第15話 炎上しなきゃいいけど
いちちゃんの計略(?)により、モモが陥落。俺が『劫火絢爛』のパーティーリーダーに任命されたのであった。
どっちかというと燃やされる側なのに、不思議だね。
ちなみに今も背中の一部をジュッとやってふわっと回復させている。臭くならず、滲出液が服を汚さない程度にね。
いったい今までの何倍の効率でスキルを使えているんだか。
「絶対いちちゃんの方が良いと思うけどなぁ……」
「大丈夫。せん君ならいける。頑張れせん君」
応援してくれるのはありがたいんだけど、モモに膝を貸しながら言われても、ね。
モモも顔が蕩けてるし。平時なら清純派銀髪美少女だというのに、どうして……。
「ねぇ千花兄ぃ?パーティーのリーダーってそんなに難しいの?」
「いや、別に難しくないよ。1人の時に比べてちょっと手続きが多いだけらしいから」
「そうなんだ、よかったぁ。……それなのに、リーダーが嫌なの?」
ダンジョン協会でパーティーとしての手続きをする際に、リーダーとしてのサインが必要になるくらいだ。
事前にパーティーとして申請を出しておくことで、煩雑な処理がグッと減る。ダンジョン攻略者の人口を増やすため、かつて国が行った政策の一部だとか。
外国の情勢に詳しい訳ではないが、日本のダンジョン攻略者に対する待遇は世界でも随一と聞いたことがある。
「別に嫌って訳じゃないんだけど……インターネットで叩かれないか、ちょっとだけ心配」
「ふーん?なんで叩かれるの?」
「そりゃあ、いちちゃんを差し置いてリーダーやってるとか配信でバレたら……」
「せん君、大丈夫」
左手はモモを撫でながら、右手で俺にサムズアップするいちちゃん。
「アンチなんて、柵の向こうで騒いでいるだけのお猿さんだと思えばいい」
「わお。言葉つっよ」
さすが有名なだけはある。いちちゃん……というか、いちちゃんが居た『クイーンテット』の配信は、それはもう数多くの視聴者を抱えていた。
人数が増えればそれだけ嫉みを生む。いちちゃんにとって、配信でアンチにとやかく言われることは慣れている事なのだろう。
……まぁ、そもそもパーティーリーダーが俺になるなら、配信設定も俺の攻略者情報に紐づく。俺の配信に視聴者登録している人なんてひとりもいないので、視聴者も増えることはないか。……あれ?
「ごめん、話変わるんだけど、いちちゃんって俺の配信見てたんだっけ?」
「?うん、見てたよ」
「俺の配信、視聴者登録してないよね?」
「……うん。登録せずに見てた」
「そ……そっかぁ……」
少しだけ、ダンジョン配信についておさらいしようか。
ダンジョン攻略者は、トラブル防止の為に配信をする人が多い。それ以外にも、人気を得るためだとか、より生存確率を高めるための戦法だとかを配信で教える人も居る。
俺の様にスライムに手を突っ込むだけの配信と違い、そうやって人を楽しませる配信をしている人は、当然視聴者が増える傾向にある。
そんなダンジョン配信者を気に入って、次の配信も見たいとなった時に、『視聴者登録』をする。そうすることで、次の配信が開始した時や、告知があったときに通知で知ることができるのだ。
チャンネル登録だとか、コミュニティだとか、プラットフォームによって言い方が変わるが、国連主導で始まったダンジョン配信専門のプラットフォームでは視聴者登録という呼称が使われている。それだけの話。
……何が言いたいという訳ではないのだが、いちちゃんが何故そうしたのかが不明なので少し恐怖を覚えた。
が、なんとなく聞かない方が良い気もするのでスルーしよう。
……スルー、するー……。はい、すみません。
「それは置いといて、配信はするって方針で大丈夫?」
「うん。絶対した方がいい」
「千花兄ぃ、攻略者講習でも言われたよ。特に女の子がいるパーティーでは絶対に配信をした方がいいって」
「やっぱりそうだよね」
やはりトラブル防止のためにも、配信は必須だろう。
男の俺ですら道端で蹴りを入れられたのだから、女の子が過半数を占める『劫火絢爛』なら尚更配信するべき。
とはいえ、いちちゃんくらい有名で強力な攻略者が居るのに、ちょっかいを掛けてくる奴なんていないとは思うのだが。
「誰も見ないような配信だろうけど、モモのスキルは隠さないとね」
「それについては、カモフラージュ用の大きめのバックパックを持とうかなと思ってます」
パーティーで荷物を持つ時は、補助スキル持ちがその役目を担うことが多い。とはいえ、ある程度長期的な遠征になるのであれば、全員で分担することもあるだろう。
モモのスキルが真価を発揮するのは、全員で分担しなければならないほどに荷物が必要な時……つまるところ、まだ先の話だ。なんならしばらくは、普通に荷物をバックに詰めて持って行っても良い。が、モモはバックパックから取り出すように見せかけて楽をするのだろう。
また、ダンジョンの規模は場所によって違うが、この近くにある2つのダンジョンはどちらも1階層につき大した広さはないと聞く。であれば、荷物もそこまで必要ではないのだ。
「それに、配信もすぐに人が来るようになりますよ!なんといってもあの一華先輩ですよ?」
「まぁ、それはそうなんだけど……告知は出さないでしょ?」
「うん。別に有名になりたくて攻略者やってない」
「じゃあ来るようになったとしても時間かかるだろうね」
決め顔でいちちゃんを持ち上げるのはいいのだが、その頭はいちちゃんの膝の上にあるため全く恰好がついていない。
俺としても別に凄く有名になりたい訳でも……ないことはないけど、そうやっていちちゃんの力を借りてそうなるのは話が違う。
英雄の孫としてでも、幼馴染のお荷物としてでもなく、自分の力でなれるのであれば……いつかはそうなりたい。贅沢な話なのはわかっているので、できたらでいいんだ。
それに、俺は配信告知するためのネットアカウントをあまり使っていない。エンターテインメント性の高いダンジョン配信者は、ネットアカウントのフォロワーも膨大で、掲示板なんかでも個別に実況スレッドが立つなんて話も聞く。いちちゃんの所属していた『クイーンテット』にもそういうのが存在するのは知っているが、ちゃんと見たことはない。
「……私が告知とかしたら一華先輩は怒りますか?」
「うん。普通にめっちゃ怒る」
「絶対しないです」
いちちゃんのマジギレ、俺は見たことないけど、どんなのだろう。少しだけ気になるが、怒らせたい訳ではないのでつつかないでおく。
ダンジョン配信が活発になるのと同時に、昔より匿名性が薄れているという話を聞いたことがある。今で言えば個人情報の入力や、ネットアカウントの複数作成は原則できないのも当たり前なのだが……大昔はそんなことなかったらしい。じいちゃん曰く、毎日のようにネットで喧嘩している奴がいたとか。
匿名で配信なんか許可したら、ダンジョン内における犯罪を助長するだとかなんとか。俺が生まれた時には既にそうなっていたから、あまり詳しくは知らない。
「私も告知はしないでおきますね……といっても、フォロワーは学校の友達と他ちょっとくらいしかいませんけど」
「おー、何人くらいいるの?」
「300人くらいだったと思います」
「葵、それは多くない?」
「葵さん、多いですね?」
俺を英雄の孫として慕ってくれる層は、ネットや配信に疎い人ばかり……と言い訳させてもらおうかな。
おかげでフォロワー人数なんて20人いるかどうかだ。
あ、ちなみにネットアカウントとメッセージアプリのアカウントは別物なので、俺が20人とメッセージでやりとりしている訳ではない。もちろんネットアカウントでも、相互にフォロワーであれば個別メッセージのやり取りはできる。が、俺にはそういう人はいない。
やりとりしている人数なら片手の指の数で足りる。
「モモは?」
「……うにんです」
「え?」
「9人です!」
え、すっくな。
という表情を俺がしていたのか、モモは恥ずかしそうに両手の人差し指同士を絡める。もちろんまだいちちゃんの膝の上だ。
「仕方ないじゃないですか。小学生の時はネットアカウントなんて持っていなかったし、中高は……いいとして、会社だってメッセージアプリでしかやりとりしないんですよ!」
「モモちゃん、メッセージアプリでやりとりしてる人は多い?」
「っすー、まぁ、そんな、はい。もうちょっと少ないです」
意外だ。容姿だけでフォロワー増えそうなのに。葵どころか俺以下だなんて。
というか、やっぱりネットアカウントとメッセージアプリって切り離して考えるよね。匿名性が薄いとはいえ、メッセージとネットアカウントは別だよね。わかるよ。オタクだね君も。
「ふぅん。じゃあ告知しても、あまり変わらないね」
「グハッ」
おっと、いちちゃん。その言葉は俺にも効くからやめてくれ。思ったけども。
「……一華先輩はすごいですよね、フォロワー数」
「気にしたことない」
「そういうクールなところも素敵です……」
「一華さん、今何人くらいなんですか?」
「んー、ちょっとまってね」
モモはもう手遅れらしいので置いといて、葵が聞いたことに答えるため、いちちゃんは端末を操作しはじめる。
そして首を傾げながら一言。
「200万人くらい?」
「「にひゃっ……!?」」
うっそだろ滅茶苦茶有名人やんけ!




