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第17話 ダンジョン攻略用品店『コーヒン』

 ダンジョン攻略用品店、省略して『コーヒン』と呼ばれるその商業施設は、基本的にダンジョンの近くに建てられる。が、この近辺には4年前のダンジョン化事件により、至近距離にダンジョンが2つあるという珍しい場所だ。

 本来ならそれぞれのダンジョンの隣に、ダンジョン協会の支部を建て、近くにコーヒンが出来るのだが……この場所は、その代わりに店舗の範囲を拡大した。

 経緯を祝福できるものではない。特に、俺にとっては。

 だが、その過去があるからこそ、ここは全国で一番規模が大きいのだ。


「のわー……でっかいですねー……」

「2つのダンジョンに行く人が集まるからね。これくらいの規模にもなるよ」


 モモが建物を見上げる。

 その大きさや、大型ショッピングモールもかくやと思わせるほど。主に工房や訓練施設がその大きさのほとんどなので、実際の店舗はそこまで多い訳ではない。が、ここに来ればダンジョンを攻略するための物品はなんでも揃う。

 俺は防腐服と配信用のドローンボットを買ったくらい。スライムの魔石を入れたバケツは協会の貸し出しである。

 ゴム手袋と包帯は近所のディスカウントショップで買った。


「私の最初の装備もここで買った」

「あの時はこの店ももっと小さかったねー」

「……うん、そうだった、ね」


 ダンジョンが生まれ始めた半世紀近く前。この近くに1つめのダンジョンが出来たのも、その頃。

 それからダンジョン協会が出来て、ダンジョン用の装備を作る工房や用品を売る店ができて、それらが合体して、コーヒンが出来ていったらしい。

 いちちゃんが装備を買った時は、その形がそのまま残っていたため結構ボロい見た目をしていたが……増改築によって見違える姿になっている。

 お金が無くてあまり買えないとしても、見ていて楽しいので、俺はたまに来る。


「じゃあ、早速受け取りに行きましょう!私だけ私服なの、ちょっとアウェーなので!」

「あはは、行こうか。店の場所はわかる?」


 フル装備3人に囲まれる私服の銀髪美少女。

 言葉にするとちょっと危うげか。

 

「えーっと……店の名前はわかるので、案内板を見れば?」

「教えてくれたら案内するよ」

「ほんとですか?『レイドテン工房』ってところです」

「あ、あそこなんだ。わかった、案内するね」

「お願いします!」


 これから受け取る自分の装備にワクワクしているのか、モモのテンションは高め。

 当初の予定だと、モモといちちゃんの2人きりだったはずだが、そうじゃなくなってもテンションを維持してくれるならよかった。多分昨日、いちちゃんが俺を優先するようなことを言ったからかもしれないが。

 にしても、やっぱり大企業所属だっただけあって……お金持ちなのだろうか?




 少し店内を歩いて到着した工房の前。ショーウィンドウに陳列された装備の見本が、店の格式を象徴している。

 レイドテン工房は、全国のコーヒンに工房と販売店を構える、大手のダンジョン装備品販売業者。その対象としている客層は中堅以上の攻略者であるため、装備品の価格も高価になりがちだ。

 ショーウィンドウに飾られた装備の価格も、平気で7桁後半から8桁もする。


「ひえぇ……千花兄ぃ、めっちゃ高いよ……」

「葵……ここは俺たちがアウェーだ……逃げようか……」

「千花さんに、葵さんも!やめてくださいよ、それは素材持ち込み無しの値段ですから!」

「冗談冗談、というか素材持ち込みで作ってもらったんだ?」


 ダンジョンの魔物から入手した素材は、魔石以外は引き取ることも出来る。それでも税金は払わなければならない為、一度はダンジョン協会に提出して査定を受けるのだが、そうして受け取った魔物の素材を使って装備品をオーダーメイドすることが出来るのだ。

 そうした場合は素材そのものの金額を抑えられるため、かなり安上がりになる。また、持ち込む素材によっては既製品よりも上等な装備が手に入るということだ。


「はい!スキルが成長した後は、加工した素材をメモしてたので、結構持ってたんですよ」

「……そっかぁ」

「せん君、私の提案だから、引かないであげて」

「いや、大丈夫、引いてないよ」


 喉元まで「泥棒!」という言葉が出かけたが、あまりに純粋な笑顔だったので言えなかった。

 が、思っていたことはいちちゃんが察したらしい。いちちゃんは分かってやらせたんだね?

 モモのスキルはレベル1で空間を削り異空間に飛ばす効果がある。それを使って魔物の素材を解体したのをメモして、成長したスキルで取り出すようにしたのだろう。

 そもそも破棄していた物だし、会社側も取り出せるようになったことなど申告されていないから、わかりようもない。

 だからバレたらまずいって話をしてたんだよねぇ!どうしてそんなに可愛い笑顔なのかなぁ!


「え、私今、引かれてたんですか?どうして?」

「よし、店に入ろうか」

「え?千花さん?」

「モモちゃん、はやく行こう」

「一華先輩?」


 きっといちちゃんも、会社に裏の部分があったからやらせたんだろう。

 悪いことをしている人からは奪う。義賊的な立ち振る舞いなのだろうか。



 壁に掛けられた武器の数々に、陳列された防具の数々。店の中央に広く空間が空いており、店の端には巻き藁が立っており、このスペースは試し斬りにも使われることを知らせていた。


「いらっしゃいませ」

「あの、篝火(カガリビ)で受け取り予約してました」

「篝火様ですね?少々お待ちください」


 モモが店員に話しかけた後、店員はバックヤードに引っ込んでいった。

 店員を待つ間、他に客もいないので俺たちは商品を見て回る。


「そういえば、いちちゃんって武器持ってないんだね」

「うん。私のスキルなら、武器も防具も、別にいらない」

「さすがスキルレベル4は違うね」


 何度も言うが、自分自身に影響を与えられるスキルは特殊スキル「だけ」である。

 それは、攻撃スキルによる影響も同一。攻撃スキルは、自分自身に一切の影響を及ぼさない。それが例え、太陽の如き炎熱であろうと。瞬時に鉄を溶かすような炎を身に纏えば防具になるだろうし、それをそのまま攻撃に転用できるだろう。

 スキルレベルが上がる程、強力なスキル効果を発動できるようになる傾向もある。故に、いちちゃんの自信は、決して傲慢ではないということだ。


 ……まぁ、実際にスキルを使ったところを見たことがあるわけではないが。

 防具になるくらいの熱さだとしたら、近くにいるだけで死にそうな気がするんだけど。

 前のパーティーでそうなっていないということは、大丈夫なんだろうな。高校で物理を習った時も、スキルは物理で説明できない場合がある、と言っていたし。

 俺だって、他の人からしたら何もないのに急に怪我してるような状態だしな。お互い様だ。

 ……なにが?

 

「ほんと、凄いですよね。今まで一番早くスキルレベル4に成長した人より10年くらい早いんでしたっけ?」

「そう。インタビューばっかりで、大変だった」

「いちちゃんがあの会社に入社したあと、半年後に検査したらもうスキルレベル2に成長してるっていうね?」

「あれも色々聞かれて、鬱陶しかった気がする」


 18歳になるまでは攻略者証を取得することができない。仮攻略者証を持っていたら引率ありで入れるとしても、それも誕生日の半年前まで。

 攻撃スキルだけはダンジョン外では殆ど使えないし、仮に何にもない場所に向かって攻撃スキルを使ってもほとんど意味が無いので、いちちゃんのようにダンジョンに1人で入れる年齢になって半年でスキルが成長するのは、他に例がない稀有なケースだったのだ。

 当然、無免許でダンジョン攻略をした過去がないか取り調べを受けていた。世界的に見ても極めて稀な才能を持っていると考えるよりは、免許を持たずダンジョンに入ったり、ダンジョン外で他人に攻撃スキルを常用していると疑われるものなのだ。

 勿論そんな過去はなかったのだが、いちちゃん曰く、連日勤務後に取り調べされて辟易していたところ、警察じゃなさそうな女の人に同じ質問をされ……それから疑いが晴れたのだとか。嘘を見抜くスキル……とかなのだろうか?そんなのがあるとは聞いたことがないが、もしもあるとしたら国が秘密にしていてもおかしくはないだろう。


 その時いちちゃんは19歳になる少し前くらい。22歳でスキルレベル3、そして24歳の今スキルレベル4に上がっている。

 それまでの攻撃スキル成長世界記録が、スキルレベル3で25歳、スキルレベル4が34歳であることを考えると、はっきり言って異常。そして、これらはあくまで世界記録。

 

 公開されている攻撃スキルレベル4の平均年齢は、なんと45歳。

 さすがいちちゃんだ。凄すぎて怖い。

 寧ろフォロワー200万人って少ない方なんじゃないかとさえ思えてくる。


 

 

「お待たせしました、こちら注文された装備品でございます。お支払いはどうされますか?」

「あ、攻略者証払いでお願いします」

「畏まりました。ではこちらにお願いします」


 店員は何度か往復で木箱を積み上げたあと、支払いを促す。

 攻略者証の読み取り機械に、モモは自分の攻略者証を差し込んだ。……俺と同じ一般攻略者証だ。まぁ、仕事でダンジョン攻略に行かないならそうなるよね。


「はい、確認できました。ありがとうございます。……早速こちらで装備していきますか?」

「……グッ、は、はい。装備していきます……」

「……?承知しました。では、そちらの試着室をご利用ください」


 店員さんはこちらを一瞥して、モモにそう質問した。俺たちが全員フル装備だから、気を利かせて聞いてくれたのだろう。

 だが、その聞き方があまりにも大昔のゲーム用語であった。

 モモ、店員さん怪しんでるよ。

 変なところで笑うのはやめようね。この中だと俺しかわからないだろうし、なんなら元ネタは祖父の世代よりかなり上だから、それ。

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