第16話 ダンジョン用装備
モモ曰く、『クイーンテット』のメンバーは全員がフォロワー200万人を超えているらしい。有名ダンジョン配信者ってスゲーな。
やはり見目麗しい女性が集まったパーティーで、かつ実力者ともなれば必然か。いちちゃんの最後の投稿は『重要なお知らせ』という文言と共に、パーティー脱退報告の長文画像。投稿についたコメントは「帰ってきて」とか「待ってます」とか、そういうのばかりだ。やっぱりファンが多いんだな……。
……あれ、やっぱりいちちゃん関連で炎上しそうな気が。
まぁ、そうなったらそうなったで仕方がない。いちちゃんは気にしないとのことだし、俺がとやかく言う問題でもないだろう。殺害予告とかされたら流石に考えるけど。
「じゃあこの後はパーティー申請の手続きしに行こうと思うけど……いちちゃん、昨日言ってたモモとの約束はいつから行くの?」
「あ、そうだ。モモちゃん、結局予定ってなんだったの」
昨日の夜、いちちゃんがこの家に泊ることが決定した時、「予定はまた明日」と言っていた気がする。その予定の時間によっては、今日の俺たちの予定は変わるのだ。夜までかかるなら俺は一旦ひとりでダンジョン行って来るし。
いちちゃんもまだ聞いてなかったらしい。先に予定だけ抑えといたパターンかな。
「はい!ダンジョン用の防具の受け取りと、そのほか装備を一緒に見ようかなって、思ってました!」
「なるほど。せん君、パーティーの申請の前に、みんなで一緒に行こう」
「おお、いいね、行こうか。葵はどうする?」
「私も行ってみたい!」
ずい、と身を乗り出してくる葵。やっぱりダンジョンへの憧れは強い様子だ。
スライム対策の防腐服は無くなってしまったが、実は装備はまだ持っている。
……祖父が子孫の為に遺したものが、物置で眠っている。スライムなんぞに壊されたくなかったので今まで使っていなかったが、今こそ封印を解く時なのだ!
なんちゃって。自主的に物置に置いてただけで、封印なんてしてないし。そもそも、現代の価値でそこそこ上等程度の品のはず。俺の祖父はあくまで「英雄」であり、「最先端の攻略者」ではないということだ。半世紀前の英雄が、現代の最先端より上等な装備を使っているはずがないだろう。
相続税の計算の際、専門の業者に鑑定してもらったからその認識に間違いないと思う。こういうので昔のアニメにありがちな、「実は祖父が遺した装備は隠された機能で最強でした」なんてことが万が一にもあったら、顔面蒼白必至だ。
相続から4年以上経っているのだ。追徴課税が怖すぎる。
でも使わないのはもっと嫌だ。『劫火絢爛』を継ぐと決めた今、埃を被った遺品で俺は攻略者として大成してみせる!
「ちょっと装備取りに、物置行ってくるね」
「あ、じゃあ私も1回帰って取ってくる!」
攻略者証を持っている人は、街中でも武器や防具の着用が認められている。それが仕事というのもあるが、今の世は何が起こるかわからない。
出先で装備をしていないときに、ダンジョンから魔物が溢れるような災害に遭遇すると……なんてことを考えると、大抵の場合は装備を持って移動するのだ。
それを抜きにしても、ダンジョン用品を売っている店に行くのであれば、今持っている装備を持っていくのが主流。メンテナンスやサイズの確認などが容易になるのである。
まぁ、俺は今日装備を買う予定はないけど。金持ってないし。
2階に上がり、物置部屋に入る。埃を被った……というのは比喩表現でしかない。掃除は定期的にしているので床も窓枠もピカピカだ。使ったことないからという理由もあるだろうけど。
たくさんの物が存在するその部屋の中で、一際異彩を放つ装備へと近付く。
壁に掛けられたハンガーには、上下セットの白い衣服。傍らには靴と手袋。そして、立てかけられた二振りの赤い鉈。
これが祖父の遺した装備。試しに何度か着たことはある。なんと、俺の現在のサイズにぴったり。まぁ祖父も父も、なんなら叔父だって身長と体形がほとんど一緒だったので、偶然だろう。
それでも、その偶然のお陰でこうして遺品を使う場面に恵まれている。
「久しぶりに見た、それ」
「うわ、びっくりした」
「取得試験の時、使ってたよね」
「そうそう。あの時はとにかく取らなきゃって必死だったからね」
装備を手に取りしみじみと眺めていると、いつの間にか後ろに立っていた、いちちゃんから声を掛けられた。
そこそこ上等というのは、攻略者が使う装備全体で考えてもそこそこ上等、ということ。
本来なら攻略者証を取れるかどうかというガキンチョが使っていい性能ではないのだ。1階層の敵から受ける攻撃なんか衝撃もないし、鉄の棒くらいならほとんど抵抗なく切断できる。故に、攻略者証を取得する為の試験の時は大変重宝した。
装備の性能だけに頼りたくなかったので、今までは使わなかった。アホらしい理由だが、男の矜持というのは得てしてそういうものなのだ。
だが今後は俺の命だけではない。前線で盾となる者が弱い装備を着て死んでみろ。間違いなくパーティーメンバーにトラウマを植え付ける。だからこそ、装備には妥協してはいけないのだ。
あ、スライムキラーになるぐらいなら全然。なんなら私服でもいいくらい。だってあそこ通路だし。通路だし……。そのまま1階層へ突っ込んだらボコボコにされるので注意。
「いちちゃんも装備してから行くんだよね?」
「うん。着替えようと思って、上がってきた」
「よし、じゃあ着替えよっか……いちちゃん?」
「うん?」
「着替えないの?」
「着替えるよ」
じゃあなんで出て行かないんですか?
きゃーえっちーとでも言えばいいのだろうか。ツッコミ待ちか?欲しがりさんめ。
「……とりあえず、俺はこれ持って部屋戻るね」
「あ、うん。じゃあ私も」
ツッコミを放棄したら、いちちゃんはすぐに部屋から出て行った。俺、回答間違えたのかな。
いちちゃんのマイペースは今に始まったことではない。
いつも通りのいちちゃんの様子に、少しだけ笑いを零しながら、両手に装備を抱えて部屋に戻った。
「ただいま!千花兄ぃ……おお!かっこいい!」
「おかえり葵。だよね、かっこいいよねこの装備。葵も似合ってるよ」
「でへへ……」
今の俺の恰好は白を基調とし、要所に青と赤の装飾が入った服装だ。頭から首元にかけてフードのようになっており……まぁ、白装束の暗殺者みたいな恰好と言えばわかりやすいか?
今はフードを下げているし、口元も隠していないが、ひとたびダンジョンに入れば目元以外全て隠す。俺の様に攻撃スキルを持たない者は、とにかく怪我のリスクを最小限にすることこそが重要なのだ。
なので、当然の如く葵も似たような格好になるのだが……葵の装備は別に曾祖父が遺したもの、とかではないはずなのに、不思議と俺が着ている装備の色違いみたいになっている。
葵の武器は金属製で小さめの六角棒。それと小型の盾。補助スキル持ちというのは、攻撃スキルを持つ人よりも露出を少なく、かつ盾などで身を守るのがセオリーだ。
自分自身に影響を及ぼすスキルは特殊スキルのみ。葵はダンジョンに入っても、自分自身に補助スキルを使うことができない。だからこそ、しっかり自分の身を固めなければならないということだ。
「なんかふたり……ペアルック?」
「いや?偶然だよね?」
「は、はい……ぐうぜん、です」
「……というかいちちゃん、露出多くない?」
こうして直接見てみると、結構露出が多い。いちちゃんの普段の私服でも、もっと肌色成分が薄かった気もする。
俺たちの装備とは、首元が隠れるフードという共通点はあるものの、それ以外がまるで違う。あばらの下からへその下にかけて肌が見えているし、下もホットパンツのような丈で、ニーハイソックスとの間に出来る絶対領域が輝いていた。
防御力大丈夫そう?と思いながら見ていると、いちちゃんが己の体を抱くようにしながらジト目で見てきた。
「すけべ……」
「千花兄ぃ、今のはちょっと……」
「え?!だめだったの、今の」
「えっち……」
「えぇ……?」
まぁ、確かに装備ではなく肌の露出を見ていたのは確かかもしれない。ごめんなさい。
改めて装備を見てみると、全体的に赤を基調としたスタイルに、金色の装飾が入っている防具。素人目に見ても高級な装備であることが伝わってくる。
「あんまり装備を厚くすると、スキルの邪魔になる」
「ああ、そういうことか。なら仕方ないんだね」
「うん」
今度はいちちゃんが何かを期待するような目をしている。……あ。
「似合ってるよ」
「……んふ、まぁいい、それでも」
ふいっとそっぽを向くいちちゃん。
一体、満点の解答はなんだったんでしょうか?
いちちゃんとは幼馴染だし、高校生くらいの時までは一緒に居ることも多かった。卒業してからも1年くらいは頻繁に会っていたけど、東京に行ってからは会う頻度も少なくなってしまった。
こうして長時間顔を合わせてみると、昔みたいなただの……友人としての幼馴染、そんな対応が少しだけズレているような気がしてくる。どちらが悪い、ではない。
お互いに大人になったということだろうか。それにしては少しだけ、子供っぽいやりとりをしている気もするけど。




