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第24話 異常事態

『道産子雪だるま:あぶねー、配信閉じるところだった』


「あ、よかった。まだ居てくれたんですね」


 正直配信に向いていないと思う、このダンジョンは。

 虫と言うだけでも気持ち悪いのに、1階層には半分ゾンビみたいなやつが出てくるのだ。距離を取って戦える攻撃スキルを持っていれば本当に、本当に大したことのない魔物だが、肉弾戦をするしかない俺にとっては致命的なデメリット。

 近距離戦をすれば、それだけドローンボットも近付いて戦況を映す。……ごめんなさい初見さん。


「次は、モモも戦ってみる?」

「そうー……ですね、やってみます」


 葵のスキルがあるので、仮に倒せなくても助けに入るくらいの余裕は出来るだろう。

 モモの強力な攻撃スキルなら、その必要もないだろうが。

 などと話していると、すぐにまたスモールレッサーアラクネが暗がりから現れた。まだ1体目の魔石を取っていないというのに……。


「よし、モモさん、やっておしまいなさい」

「はい、フリ〇ザ様……」


 緊張した面持ちながらも、モモはちゃんと返してくれた。ごめんね、ちょっとタイミング悪かったね。

 スラリ、と鞘から刀を引き抜く。……え、それで戦うの?


 ギチチ、と不快な声を上げながら、スモールレッサーアラクネは前に立つモモへと突進していく。前足を構え突っ込んでくるスモールレッサーアラクネに対してモモは……。


「うわぁっ!」


 身を捩り、なんとか寸前で回避する体勢を崩したモモは、その場に手をつき……スモールレッサーアラクネが、反対側の前足を振り上げる。

 防御をしようと前に翳していた刀は、その動作であっけなく弾き飛ばされ……無防備なモモが、スモールレッサーアラクネの前に座り込んでいるだけになってしまった。


「モモっ……」

「せん君、しゃがんで」


 葵のスキルに保護されているとは言っても、6回攻撃を受ければその次で死ぬかもしれない。あの体勢だと、何度も避けられない。そう考えて助けに行こうとした俺を、いちちゃんは言葉で制した。

 

 ゴウッ。周囲を照らす眩いばかりの光。

 振り返れば、いちちゃんは炎の弓を既に構えていた。

 慌ててしゃがみ込んだ俺の頭上を、光の線が駆け抜ける。


 ————。

 

 その一撃で、スモールレッサーアラクネの肉体……蜘蛛の体の下半分を残し、いとも容易く消し飛んだ。断面は火が燻り、ほんのわずかな焦げ臭さが周囲に漂った。

 残った蜘蛛の体が力なく地面に倒れる。


 束の間の静寂。


『道産子雪だるま:え』

『道産子雪だるま:待って』

『道産子雪だるま:ヤバ』


 

『現在閲覧者数:0人』





「いちかせんばいい……ありがどうございまじだあああ」

「よしよし、可愛い可愛い」

 

 戦闘後、モモはいちちゃんに泣きついた。

 巻き藁に対する刀の振り方で察するべきだった。モモは戦い慣れていない。攻略者証を持っているから忘れていたが、モモはまともにダンジョン攻略をしていないんだった。

 ……まぁ俺もだけど。そこは修練の差ってことで。


「モモ……聞いたら悪いかもなんだけど、攻略者証ってどうやって取ったの……?」

「……私が受けた試験で使われたダンジョン、東京のなんですけど……動きの遅いサンドゴーレムっていう魔物だったので、落ち着いて攻撃スキルで……あ」

「うん……攻撃スキル使えば多分あの体勢からでも行けたね」

「……パニックになっちゃって。こ、こわかったです」


 気持ちはわかる。ここのダンジョンの場合、特に魔物の見た目がネックになるからな。


「誰でも最初は怖いものだから。モモちゃん、元気出して」

「で、でも……私が無様なところを見せたから、見てた人いなくなっちゃいました……」

「大丈夫。せん君も私も、有名になりたくてやってる訳じゃない。自分のペースで、頑張ろう」

「いちかせんぱい……うぅぅ」


 いちちゃんにヨシヨシと頭を撫でてもらいながら、モモはその胸に顔を埋めている。

 確かに現在の閲覧者数が0に減ってしまったが、大したことでは無い。やることは変わらないのだ。

 モモにはこうして失敗して、慣れて行ってもらおう。


「……私、なんで刀にしたんでしょう。私のスキルなら盾の方が良いですよね……」

「ごめん、わからないや」

「多分、一華先輩と一緒になれるからって調子に乗ってました……」

「モモさん、大丈夫ですよ」


 いちちゃんの腕の中で呆然とするモモを見て、葵が慰めの言葉を続けた。


「慣れるまで練習すればいいんです!私のスキルが保険になりますし、一華さんが居れば安心して戦えますから!」

「葵さん……確かに、そうですね。葵さん、一華先輩、お荷物になるかもしれないですが……お願いしてもいいですか?」

「当たり前。私だって、最初は弱かった。誰かに頼るのは、悪い事じゃない」

「……一華先輩ッ」


 ヒシッ、といちちゃんを抱きしめるモモ。

 魔物が近付いていないか周囲を警戒しながら、1体目から魔石を取り出した俺が視線を向けると、恥ずかしそうに顔を背けられてしまった。……確かにグロいけども。ちなみに2体目は魔石がある部分を焼き尽くしていたので、魔石はその場に落ちていた。その他の素材は回収できないけど、メインになる収入源は魔石なのでヨシ。

 もし、モモのスキルの真価を隠す方針が無くなったら、大量に武器を射出する技とか使えるんだろうけどね。……モモ、あの名前つけるんだろうな。聞かなくてもわかるや。


 ……おっと。


「千花兄ぃ」

「うん、わかってる。いちちゃん、モモ、3体以上来たから気を付けて」

「わかった。モモちゃん、立てる?」

「は、はい」

「3人とも、『盾を張ります』」


 複数の足音に、俺たちは即座に戦闘態勢を整える。……違和感。

 暗がりから近付いてきたスモールレッサーアラクネの数は3体……だが、足音がその奥からもまだ聞こえる。


「……なんでこんなに」

「せ、千花兄ぃ……流石にこの数は……」

「俺1人じゃ流石に無理。いちちゃん、頼める?」

「任せて……1体残せばいい?」

「うん、お願い」

「わかった」


 照らされている範囲に、更に5体侵入。目に見える数だけで8体の魔物。

 ダンジョンは元になった場所の影響を受け、それに伴って出現する魔物も変わる。……それはつまり、魔物も元になった生物の特徴を受け継ぐことが多いということだ。

 蜘蛛は基本的に単独で生息する生物。スモールレッサーアラクネも、複数で固まって動くケースは稀だと聞く。

 それが8体?明らかな異常事態。だが、俺達にはいちちゃんが居る。


「じゃあ、下がってて」


 いちちゃんは炎の弓矢を構え、狙いを定める。

 炎に照らされるその横顔は、あまりにも綺麗で……ああ、人気になるのも頷ける。

 なんというカッコよさ。なんという派手さ。絵になるとは、このことを言うのか。


 音もなく放たれた炎の矢は、魔物の群れの上に逸れる。

 外した……?と考えた瞬間に、いちちゃんが即座に右腕を前に突き出したのが見えた。


「ぎゅっ……」


 雰囲気とは異なる可愛らしい掛け声。

 瞬間。


 ボンッ!


 爆発音。そして、その爆発を中心として光の線が降り注ぐ。

 ……7つに分かれた光線は、正確に魔物の体を貫いた。

 絶命した7体の魔物は、突進の勢いを殺せぬまま地面を転がり、やがて沈黙した。

 一瞬の出来事……だが、確かに目に残る、あまりにも華やかな光景。


「モモちゃん、最後の1体をやってみて」

「……はっ、はい!」


 今度は刀を抜かず、いちちゃんより前に出る。

 獲物が前に出てきたとばかりに、知恵のない魔物は仲間が殺されたことにも気付かずモモへと迫った。

 モモは、手が震えている。足が震えている。目を背けたそうにしている。だが、それでも右手を前に向けていた。

 

 飛び掛かり。スモールレッサーアラクネの鋭い前足が、モモの体に到達し……。


 ——カシャン。


「『削れろ』ッ!」


 ……。

 音もなかった。光も、炎も、何も存在しない。

 ただ無慈悲に、モモのスキルは発動した。


 後に残ったのは、肉体を半ばから削られ、綺麗な断面をした後ろ半分しかない魔物の死体。

 空間を削る【現喰(うつつぐらい)】。地味で射程が極めて短く……その威力は、いちちゃんの攻撃スキルすらも凌駕しているかもしれない。

 かもしれない、ではないか。いちちゃんのスキルでは残っていた魔石。スモールレッサーアラクネの残った体から、その断面が露出しているのが見えた。……魔石すら破壊するスキル……かぁ。

 

「……っはぁ、はぁ、こ、怖かったです……」

「流石、モモちゃん。出来る子、よしよし」

「えへへ……」


 モモを撫でて称えるいちちゃん。褒めて伸ばすタイプかな?まぁ、実際モモはこれである程度恐怖を克服した……と思う。これから先もたくさん戦って、強くなっていこう。

 荷物が運べる要員だって、戦えて悪いことは無いんだ。また今回の様に、戦う時は葵の傍に荷物を置いて、モモと俺で前線を……なんてのも、ひとつの理想的な形なのかもしれないな。


 それ以外のやり方だと大体いちちゃんのワンマンパーティーになるだろうし。

 派手だし、もし視聴者が増えたなら……それが一番望まれそうだけど。

 道産子雪だるまさんがいなくなっちゃったし、もう見ている人はいないだろうな、なんて思いながら配信管理画面に目を向けて。





『現在閲覧者数:4895人』


『道産子雪だるま : やば……やっぱりクイーンテットの一華ちゃんだ……』

『メロ引きの恋路 : やばすぎ』

『動寺内メラライ : 一華ちゃんんんんんん』

『エラ子 : トレンド入りおめでとう』

『五神姫オッカケ : 誰この男』

『スキスキダイスケ : 一華ちゃそ新しいパーティー入ったんですか?』

『火に魅せられし男 : 面が良いパーティーじゃのう!男は誰』

『間引きプリン : 誰この男』

『幽夜七海月 : トレンドから来ました。一華ちゃんファンです結婚して』

『自称パン食い : 魔物多くね?』

『弱弱しく鰯 : ビクビク銀髪娘激萌え侍』

『タイラントタランチュ : 何今の攻撃スキル。見えなかったんだけど』

『マルでバツイチ : 削れろッッッ!!!!!』

『気持ちは小学生 : 一華ちゃんも銀髪っ子もカッコ良すぎ』

『偶然角激突愛好家 : この男は誰?リーダーこの男なの?』

『縦笛を貰うぞ : ナデナデしてる一華ちゃんも撫でられてる銀髪娘も可愛すぎ』



 ……エッ!?!?!?

 炎上ですか!?!?!?

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