第18話 ロマン
試着室から出てきたモモの装備は、デザインがいちちゃんのものに良く似ていた。
いちちゃん装備の露出している部分は、モモの装備では鎖帷子で保護する。動きやすさと防御力を兼ね備えた装備と言えるだろう。いちちゃんと大きく違う点は、鎖帷子ともうひとつ、腕を保護する籠手が付いている部分だ。盾の代わりだろう。
色合いも全体的に赤っぽく、明らかに誰かを意識して装備が作られていることがわかる。
ただ、絶対に口に出してはいけないのだが……その、胸のサイズが……いちちゃんとの格差が……。
「どうですか、一華先輩っ」
「うん。かわいい、良く似合ってる」
「あれ?モモ、フードに耳ついてる?」
「はいっ!被ったらこんな感じです!」
頭部を保護するためのフードを被ったモモ。そこには猫の耳に見える装飾が施されていた。
天真爛漫な銀髪美少女が、露出が少し多めの装備で、ケモ耳フードを被ってその場でターン。
いちちゃんが腕を組んでうんうんと頷いている。
「やっぱり、かわいい。狙い通り」
「……いちちゃんがデザインしたの?あれ」
「耳のとこだけね」
「何か機能とかあるの?」
「見た目、可愛くなる機能がある」
それを俗に機能が無いと言うんだけど、まぁ可愛いことは否定しない。
俺たちオタクはね、ケモ耳に弱いんだよ!
(※個人差があります)
耳以外はモモの希望なのだろう。露骨にいちちゃんを意識したデザインだ。
モモは最後に、腰帯に武器を提げた。これでフル装備4人組パーティーの完成だ。
……装備の見た目は俺と葵、いちちゃんとモモで2グループに分かれているので、傍から見て同じパーティーだとわからないかもしれないが。別にそこに統一性を持たせる必要もないからな。
いちちゃんに合わせたら俺の恰好がとんでもないことになるし。誰得?
「すみません、店員さん。武器の試し斬りさせてもらってもいいですか?」
「承知しました。準備致しますので、少々お待ちください」
モモが再度店員に声を掛け、巻き藁を準備してもらう。モモの武器は片刃で……所謂、日本刀と呼ばれる武器だ。ダンジョン攻略者が盛り上がり始めた時代では、日本刀も流行っていたことがあると聞いたことがある。が、今はあまり見ることが無い。
理由は極めて単純で、ダンジョンの中で武器の切れ味は殆ど必要ないから。攻撃スキルがあるなら攻撃スキルで攻撃すればいいし、攻撃スキルを持たない人はダンジョンで攻撃役を担わない。魔物が目の前まで来てしまった時は、とにかく身を守り攻撃役が倒してくれるのを待つしかない、というのが定石なのだ。
「千花さん、私は信じています。このロマン……わかってくれますよね」
「……悔しながら」
「ふっ……」
鞘を滑る音と共に、刀を引き抜き、体の前で縦に構えるその姿は、意外なほど様になっていた。
日本刀ね、確かにロマンあるよね。現実的にダンジョンで使えるかどうかは別として……。
まぁ、葵の補助スキルが防御を担ってくれるだろうから、多少武器にロマンを詰め込んだっていいだろう。武器も性能次第では普通に使えるだろうし。
あとまだ準備終わってないんだから刃物を剥き身のまま持つのは行儀が良くないと思います。
「お待たせしました。どうぞ」
「ありがとうございます」
店員さんがモモの目の前に巻き藁を設置し、下がる。
その前で刀を構え、真剣な眼差しで巻き藁を凝視するモモ。
……真剣だけに。
「せやっ!」
ズドッ。
という少し鈍い音。
モモが振り抜こうとしたその刀は……巻き藁の半ばで刃を止めていた。中の竹に引っかかっていると思われる。
「……モモちゃん、どんまい」
「まぁ、慣れてないなら仕方ないと思うよ」
耳まで赤くしたモモに、いちちゃんと俺は励ましの言葉を送った。葵は気まずそうに目を逸らしている。
モモはゆっくりと鞘に刀を戻し、腰帯から外して……こちらに差し出してきた。
「……やってみてくださいよ」
「ええ……」
「難しいんですよコレ。見た目より全然」
「いや、まぁそうだろうけど……」
ここでいちちゃんに渡さないのは、いちちゃんが失敗して恥をかかないようにするためだろう。だからと言って俺を巻き添えにするのはやめてほしいのだが。
仕方ない、ここは妹分にお任せするのが良いだろう。
「葵、手本見せてあげて」
「ええっ!?千花兄ぃ、キラーパスだよそれ!」
「葵さんでも!どうぞ、やってみてください!」
「わ、わかりましたけど……怒らないでくださいね……?」
「怒りませんからっ、ほらほら」
押し付けられた刀を葵は受け取る。困惑しながらも、盾と六角棒を外して腰帯に刀を提げ、巻き藁の前に立った。
鞘を掴み、刀を握る。居合の構えだ。
ピン、と張りつめた空気に、思わず息をのむ。
そして。
「シッ……!」
鞘から引き抜き様に、振り上げる。
すぐさま翻し、上段から袈裟懸けに振り下ろし。
そのまま体を前に滑らせるように動かし、横一文字に振り抜く。
……沈黙。
ゆっくりと、それでいながら染みついた動きで、自然に鞘に刀を戻す葵。チン、という心地よい鍔鳴りの音が響いた。
「……ど、どうですか」
「……はぇ?」
モモが呆けた顔で葵を眺めている。
葵が恥ずかしそうな顔をしながら頭を搔いているだけなので、代わりに俺が説明をすることにした。
「ほら、葵って日向流の道場で生まれ育ってるから」
「……いや、それにしても、え?巻き藁、あれどうなってるんですか?」
「あ、これ斬れてますよちゃんと。凄い切れ味ですね、この刀。びっくりしました」
葵が巻き藁をポンと押すと、そこで初めて斬られたことを思い出したかのように、床に落ちる。
店員さんがおーっ、とでも言いたげな表情で拍手している。滅茶苦茶丁寧だけどノリはいいんですね。
「そ、いや、え?でも私の時斬れなかっ……」
「いやっ、モモさん、私はほら、ずっと色んな武術の稽古を受けてきたので!やり方さえ学んだらモモさんにもくれくらいすぐできますよ!」
「本当ですか……?」
「……たぶん」
葵がしたような動きは難しいかもしれないが、先ほどのように巻き藁も切れないというのは、練習で解決できることだろう。
ただそこで葵が濁してしまったために、モモが若干ショックそうな顔をしている。
「せん君、なんか嬉しそう」
「まぁ、妹分が良いとこ見せてたら、気分は良いかな」
「ふーん、私もスキル使えば出来るよ」
「火事になりそうだからここではやめようね」
子供みたいな張り合い方をするいちちゃんに、思わず苦笑してしまう。相手は高校生ですよ。
日向流は武芸百般を極めた後、最終的に己の肉体を武器とする武術。そんな理念の下育った葵は、当然のように強い。とは言っても、所詮は人間の尺度での強さである。
対人がどれだけ強くても、魔物を相手にすれば誤差に過ぎないのだ。よりダンジョンに向いているという意味では、いちちゃんの方が俺たちよりも圧倒的に優れている。
とはいえ、武術を習っているかどうかは生存率にも直結するため、日向流の道場には門下生が多い。斯く言う俺も葵の相手をしながら習っていたので、巻き藁相手なら同じことが出来る……と思う。多分。最近やっていないのでわからない。
そもそも1階層の魔物と日向流の武術、相性が悪すぎるのだ。近距離で攻撃すれば必ずカウンターを受けるのだから……。
あと、いちちゃんは門下生ではない。攻撃スキルをより使いこなす為の習い事をしていた。着いて行ったことがないので、詳しいことは知らないが。
「……モモさん、私で良ければ、教えます……よ?」
「え、ぜひ!お願いします!」
葵がおずおずと提案すると、モモはその手を取って食い気味に受け入れた。
やっぱり刀はロマンだもんね。使いこなしたいんだよね。




