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第23話 西ダンジョンの1階層より初配信ドモ

 くぅ~疲れました。

 と言う冗談はさておき、いつもと受付の手続きが変わった点は本当に微細なもので、ほとんど変わらない時間でダンジョンに入ることができた。

 いつもはバケツを借りる手続きがあるが、今回はそれがないからな。

 

 今はダンジョン入口手前の小部屋で、配信用のドローンボットを宙に浮かべ配信準備をしている。配信タイトルは……いつも『スライム狩り』にしてるけど、今日はどうしよう。『パーティー狩り』……いや、それだとパーティーを(・)狩るみたいになるな?

 ……。


「葵、配信タイトル何が良いと思う?」

「うぇっ、私!?配信したことないからわかんないよ」

「なんとなく、なんとなくでいいから」

「えー……」


 この中で一番当たり障りのないタイトルを付けられそうなのは葵だと思い話を振ったのだが、モモがスッと手を挙げる。


「はい、千花さん。『パーティー初配信……ども……』にしましょう」

「あー、悔しい。ちょっと良いと思った俺が悔しい。」

「私みたいにこんな配信見てるやつ、他に、いますかっていねーか……えへへ」

「……?何か元があるの?」

「ふっるーいインターネットの用語みたいな、そんな感じ」

「……ふーん。ふたりとも、よく知ってるね」

「千花兄ぃ、昔から本とか好きだもんね」

 

 本好きとはちょっと関係ないかもしれないけど、まぁオタク趣味という共通点はあるか?

 こんなニッチな話題で盛り上がれる相手、本当に初めてでして。

 さっきまで感じていたモモに対する妙な感情も、若干落ち着いてきた。正面切って心配されたこと、話が合う事などからその感情を不思議に感じていたが……。

 

 きっと、気の合う友達が出来た時がこんな感覚なんだろうな。初めて過ぎてわからなかった。


「よし、じゃあ配信始めるけど、みんな準備は良い?」

「いつでも」

「あ、本当にタイトルそれで行くんですね……私は大丈夫です」

「私も大丈夫!」

「よし……配信開始!」


 ボタンポチー!

 と同時に空中に投影される文字。


『配信中……』

『現在閲覧者数:0人』

 

 いつも見る文言。これもいつかは増えていくんだろうな、と期待に胸が膨らむ。

 まぁ、ほとんどいちちゃん目当てなんだろうけど。

 

「ねぇ千花兄ぃ、ひとつ気になってたんだけどさ」

「ん?」

「千花兄ぃの配信って、攻略者証持ってないと見られないようになってたけど……なんで?」

 

 小部屋から出て、ドローンボットが照らす通路を歩いている最中、葵に声を掛けられる。

 葵からの質問に、そういえば俺も最初知らなかったな、と納得がいく。

 ダンジョンで配信するにも、ルールは幾つかある。そのうちのひとつが視聴制限だ。


「実はパーティーを組んでない状態だと、自動で視聴制限が掛かるんだよ。」

「え、なんで?」

「確か、死亡率が高いから、だったかな?攻略者証を持ってるなら18歳以上なのが確実だから、そういうことになってるっぽい。今は掛かってないよ」


 ダンジョンの攻略配信は、ある種の人気コンテンツだ。派手な戦いや、笑える企画など千差万別であり、その数だけ視聴者層がある。が、単独でダンジョン攻略をしている配信だと、「万が一」の事態が起こりやすい傾向にある。

 配信用ドローンボットは、搭載されているAIにより戦闘中は自動で戦況を見やすく撮影してくれる。その機能は、配信を止めるまで続く。

 ……配信を止める人が居ないまま、既に死亡した攻略者の遺体を、魔物が……。そんなことがあり得るからこそ、パーティーを組んでいない状態での配信は視聴制限がかかるのである。そんな事情を未成年の葵に赤裸々に語るのは少し酷なので、濁して伝えたが。

 ちなみに、コメントは攻略者証を持っていないとできない。誹謗中傷対策だとか。


「……一旦雑談はここまで。葵ちゃん、ここからが1階層」

「……はい」


 通路脇で蠢くスライムを無視して通路を抜けた先に、一際広い空間が広がっている。

 ここが西ダンジョン……正式名称を、『34番102号西ダンジョン』の、1階層であり……俺がかつて突入して、すぐさま逃げ帰った場所でもある。

 攻略者証を取得する試験の時は今の装備だったので余裕だったが、並みの装備で1人挑めば命の保証はできない。この場は訓練施設ではないのだ。油断をしていては……魔物は、死ぬまで俺たちを攻撃してくるのだから。


「散々講習を受けただろうけど、ダンジョンは危険な場所。……葵ちゃん、みんなにスキルを使ってもらってもいい?」

「わかりました、えっと……3人とも、『盾を張ります』!」

「うん、良い感じ」


 葵がスキルを使う時は、『盾を張る』という言葉を使うことに決めた。厳密には攻撃を受けてもダメージを肩代わりするようなスキルなので、盾とはイメージが違うかもしれないが、細かいことはいいのだ。

 いちちゃんとモモの頭の後ろに6色球が浮かぶ。俺にも使っただろうから、これで葵は自分の仕事をしたことになる。

 ただ、葵本人は自身のスキルの恩恵を受けられないので、誰かが葵を守る必要があるのだ。

 葵のスキルの効果時間だが、だいたい10分くらい。葵は10分をタイマーで測りつつ、効果が切れるたびにかけ直すこととなる。


「せん君、私が葵ちゃんとモモちゃんを守るから、前をお願いしても良い?」

「もちろん。任せて」

「モモちゃんは、荷物を落とさないようにだけ気を付けて。後は守ってあげる」

「……一華先輩ぃ」


 モモは安定のトロ顔を見せている。配信中だからやめてもらってもいいかな?誰も見てないとはいえ。

 と思いながら投影された配信管理画面を確認。


『現在閲覧者数:1人』


 んお?誰かおる。……まぁ、1人くらいならいてもおかしくないか?

 せっかくならコメントしてくれてもいいのに、とは思うものの。攻略者じゃないならコメントはできないので、催促をすることはしない。

 と考えていたのに、あっさりと初めては奪われた。


『道産子雪だるま:初見』


 ……ヮ!コメントってこんな感じに出てくるんだ!

 初めてコメントもらった!やばい嬉しい!初見って本当に来るんだ!都市伝説じゃなかったんだ!

 しかもコメントしてるってことはこの人も攻略者か!先輩攻略者かなぁ!なんで見に来てくれたんだろ!

 コメントの横についてるのがユーザーネームかな?


「……せん君?コメント、来てるけど」

「おっと。ゴホン、道産子雪だるまさん?いらっしゃいませ。今日はパーティーを組んで初めてのダンジョン攻略です」

「おお……コメントってこんな感じで見られるんですね……」


『道産子雪だるま:銀髪の子カワイ』

 

「わ……ありがとうございます」

「あれ、モモは配信の管理画面を見たことないの?」

「一華先輩がメンターについてくれてる時に、ちらっとだけ……マジマジ見るのは初めてです」

「私もはじめてみた……配信ってこんな感じなんだ。千花兄ぃ、いつもコメントくれる人とか覚えてるの?」

「……オボエテルヨ」

「へ~、すごい。私も覚えなきゃ」


 どさんこゆきだるまさん……と小声で呟く葵に、心の中で謝る。

 ごめん。今までコメントしてくれた人、誰もいないんだ。

 無を覚えてるってことで、ここはひとつ。


『道産子雪だるま:そこの1階層って、魔物なに出る?』


 配信の視聴画面には、配信をしている攻略者がどのダンジョンを攻略中なのか見せることが出来る。設定で隠すこともできるが、有事の際に救援を求めることもできるので、隠している人はあまりいない。そもそも、見る人が見ればどのダンジョンかわかるからな。

 コメントをくれた「道産子雪だるま」さんは、名前からして北海道の人だろうか?かなり離れているし、このダンジョンに入ったこともないだろうから気になるのだろう。

 

「ここのダンジョンの1階層で出てくる魔物は……スモールレッサーアラクネですね」

「気持ちわるいから好きじゃない」

「私も1回だけ見ましたけど、嫌いです……」


 スモールレッサーアラクネ。

 蜘蛛の体に女性の肉体が生えた、神話上の化け物……の弱い版の、小さい版だ。

 弱くて小さいとは言ったが、それでも人の腰くらいの高さはある。ぶっちゃけ気持ち悪い。


『道産子雪だるま:見たことない』


「……丁度出てきたね」


 チャッチャッという、小型犬のような軽い足音。ギチギチと、不快な鳴き声を上げながら、暗がりから現れる異形。

 ドローンボットのライトに照らされて、その醜悪な姿が露わになる。


『道産子雪だるま:きmmmmmmmmm』


 巨大な蜘蛛に、腐った人間の死体を無理やり継ぎ接ぎ付けたような……あまりにも気色の悪いその姿。

 そんなコメントが来るのも、当然のことであった。


「せん君、どうする?」

「……今回は、俺がやってみる」


 取得試験で1回やり合った相手。この装備なら後れを取ることは無い。

 それに、今は葵のスキルもある。……余裕の相手だ。

 腰帯から二振りの鉈を引き抜き、体の前で構えた。


 

「ギィィィィィイイイイィ!!!」


 シャカシャカと蜘蛛の足を動かし、勢いよく迫ってくる。

 この魔物は蜘蛛の体を動かし攻撃するのがメイン。上に乗った肉体は動かさず、蜘蛛の前足を振り上げ、俺の命を取ろうと。


 斬ッ。


 右手の鉈で、攻撃してきた前足を1本斬り飛ばす。


「虫の癖に、痛がるなよ」


 ギチチ、と苦悶の声を上げながら一度身を引こうとするスモールレッサーアラクネ。ここで追撃は出来ない。

 メインの攻撃は蜘蛛……だが、上部に搭載された腐った肉体も本体の一部。一度、このパターンで追撃をして痛い目を見たのだ。……この装備なら大丈夫、というのは自信であって、油断をしていい理由にはならない。

 スモールレッサーアラクネは残る足に力を籠め、勢いをつけて突貫してきた。構えている残った前足は鋭く、鉄板程度なら容易に引き裂くだろう。だが、目で追えない程の速度ではない。


 斬ッ。


 二度目の右手の鉈での攻撃により、またも前足を切断する。

 しかし、スモールレッサーアラクネはその勢いのまま突っ込んできた。これを避けることは出来ない……ので。

 返す左手の鉈で、真下から切り上げる。口を割り、蜘蛛の胴体、その額の中央まで切断したが……上部の肉体までは届かない。

 既に蜘蛛の肉体は絶命している。というのに、上部の肉体はひとりでに動き……。


 ズチュ。


 生々しい音と共に頭、胸、腹。

 その3か所から、肉の棘が目にも留まらぬ速度で飛び出してくる。

 これだ。これが1階層の魔物を俺1人で倒せなかった大きな理由……。死に際の、捨て身のカウンター。

 カシャン、と攻撃を防いだことを知らせる音が1回、頭の後ろから聞こえ……スモールレッサーアラクネの死体がその場に崩れ落ちる。


「あー……気持ち悪。来るとわかってても避け切れないな。葵、ありがとう。助かった」

「ううん、よかった、役に立てて。……やっぱり気持ち悪い、見慣れないや」

「……ええ、このダンジョンあんな気持ち悪いのが出るんですか……?」

「うん。……というか、このダンジョンに出てくる魔物は、ほとんどが虫だよ」


 ダンジョンは、その元になった場所や構造物に強い影響を受ける。

 昔、雑木林だったこの場所は、その豊かな自然故に虫や植物を元にした魔物ばかり出現する。

 それこそが、火を操る俺の祖父が英雄となった要因のひとつでもあるのだ。

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