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第21話 身を守るためのスキル

 いちちゃんは他にも、炎の槍や鞭、弓矢などを赤い炎で作り出すことができた。一番攻撃力が高く、防御もできるのが最初に使った白炎の鎧と剣らしいが、複数の効果を同時に使うことは出来ないとのこと。

 それと今回は、ちょっとパフォーマンスに振り切っただけで、普段はもっと綺麗に倒すと言い訳された。そうじゃないと素材がグチャグチャになってしまうので、そこは一安心だろうか。


 いちちゃんのスキルも見たかったけど、メインの用事は葵のスキルを検証することだった。

 葵のスキル、【捨命涯(しゃみょうのみぎわ)】は6度まで攻撃を防ぐという効果があるという。その「防ぐ」というのが、どこまでの範囲で適用されるのかを確認するのだ。

 ダンジョンに熟達しているいちちゃんが指導者として相応しいということで、葵の横にいちちゃんが立って教えている。

 

「葵ちゃん、補助スキルを使う時は、誰に使うのか、何を使うのかを言葉に出すのが大事。戦っている途中に使う時は特に」

「わ、わかりました!……どんなふうに言う人が多いですか?」

「実際に使った時の見た目とか、効果による、かな。必殺技みたいに、名前を付ける人もいるけど、恥ずかしいからおすすめしない」

「なるほど……とりあえず、使ってみますね!」

「うん。私に向かって試してみて」

 

 必殺技名か。攻撃スキルを持っている人に多いんだよな、そういう技名付ける人。

 スキルそのものには名前が付いているけど、成長して得られる追加効果までには名前が付いていない。が、成長すればそれだけ効果が上がるし派手にもなる。

 パーティー内で伝わるように符号をつけるのは大事だけど、必殺技として名前を叫びながら攻撃スキルを使うのは中々面白い光景だ。……まぁ、俺も人の事笑えないけど。攻撃スキル持ってたらやってそうだし。

 じいちゃんの世代では技名を付けている人が大半だったらしい。オタク文化最盛期だったらしいからね。

 ……オタク?もしかして、と考えモモの顔色を窺うと、耳まで真っ赤にして俯いていた。


 あっ。


「……なんて名前つけてたの?」

「……千花さん、いじわるですか?」

「気になっちゃって」

「……知ってるかわからないですけど、技名と言うか……昔の漫画のセリフです」

「へぇ?卍○?」

「それも好きですけど……笑わないですか?」

「笑わないよ」


 思春期のうちに攻撃スキルを持ったら皆やると思っている。

 俺の場合は名付けるのも無理なくらいのスキルだったから何も言わなかったけど。強いて言うなら『メ○ンテ』?……俺のは相手にダメージないから違うか。


「……『この篝火桃(カガリビモモ)の暗黒空間にバラまいてやる』」

「ングッ……」

「笑ってるじゃないですか!」

「いや……そっちなんだって思って……」

「そっちって……もしかして」

「『お前はこの篝火桃の【現喰(うつつぐらい)】が消すッ』!」

「ンピッ……」


 変な声を出しながらモモがしゃがみ込んだ。プルプルと震えている。

 やばい、共通の話題がある人との会話ってこんな楽しいのか。


「俺バカだからわかんねぇけどよォ~……」

「やぇ、やめて……っ」

「せん君、モモちゃん」


 いちちゃんに声を掛けられたのでそちらを向くと、頭の後ろに6色の輝く球体を浮かべたいちちゃんが腕を組んで立っていた。

 ……怒っていらっしゃる。


「まじめにやって」

「「はい」」




 葵が使うスキルの対象になった人は、頭の後ろあたりに6つの球体が浮かぶ。白・青・黄・緑・赤・灰の6色に分かれており、頭の動きにあわせて一緒に動く。なんの色だこれ。

 グルグルと輪を描くように回っているが、触ろうとしてもすり抜ける。邪魔にはならないということ。

 いちちゃんは使われてから自然に効果が切れるまでの時間を測るために、ストップウォッチを起動している。実際にどれくらい攻撃を喰らっても問題ないかの確認も必要だろう。


「それじゃあ葵、俺にも使ってくれる?」

「わかった」


 葵が俺に向かって両手を翳すのを確認した直後、背後で「カシャン」と何かが割れる音がした。

 その異音の方向へ向くが、何もない。再度「カシャン」と割れる音。

 ……明らかに背中に違和感がある。俺は、これまでずっと続けていた【再現】を止める。

 なんということだ。【再現】による火傷も、攻撃判定になって葵のスキルで防がれるのか。


「……2個割れたけど、千花兄ぃ、もしかして」

「……うん。物理的な攻撃じゃなくて、直接体に傷をつけるようなスキルも防げるみたい」

「辞めた訳じゃ、なかったの?」

「え?ああ、うん。そうしないとスキルが成長しないから」

「……そっか」


 いちちゃんに言ったから、葵にも言った気になっていたけど……まだ言ってなかったか。

 【再現】による自傷をやめたと思ったのかな?火傷って、出来た瞬間ももちろん痛いけど、どちらかというと痕の方が嫌なんだよね。それが回復によってすぐ消せるようになったから、以前よりずっと楽だ。

 その火傷の感覚が背中からしなくなったことですぐ気付けたけど、葵のスキルは自傷も防ぐ。で、防いだら球が割れると。

 ……まぁ、流石にダンジョンの中で戦い始めますって時に自傷なんかしないから、別にいいんだけど。


「葵、もう1回使って効果を復活させるとかできそう?」

「え?……うーん、ダメみたい」

「1回使ったら効果が切れるまで再使用できない……ってことかな?全部やってみよっか」


 カシャンカシャンと頭の後ろから割れる音が連続し、合計で6回鳴った後は【再現】で火傷を作れた。俺が普段負っている傷くらいなら、葵のスキルで防げるということだ。サッサと火傷の痕を治し、葵の方へ向き直す。


「ごめん、これでもう1回やってくれる?」

「う、ん……あ、今度はできたよ」


 視界に入らないので邪魔ではないし、攻撃を喰らったことは音で分かるようになっている。が、スキルを使われたことには気付けないな。葵のスキルを使うことによる視覚的な変化が、頭の後ろをぐるぐる回る6つの球しかないのだ。

 まだ防げると油断していたらスキル効果が切れていた、なんてことにならないように、自分で喰らった攻撃の数を把握する必要もありそう。時間経過で効果が落ちていくとか、どれくらいで消えるとか、そういうのも出来る限り調べておきたい。文字通り命を預けるスキル。スキル効果の調査漏れで怪我をしたら、葵が責任を感じてしまう可能性が高い。そんなのは誰も望んでいないのだ。

 

 6色球グルグルマンになっている今のうちに、操作盤を弄って人工スライムを呼び出す。ボトリと部屋の奥に出現する人工スライム。最低レベルから上げていき、攻撃の威力で変化がないか確認していくこととする。俺が受けるなら、仮に事故が起きても回復できるから安心だ。





 

 結果わかったのは、攻撃の威力が高ければ、体に衝撃が来るということ。とはいえ最大レベルの人工スライムの攻撃にも耐えることができたし、それも体が少し動く程度の衝撃。葵のスキルの効果中であれば、車に撥ねられても問題はなさそうだ。

 殴打に対してはかなりの強さを持っていることがわかった。では、それ以外の攻撃に対してはどうだろうか?

 燃やされたり、切られたり、氷漬けにされたり……魔物というのは色んな攻撃方法を備えている。だからこそ、調べる必要があるのだ。


「……せん君、さすがに……」

「大丈夫!慣れてるから!」

「……わかった」


 いちちゃんはその手のひらを炎で包んだまま、非常に恐る恐ると言った風に近付いてくる。

 数度の深呼吸を挟み……意を決したように、露出させた俺の腕を掴んだ。


「あぐっ……」

 

 瞬間。6つの球がほぼ同時に割れた音を発する。

 そして襲って来る激痛。いつも自分自身の肉体を焼いている、その痛みを遥かに超える。念のため、いちちゃんにはスキルレベルが1の時から使える効果を発動してもらっていた。

 『両手に燃え盛る火炎を纏う』というシンプルな効果で……その強さは、今の俺の腕を見ればよくわかる。


「あっ……せ、せんく……」

「千花兄ぃっ!」


 葵がいちちゃんを押しのけながら、俺の腕を持ち上げて傷口を確認する。

 酷い火傷だ。……昨日、玄関でやらかした時を彷彿とさせる。

 傷口を見る葵の顔は酷く怯えたようで……涙を目に浮かべてさえいる。


「……いや、治るから。大丈夫だから」

「で、でも……」

「葵も、いちちゃんも。そんな顔しないで。大丈夫」


 俺が【再現】を使い腕を完治させる。病院で松里(まつり)さんがどれだけ強力なスキル効果を発動させたのかわからないが、血も出ない程焼けた肉すら回復させるのには感動すら覚える。同時に、痛みが消えていくこの感覚が……こう、少し癖になるというか。

 これ以上は変態っぽくなるので、新しい扉は開く前に鍵を閉めておこう。

 それより、俺の腕は回復させたというのに、ふたりともパニック一歩手前といった様子。いちちゃんもあれかな。俺が自分でいちちゃんのスキルを再現するのはいいけど、俺に直接使うのはダメだったかな?

 ……いやまぁ、俺を焼いたのがトラウマとなってる人に、焼け!と言うのは酷だったかもしれないけど……これは必要な検証なので、飲み込んでもらうほかない。


「とりあえず、火みたいに絶え間なく攻撃が当たるようなのには無力っぽい、ってことだね。1回防いだら暫く無敵時間があるとかではないと。いや、先にわかってよかったね、これは」

「……うん」

「……千花兄ぃ、痛くない?」

「もちろん」


 実際に有益な情報を得ることは出来た。もしも検証してない状態で、火を噴く魔物と出会っていたら誰か死んでいたかもしれないのだ。

 だというのに、ふたりとも浮かない顔。ごめんて。

 モモを見習ってほしい。傷口見るのが嫌だからって、そっぽ向いてるだろ?これが自衛なのだ。


「じゃあ、次。モモ」

「いやです」

「……まだ何も言ってないじゃん」

「スキル使って攻撃してくれって言うんですよね」

「……っすー、はい」

「いやです。千花さん、傷害罪は昔からずーっと非親告罪なんですよ。怪我させたら私が捕まります!」

「大丈夫。訓練施設内の怪我は試合とかで怪我するのと同じ扱いだから、罪には問われないよ。実際にそういう判例はあるし、なんなら監視カメラがあるから、証拠も残るね」


 スキルに関しては俺もかなり調べている。勉強中に脱線して調べものしたら、そっちの方がやけに頭に残ることありますよね。それです。


「なんっ……、なんで、千花さんは自分が傷付くことには無頓着なんですか?」

「なんで……治るから?」

「治るにしてもです!痛いんですよね!?そもそも!治るようになったのつい最近なんですよね!」

「モモちゃん……」

「一華先輩も!葵さんも……みんな、ちょっとおかしいですよ!」


 いちちゃんも、葵も。先ほどの俺の件を引き摺っており、そこにこの流れ。

 沈黙するのも当然で……いちちゃんに関しては、飼い犬に手を噛まれたかのような顔をして俯いていた。


「怪我をさせてほしいと言われて、はいそうですかって攻撃するなんて……普通できないんですよ!」

「でも、せん君が……」

「でもじゃないですよ一華先輩!自傷だってそうです。なんで止めないんですか?なんでさっきも平気でスルーしてるんですか?今までずっとやってたってことですよね?千花さん、私が言いたいこと、わかりますか?」

「……ごめん」

「ごめんじゃないです。何に謝ってるんですか」


 本当に。

 正面切って自傷を咎められたことが、今まで一度でもあっただろうか。

 子供の時から俺がスキルで怪我をしていても、それが俺の夢のためならとか、目標のためだとか、そういうので周囲の大人たちは納得してくれていた。それと気付いた葵も、良い顔はしなくとも納得して俺を応援してくれていた。

 俺はそれに甘えていただけだ。

 昨日だって、いちちゃんが泣くほどに嫌なことも、いちちゃんに許可を得たからと続けている。


「私が良いと言ったのは、例え怪我をしてもその場で治せるということです。自分から傷付きに行けるね、なんてことを言いたかったわけじゃないんですよ」

「……」

「……すみません。感情的になりました。わかってます。スキルを使った結果、どうしても自分を傷付けるんだって。仕方ない事なんですよね」

「そう……だね」

「わかりました。私も、千花さんが自分を傷付けるスキルを使う事には何も言いません。ですが、それは自分を大切に扱わないで良いってことじゃないですから」


 モモは俺の……先ほどまで火傷をしていたその腕を掴んで、俺の目を下から覗いてくる。

 とても真剣で、でも俺を心配していることが痛いほどに伝わってくるその目。


「一華先輩の幼馴染で、葵さんのお兄さんみたいな存在で……私も、友達、なんですから。そんな風に自分を大切にしなかったら、皆が傷つきます。千花さんの体は治っても、みんな、心に消えない傷が残るかもしれません。それだけは、覚えてくださいね」


 ふっ、と和らいだその表情は、どこまでも優し気で……。

 本気で、俺を慮っていることが痛いほどに伝わってきた。

 

「……わかった。本当にごめん、俺が浅慮だった」

「いいえ。私は言いたいことをいいました。改めて、すみません」


 パッ、と離される俺の腕。

 肉体の痛みなんて疾(と)うに消えているはずなのに。

 痛いくらいに高鳴る胸の鼓動は、治まってくれない。

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