第22話 パーティー申請完了
モモに対して抱いた感情についての整理ができないまま、訓練施設でやりたかったことは完了した。
葵のスキルは高威力だが単発の攻撃……とりわけ、殴打や切断などの物理攻撃に強かった。近距離と遠距離どちらも、攻撃を防いだ瞬間に弾くので、2回目の攻撃までに隙が出来るのだ。
火などの絶え間ない攻撃には弱いとしても、十分お釣りが来る性能と言えるだろう。
モモのスキルのような、空間を削り取る攻撃に有効なのかは試していない。……試せる雰囲気ではなかったし、そもそも公開されている情報では空間をどうこうするような魔物の目撃例は存在しない。
モモという前例があるので気になっただけで、絶対に試さないといけない、という訳でもないからな。
それから俺たちは、ダンジョン攻略用品を少し購入した後に、若干遅くはなったが昼飯を食べに来た。
コーヒン内の食事処ではなく、ダンジョンに程近い普通のファミリーレストランだ。コーヒン内にも食事ができる店はあるが、ダンジョンの魔物を使った料理などがメインになるため、必然的に価格帯が上がる。美味しいのはわかるのだが、自分が倒せないような魔物を食べるというのがちょっと……プライドというか……。
などと面倒な男のプライドムーブメントは表に出さなかったが、ファミレス案はあっさり承認された。
到着したファミレスで各々頼んだ料理を待つ間、少しの沈黙が流れる。
先ほどの雰囲気を少し引き摺っているような気がする。うーん、俺が悪い。
一応今は、【再現】を使って体を虐めるのを中止している。さっき言われたのが響いているのもあるが、今から食事をするのにそんなことする訳がない。
「……葵、今のうちに聞くけど、晩飯はうちで食べて帰る?」
「えっ……う、うん。邪魔じゃ、なければ……」
「全然問題ないよ、3人も4人もあんまり変わらないからね。それならおばさんに連絡しておいて」
「わかった!……3人?あ、一華さんとモモさんも一緒に?」
「そうそう。パーティーメンバーとして、昨日から一緒に住むことになったんだよね」
ポカン、とした顔の葵。ハッとしたかと思えば、いそいそと携帯端末を取り出す。
「どうせ……同居!千花兄ぃ、私も!私も一緒に住む!」
「えぇ……さすがに未成年は、問題ある気がするんだけど……」
「大丈夫!電話してくる!」
席を立ち、店の外に早歩きで出て行く葵。自分だけ仲間外れにされているような感覚でもしたのだろうか?
実の兄妹と言っても過言ではないくらいの距離感で接している気はするが、まだまだ葵のわからない部分は多い。特に今や今朝みたいに、突然行動力の塊になったりする部分とか。
それにしても、何が大丈夫なのか。部屋数は問題なくても、社会的な問題、法律的な問題など色々と立ち塞がる。いちちゃんとモモは成人しており、法律上の問題なども一切ないから同居しているだけなのだが。
「……葵ちゃん、許可出ると良いね」
「んー、葵の両親ならすぐ許可出しそうだけど……」
「問題あるんですか?」
モモが対面の席から覗き込むように声を掛けてきて、思わずドキっとしてしまう。
……やっぱり、妙な感情が湧いている気がする。
「いや、未成年と同居するって、法律的にどうなのかなって」
「あー。確かに色々ややこしいですけど……まぁ、家が近いなら問題ないんじゃないですか?極論すぐ帰れる訳ですし」
「まぁ、目と鼻の先ぐらいの距離ではあるね」
ゆっくり歩いても5分以内。
「あ、思い出した」
「ん?どうしたの、いちちゃん」
隣で声を上げたいちちゃんに聞くと、ポケットから攻略者証を取り出して携帯端末に翳す。
「住所変更してなかった」
「あ。一華先輩、ありがとうございます」
「……大事だねぇ」
攻略者証があればこんな風に、転入転出の手続きも楽々!……なんちゃって。攻略者証が無くても、個人番号が記録された個人カードを持っていれば誰でも出来る。パーティーの申請はダンジョン協会に直接行かないといけないけど、多分攻略者証同士を同期させたりとか、不正防止とか、そういう諸々の事情があるのだろう。
なんでもは知らないわ……ってね。
なんて考えているうちに4人分の料理が到着し、配膳中に葵は戻ってきた。
両手の指で丸を作りながら、俺の対面に座る。
「お父さんとお母さんの許可、取れました!晩御飯を食べたら、1回荷物を纏める為家に帰りますね」
「……まぁ、葵が良いなら、拒否する理由もないけどね。食べよっか」
「うん!いただきます!」
上機嫌な葵を見ていると、こちらまで笑顔になってくる。
4人で同居。うち男は俺しかいないが、ひとりは妹みたいな存在で、ひとりは幼い時から一緒に居る幼馴染。緊張する道理はない。……問題はもうひとりなんだよなぁ。
未だに顔が直視できない。いつまでもこんな、思春期みたいな反応をしているのも恥ずかしい。
深呼吸しよう……。よし、今は目の前へ置かれた親子丼に集中だ。
親子丼……名前の響きが実に残酷。祖父の代には既に存在しており、歴史の長さが伺える。鶏肉と卵で親子じゃん、親子丼にしよ、と考えた古の日本人の食に対する熱意には、頭が上がらないものだ。
命を頂いているという関係上、残酷な行為になることは仕方がないとは思うが……ネーミングには、もう少しこう、なんというか……手心というか。食べようと頼んでいる分際で偉そうなことを言うなと言う話ではある。
ちなみに豚と卵で『他人丼』らしい。人?
食事が終わり、ダンジョン協会。支所はダンジョンの入り口を覆うように建てられるため、ダンジョンに入りたい場合は必ず協会内部を通らなければならない。
今回来たのは昨日と同じダンジョン……4年前に出来た方ではなく、昔からある方のダンジョンだ。そもそも、俺はあのダンジョンに一度も足を運ぶことが出来ていない。怖いのだ。俺の一族が消えた場所に行くのが。……その痕跡が、万一にでも見つかるのが。
フラッシュバックしそうになったのを、理性で押しとどめる。ダンジョン協会に来るたび叫んでいては、攻略者は務まらないのだ。
受付に4人で向かうと、昨日と同じ受付嬢が明らかにギョッとした顔をしたのがわかる。
が、すぐに笑顔を取り戻した。流石プロ。
「い……いらっしゃいませ!ダンジョン攻略でしょうか?」
「パーティーの結成申請をしに来ました」
「それは、おめでとうございます!あれ、ですが、未成年の方……」
「大丈夫です、私はまだパーティーには入らないので」
プロの受付嬢は、一目見ただけで相手の年齢が粗方わかるのだろうか?葵が18歳未満であることを見抜き、注意を促してくる。葵は確かに未成年だし、歳相応の見た目をしている。とはいえ、あと半年もしないうちに成人するのだから、ぱっと見ではわからないだろうに。
やれと言われても同じことが出来る気はしない。
「私が引率するから、大丈夫です」
「承知しました。それではパーティー結成の手続きを行いますので、メンバーとなる方の攻略者証をご提示ください。本日はそのままダンジョン攻略に向かわれますか?」
「はい」
「それでは、日向さんも仮攻略者証を提示してもらえますか?」
「わかりました」
いちちゃんが金色に輝く攻略者証を取り出しながら言うと、スムーズにパーティー結成の手続きを進めてくれる受付嬢。最初の反応からしていちちゃんを知らない訳が無いのに、有名人でも変わらず対応する。当たり前のことではあるのだろうが、その当たり前が難しいという話だ。
それよりも、受付嬢が今さらっと葵の名前を呼んだ。
協会で働く受付嬢は他県から派遣される者も多いので、地元の人間ではない可能性が高い。そもそも協会の受付って難関資格が必要だし、不正も許されない、かなり重要な仕事。だからこそ有能なのだとも言えるが……。仮攻略者証を取るための試験でこのダンジョンが使われるとはいえ、夏休み期間だけで数百人は受験するだろう。覚えていられるはずがない。そこまで来ると有能の域を超えている。
……もしかして俺が知らないだけで地元の人だったりする?今まではダンジョンに向き合うのに必死だったから気にしてなかったけど、俺の事も最初から知ってたとか?
「ではこちらの端末でパーティーリーダーを選択して、パーティー名を入力してください」
「はい。……せん君、お願い」
「わ、わかった」
もし地元の人なんだとしたら、葵は知っているかもしれない。後でそれとなく聞こう。
いちちゃんも知っているかもしれないけど……自慢じゃないが俺もいちちゃんも学生時代の交友関係は狭い方。一方的に知られているだけで、こちらは知らないなんてことザラにある。昨夜の夜間受付に居た看護師もその例だろう。
端末を操作して、リーダーを俺に。パーティー名に『劫火絢爛』と入力し、決定。
「ありがとうございます。……はい、これで手続きは完了しましたので、続けてダンジョン入場の手続きも行いますね」
「お願いします」
パーティーを結成する手続きは、驚くほどすぐに完了した。
昨日の夜会ったばかりの人と、次の日の昼過ぎにはパーティーを組む手続きを終わらせているなんて……昨日までの俺が聞いたって、絶対信じないだろう。
けれど、俺のスキルは成長した。ここが、俺の人生のリスタート地点。
更にスキルを成長させ、ダンジョンを攻略し……いつの日か俺の手で、俺の家族の仇を討つ。
俺から親戚を全員奪った……あのダンジョンを完全攻略する。
俺たちの戦いは……これからだ!




