぐ魔物で』

『白ちゃそ応援隊長 : 囲まれそうになってはいsんが』

『白ちゃそ応援隊長 : 要請だせんあい』

『道産子雪だるま : 落ち着いて』

『白ちゃそ応援隊長 : きゅうにはいしんおわった』

『タイラントタランチュ : 状況が理解できません』

『動寺内メラライ : 魔物にドローンボットを壊されたってこと?』

『白ちゃそ応援隊長 : 多分そうでうs』


 ユーザーネームからして、白さんというダンジョン攻略配信者のファンだろう。

 その配信者が魔物に囲まれて、そこで配信が終わった。だから心配で、同じダンジョンに居て配信している俺たちに声を掛けた、と。

 恐らく、現在の視聴者数からしてこのダンジョンに居る誰よりも配信が伸びているはず。だから白羽の矢が立ったのだとは思うが……。

 不審な点は2つある。1つは、タイラントタランチュという人が言ったように救援要請が出ていないこと。現在いるダンジョンを公開している状態で配信中、音声入力で物理操作をせずに救援要請が出せる。

 そうすれば、同じダンジョン内やダンジョンがある地区に住んでいる攻略者の携帯端末に、救援要請が来るようになっているのだ。だが、今回それが行われていないこと。

 確かに配信が停止したら救援要請は簡単に出せなくなる。戦闘中なら尚更だろう。そこがもう1つの不審な点なのだが……。

 いずれにせよ、信じないという選択はない。仮に騙されていたとしても、犠牲者がいなくて良かったね、で済む話なのだ。悩んでいる時間はない。

 それなら、俺は助けられる可能性を選ぶ。


「わかりました。いちちゃん、急ごう」

「……うん。せん君なら、そう言うと思った。左の通路が近道。先導するから、せん君は葵ちゃんを守って」

「わかった。お願い」


『五神姫オッカケ : どういう関係?めっちゃ距離近くない?』

『白ちゃそ応援隊長 : ありがとうございますおねがいします』

『スキスキダイスケ : せん君正義感強めでカッコいいな』

『気持ちは小学生 : 目は死んでるけどな』

『道産子雪だるま : 気を付けて』


 到着しても俺の力で助けられる訳ではない。だが、こちらには今いちちゃんが居る。

 肝心な時に他人任せで、恥じる部分はあるだろう。それでもいい。誰かを助けるための行動に、プライドなんて必要ないのだから。

 葵にスキルを掛け直してもらい、洞窟に突入した。




 洞窟の中は入り組んでおり、例えドローンボットのライトで照らしていても、見えない部分は必ず出てくる。

 通常であれば奇襲に備えゆっくりと進んでいくのだが、いちちゃんは両手に炎を纏い、外に居た時と同じように魔物を見つけ次第燃やして討伐している。

 

 だが。



「せん君……これは」

「あー……」


『幽夜七海月 : え?』

『自称パン食い : え?』

『マルでバツイチ : は?』

『タイラントタランチュ : これは救援出した方が良くないか?』

『火に魅せられし男 : え?』

『道産子雪だるま : 見たことない、こんなの』


 立ち止まった俺たちの前で、ライトが照らす先の道。

 ギチギチと、不快な音を鳴らす魔物。

 無数の視線が、一斉にこちらを向いた。


 通路を埋め尽くすスモールレッサーアラクネの大群。

 あり得ない、これではまるで……。


「伏魔大氾濫(ふくまだいはんらん)……?」


 この世の、終わりのようではないか。

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