第12話 事前準備はしっかりと
朝は米派です。
白米とみそ汁、鮭と酢の物という日本魂極まれりな朝食を用意すると、ふたりには好評だった。
誰が作っても味はそんなに変わらないと思うけどな。
食事を済ませた後、3人で話す場を設けた。
議題は勿論、パーティーを組むことについて。
「3人でパーティーを組むことは確定ってことで、いいんだよね?」
「うん。私はそのつもり」
「私も、それでお願いします」
同居もそうだけど、出会ってすぐにパーティーを組むというのも不思議な話だ。
パーティーを組むという事は、相手に命を預けると同義。お互いに守り守られる関係となるのだから、通常は信頼関係を築いた後に組むものだ。
今回の場合は間にいちちゃんが存在するからこそ成り立っている。俺はいちちゃんを大切な幼馴染と思っているし、モモもいちちゃんの言う通りに仕事を辞められるくらい信頼しきっている。
「じゃあ今日はパーティーを組む手続きをしに行こうと思うけど……その前に、幾つか決めないといけないね」
「うん。大事なことを決めなきゃ」
いちちゃんが腰に手を当て胸を張り、言葉を続ける。
「パーティー名は、大事!」
「……うん。じゃあそれから決めよっか」
「わぁ……なんだかワクワクしますね!」
ずっこけかけたが、それも決めなければならないことだ。
パーティー名は公的機関に提出する書類にも書く重要なものなので、変な名前にすると泣きを見る。
「とは言っても、名付けって難しいよねぇ」
「3人の名前をもじったりとかですかね?」
「私が前いたところは、女5人だから『クイーンテット』だった」
「……それって、いちちゃん抜けたらどうなるの?『ガールテット』とか……っ?」
「いや、違う子が入ったから『クイーンテット』のまま。そもそも、パーティー名はそんな簡単に変えられない」
ちょっと上手い事言えた気がして笑いそうになったけど、いちちゃんとモモは真剣な顔をしている。
がっつり滑ってしまい、ちょっと凹む。冷静なツッコミ入ったし。
「はい!『一華桃千』はどうですか?一騎当千みたいな!」
「私が出過ぎ。却下」
「そんなっ」
モモの意見は割とセンスも良く、モチーフが分かりやすいのだが、ガッツリ自分の名前が入っているのはいちちゃんの沖に召さなかったらしい。モモを全肯定する訳じゃないんだね。
それに、もうひとつモモの提案には問題があった。
「これから先もし新しい人が入ったら、俺たち3人の名前だけもじってるパーティー名は居づらいと思うよ」
「え?この3人でパーティー完成じゃないんですか?」
「ううん。モモちゃん、この3人だと補助スキル持ちがいないから、深い階層にはいけない」
「そう。それもこの後話そうと思ってたんだよね」
さすがはガッツリ有名なパーティーに居ただけはあり、問題点はちゃんと把握していた。そのうえでパーティー名の決定を優先したのね?
まぁ、マイペースないちちゃんぽさはある。
「補助スキル……そういえば、一華先輩のパーティーにもいましたね」
「うん。補助スキル無しで安全に行けるところなんて、精々5階層そこそこが限界。それ以上は、大抵ちょっと油断するだけでも大怪我じゃ済まなくなる」
「ひえぇ……じゃあ探さなきゃですね!……でも、私のスキルを話してもよくて、補助スキルを持っているフリーの攻略者って……いますかね?」
「モモのスキルを考えると、口の軽いような人は問題があるからね」
そもそもそんな奴をパーティーに入れたくないところはある。
「少なくとも私の知り合いにはいなくて……一華先輩や千花さんはどうですか?」
「私もいない」
「知ってる人はひとりいるけど……」
「誰?女の子?」
「ほら、いちちゃんも知ってるでしょ?俺のじいちゃんの、パーティーメンバーのひ孫さん」
「……ああ。いたね、そんな子も。話したことないけど」
そう。1人だけ、補助スキルを持っている秘密を共有できそうな知り合いはいるのだ。
だが少し問題がある。
「唐金十造のパーティーメンバー?どの方ですか?」
「日向 木蓮という爺さんで……まぁもう結構前に亡くなってるんだけど、知ってる?」
「日向木蓮!知ってますよ、補助スキルの使い手ですよね。英雄と呼ばれるようになった唐金十造が、手ずからパーティーに誘った人で、武術の達人。純粋な組手では終ぞ唐金十造も敵わなかったとか!日向流と名付けられた武術を誰でも習えるように私財を投じて道場を作り、ダンジョンの魔物に対抗するための体運びを教えていたんですよね!ああ、名言も覚えています!『極まりし心こそが生存の秘奥なり』……痺れますよね!ああでも、愛妻家の一面があって家の中では……あ、ごめんなさい……」
「い、いや……よく知ってるんだね……」
「……本で読んだことがあるます……」
変な敬語になってますよ。読んだことがある程度じゃ済まないほど知ってるし。
まぁ概ねモモの言った通り、じいちゃんのパーティーで補助スキルを担当していた人物である。そんな人のひ孫も補助スキル持ち。スキルは遺伝しないのが通説だが、やはり英雄のパーティーメンバーの血筋なだけあって期待はされていたし、本人もダンジョンに憧れを持っていた。
それで、問題と言うのが。
「でも、その人って、多分まだ未成年でしょ」
「そうなんだよ。葵は誕生日がまだだからね」
「アオイ……?」
「あれ、いちちゃん、名前も知らなかったんだっけ?」
「……しってる」
どういう反応?
日向 葵、17歳。
ダンジョンに入るための攻略者証は、18歳にならないと取得できない。自動車免許と同じで事前に専門機関にて取得条件を満たすことは可能なので、誕生日を迎えたらすぐパーティーに加入できる。
勿論、本人にその意思があれば、の話だが……そこいらの知らない人を入れるよりは圧倒的に信頼できるだろう。
すぐパーティーに入れられないというのが問題点だ。
「その……葵さん?は攻略者を目指しているんですか?」
「うーん、最近はあんまりそういう話してないけど、小さい時は目指すって言ってたね」
子供の夢は移り変わるもの。最近は会っても他愛のない話ばかりなので、今も目指しているのかはわからない。
「今日って公立高校は休みかな?」
「多分?夏休みだと思いますけど」
「あ、そっか。懐かしいなぁ、夏休み」
俺たちが高校生だったのってもう6年も前なんだよな……うっ、頭が。
「とりあえずメッセージだけ入れてみるよ。……ちなみに、モモはこの子入れるってなっても大丈夫?」
「?はい。私は一華先輩がいいなら大丈夫ですよ」
「……とりあえず、まずは会ってお話をしないと、なんとも言えない」
「そうだよね。とりあえず今日話できるか聞いてみるよ」
あれ、意外といちちゃん側の心証が良くない?
まぁ、モモのスキルはかなり特別なものだから、慎重になっているのだろう。話せばわかると思う。
メッセージアプリを開いて、葵にメッセージを送る。内容は……とりあえず「今電話できる?」と送っておこう。
……送って3秒で既読がついた。と思ったら電話がかかってきた。暇だったのかな。
「あ、もしもし?葵?」
『千花兄ぃ?ど、どうしたの?』
「あー……ちょっと話があって。今日俺の家に来られる?」
『い、は、わ、家?!ち、ちょっとま、あ……』
ガシャン、という何かが割れる音が聞こえた。
何してんだ。
「大丈夫?」
『だ、大丈夫!今からでもいい!?』
「うん。用件なんだけど……」
『わかった!すぐ準備する!』
「……あ、切れた」
葵は普段から落ち着きのない子ではあるけど、今日は何か慌てている様子だった。
何か用事があったのかな。そっちを優先してくれてもいいんだけど……まぁ、来てくれるならそれに越したことはない。
とりあえず、到着するまでみんなでパーティーの名前を考えるか?




